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メディアグランプリ

ストーカーが恩師になりまして


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:野崎舞(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
どうやって逃げよう……。
スマホを持つ手が汗ばんでいく。
走って逃げるか? いや、相手は自転車だ。追いつかれる。それに余計な刺激を与えては危険かもしれない。
頭の中が恐怖と焦燥感に支配され、思考力が麻痺していくのがわかった。
 
自宅までの帰り道のことだ。
駅から徒歩15分程度と少し遠いが、防犯対策に痴漢撃退ブザーを鞄に忍ばせ、もちろんスマホも持ち歩いている。
大通り沿いで街頭もあるから、深夜でも危険はないだろうと油断して歩いていた。
 
気付いたら、その男は私の斜め後ろにいた。
私は徒歩、男は自転車。
それなのにピタリと私のスピードに合わせてついてくる。
突如降ってかかったその状況に、体が強張った。
 
チラリと男を見る。
顔は見えないが、灰色のレインポンチョを着てフードを深く被っていた。
雨など降っていただろうか? いや、今日は一日中晴れていたはずだ。
 
何のために顔を隠している?
そして、なぜついてくる?
 
通り魔、誘拐、ストーカー……。頭の中で物騒な単語がぐるぐると巡る。
いや、単に自転車をこぐスピードが遅いだけかもしれない。とにかく、刺激しないように距離を取らなくては。
 
スピードアップして追いかけられては堪らない。私は逆に歩くスピードをおとした。
自転車をこぐのが難しいほどの、スローペースにしたのだ。
 
男はすぐに私を追い抜かした。
なんだ、極端に遅い自転車だったのか。
ほっとする。……が、安堵感は束の間だった。
 
男はなんと、スローダウンしたのだ。
 
遅すぎてバランスがとりにくいのだろう。
フラフラしながら自転車でついてくる。
位置は先程と同じ斜め後ろ。
 
決定的だ……。
確実に狙われている!!
 
どうすればこの男は去っていくだろう?
もしくは、撒く方法を考えなくては。
 
ちょうど手にスマホを持っていた。真っ先に考えたのは家族への電話である。
いや、しかしピッタリ後ろにいるのだ。
「不審者に追いかけられているから、助けて」と言ったら確実に聞かれるだろう。
逆上して襲われたら、家族が来る前に被害に遭いかねない。
 
ダメだ、電話はダメだ!
折角持っているのに使えないなんて!!
 
ふと前を見ると、道端にスーツを着た男が立っていた。
ひょっとして、話しかけたら助けてもらえるかもしれない!!
 
そう考えたがすぐに思いとどまった。
明らかに……怪しくないだろうか?
家に帰るでもなく、どこへ行くでもなく、ただ、立っているのだ。
しかも深夜に!
 
この人も仲間だったらどうしよう!!?
 
この世の全てに対して疑心暗鬼になっていたのだろう。
不安が急激に増幅し、ただ道端で立っている人間にすら恐怖を覚えた。
 
全神経をスーツ男に向け、警戒しながら横を通り過ぎる。
そしてその斜め後ろを、灰色の男が自転車にまたがり、よたよたしながらついてくる。
客観的に見ると奇妙な光景だが、その時はそんなことを考える余裕すらない。
息がとまるほどの緊張と、長い長い一瞬。
 
スーツ男を無事通過。仲間じゃなかったのか……。
あぁ! それなら助けてと言えばよかったのに!
なんてバカなのだろう私は!!
 
相変わらず灰色の男は離れない。
こちらもただ、歩くしかない。
 
スーツ男からだんだん離れていくが、戻ることもできなかった。
絶望感に打ちひしがれ、焦燥感が募っていく。
 
その時だ。
灰色の男が動いた。
 
「ねぇ、あんた!」
「っっ、ひぇ?!!」
突如として投げかけられた言葉に、リアクションは声にならない。
 
男はおもむろに左を指差した。
「俺もう、こっち行くけど。ひとりで帰れる?」
「……??! えっ? はは、はい!!」
「そう? じゃあね!! 気をつけて!」
男は去って行った。
 
ぽかーん。
開いた口が塞がらないとはこのことである。
 
通り魔、誘拐、ストーカー……ではなく、護衛?
だったのか?! 本当に?!!
 
そんなことあるだろうか。
男の真意は未だに知り得ないし、知りようもない。
 
だが、私はこの一件で知り得たことがある。
それは、実際の犯罪は遭ってみて初めてわかる、ということ。
 
スマホで助けを呼べばいい、は甘い。
痴漢撃退ベルは持っていても、周りに反応してくれる人がいなければ無意味だ。
防犯対策グッズを持っていれば安心などという考えは、全く通用しないことを知った。
 
それから私は、夜道で四方に気を配るようになった。
後ろから近づく人には細心の注意を払い、近づかれる前に走って距離をあけるようにしている。またすれ違う人、前後を歩く人の性別、年齢、様相も確認する。少しでも危険を感じたらすぐに距離をとるためだ。
最近ではヒールの高い靴を履かなくなり、スニーカーなど機動力のある服装をするようになった。
 
考えすぎと思うかもしれないが、被害に遭ってからでは遅いのである。
もちろん、危機に直面した際に対応するための手段を持っておくことも必要だ。
だが、状況によっては使えないことを考慮しておくべきである。
結局は「犯罪に遭う前に、全力で予防する」 が最も重要なのだ。
 
あの灰色の男は何者だったのだろう。
去り際に自分の行為を正当化した、犯罪者紛いの即席ストーカーだったのかもしれない。
顔を隠して面白半分でついてきた、愉快犯だったのかもしれない。
 
だが男は私に、身を守るために大切なことを教えてくれた。
ある意味、体を張って私の認識と行動を変えてくれた恩師でもあるのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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