メディアグランプリ

シャクレる甥っ子


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記事:yuko (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私の甥っ子は現在5歳。
只今、絶賛溺愛中。
 
欲目を考慮しても、いわゆる「イケメンくん」だ。赤ちゃんの頃から整った顔をしていた。
 
ただひとつ気掛かりなことは、父親の顎が若干シャクレていること。
いずれ影響しないものかと、姉はひそかにヒヤヒヤしていた。
眠っている彼の顎を「引っ込め~引っ込め~」と、それとなく指で押してみたりしていたものだ。(父親の居ないところで……)
 
そして、有難いことに、以降その顎が出てくることはなく、整った顔で彼は成長した。(良かった!)
 
赤ちゃんの頃から、外に出れば「イケメンくんね~」と誰もが言った。スーパーでは、おばさまからの脚光を浴び、エレベーターの中では、女子高生の心を鷲掴みにした。
 
私は、まるで彼が自分の子供かのように、鼻が高かった。自慢だった。
その証拠に、まだオムツが取れない頃から、母親を残し2人でよく出掛けた。
私の友達が子連れで集まるバーベキューにも連れて行ったし、公共施設のイベントプールでも遊ばせた。
どこに行っても、圧倒的に可愛いのだ。イケメンなのだ。
 
あんまり言い過ぎると、教育上良くないかと思いつつ、本人にも「可愛い、カッコイイ」と伝え続けていた。
おかげで(そのせいで)、現在彼は、「ぼく、保育園で一番あしが長いの」と言う。
 
言い忘れていたが、両親共に長身なので、必然的に彼も背が高い。
周りの子に比べて、頭一つ分大きい。
 
このままでは、ナルシストの道を進ませてしまうかもしれない。
他でもない、私自身が、そうさせてしまうかもしれない……。
 
こんな叔母バカぶりが激しい私は、彼が4歳の頃、「経験」と称して、キッズモデルオーディションを受けさせたことがある。
カメラテストとして、プロのカメラマンの撮影料が4000円程かかり、芸能養成所への入会を促す要素が満載のものではあった。しかし、彼のポテンシャルがどれほどのものか、また客観的にイケメン具合を評価してもらいたいという思いから応募を決めた。
 
おそらく全員が受かるであろう書類選考を軽く通過し、カメラテストの日を迎えた。
 
彼には事前に、心意気を確認していた。
「ぼく、モデルやってみたい!」と、広告に載っている笑顔の子供達を見ながら、彼は言った。
それならば、無理強いではない、大丈夫だと自分に言い聞かせた。
 
当日も、嫌がることなく会場に着いた。
 
撮影会場の廊下には、少し着飾った子供たちが列をなしていた。
「しまった! ヘアワックスを忘れた!!」
美容室帰りの、ワックスをつけた髪型が最高にカッコイイのに!!
不覚だった。完全なる準備不足だ。
 
いや、彼のポテンシャルは、ワックスごときに負けてはいない。
まだやれることがあるはず! と、持ち合わせていた、唯一テクスチャーの似たハンドクリームで、若干の毛束感だけは演出してみた。
 
「よし! これで晴れ舞台を迎えられる!」
 
リラックスして外の電車を眺める彼を横目に、私は意気揚々と順番を待った。
 
名前が呼ばれる。
カメラマンの若いお兄さんと軽く挨拶を交わし、いよいよ彼にカメラと照明が向けられた。
 
「カシャ カシャ」
 
心地よく、シャッターが切られる。
 
心地よく……
 
「…………」
 
何かがおかしい。
 
彼の様子がおかしい。
いつもの彼ではない。
イケメンでない。
 
何故か。
 
「……顎が出てる」隣で姉が言った。
 
そう、彼の顎が完全にシャクレているのだ!!
 
緊張のせいか、かしこまっているせいか、いくら注意しても、彼の顎が引っ込むことはない。
 
もう、笑いが止まらなかった。
あんなに気合いを入れてきたのに! 鼻高々で来たのに!
シャクレた顔に残るのは、愛嬌という可愛さと、面白さだけだ。
 
カメラマンも、気を使いつつ、肩を震わせているのが分かる。
もう遠慮なく笑ってくれ!
 
普段の鼻血が出そうなスマイルを引き出そうと、大人3人で散々手を尽くしたが、彼は頑なだった。
そろそろ諦め時だ。
モデルになることが目的ではない。そもそも、「経験」をさせたかっただけだ。
彼の好きにさせよう。
 
撮影は終了した。
笑ってしまったことをフォローしつつ、彼に感想を尋ねた。
 
「楽しかったよ!」
 
きっと、それだけで良かった。
モデルにする気なんてない。……いや、あわよくば、という思いはあったかもしれない。
 
だが、良い経験をさせてもらった。
彼だけでなく、私達も。
 
良いモノを持っていても、それを然るべきところで発揮できなければ意味がない。
厳しい世界が現実だ。
オリンピックだってそうではないか。
普段どれだけ努力し、成果を残していても、本番でそれを出せなければ評価されない。
普段どれだけ可愛く、イケメンであっても、然るべきところでは評価されないのだ。
 
彼が成長し、再び「モデルやってみたい!」と、自ら言い出すまでは、そっとしておこう。
今はまだ、その時ではない。
彼が決める。
 
平和な日常。
保育園の帰り、彼と色々な話をする。
時折、責任を感じることがある。彼の将来が心配になることがある。
 
「フラミンゴって、片足で立つんだよ」
「そうなんだ~、フラミンゴの脚はとっても長いよね」
 
「うん、僕みたいにね!」
 
 
 
 
***
 
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2020-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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