メディアグランプリ

麻薬の密売人に間違えられた日

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:AI(ライティングゼミ平日コース)
 
 
“Show me your passport and your money, please. ”
訳:パスポートと所持金見せなさい!
 
ベルギーを旅していた時、突然、背後からマッチョで強面の男が話しかけてきた。この言葉を聞いた瞬間、
 
『やばい、この男、偽物の警官だ! パスポート盗まれる!!』
 
男に出会う数時間前、私はガイドブックを熟読していた。そこには“偽物の警官を装ってパスポートを盗む悪党がいる”と記載されていた。パスポートを盗まれてしまっては楽しみにしていた旅行が出来なくなってしまう……この瞬間、男とのタイトルマッチのゴングが鳴り響いた。
 
2015年5月より、語学留学のためイギリスに滞在していた。10月に3週間の学校の休暇を利用し、ベルギーを皮切りにヨーロッパ周遊の旅に出かけた。ベルギー滞在3日目、そこで事件が起きた。この日、アニメ「フランダースの犬」の舞台としても有名なアントワープにいた。アニメ最終回の舞台となった大聖堂は実在した。大聖堂の扉を開くと、そこは美術館を思わせるほどの美しい内装で、壁面にはたくさんの絵画が飾られていた。ネロがずっと見たかった絵画も見ることできた。1時間ほど大聖堂を堪能し、街の散策に出かけた。
 
昔ながらの建物が続く石畳の道を歩いていると、向かい側から一人の男性が声をかけてきた。彼はスペインからの旅行者で、道に迷ってしまったようだ。そこで、私が持っていた地図で彼の目的地を探した。
 
その時だった!
背後から、マッチョで背の高い男が声をかけてきた。現・ロシアの大統領に顔が似ていて、少し顔付きが怖かった。
“Hello! Show me your passport and your money, please.“
(訳:パスポートと所持金見せなさい!)
 
いきなり、男に声をかけられたので、スペイン人と私はお互いの顔を見つめあう。その時、私はガイドブックに記載されていた内容を思い出す。
 
『こいつ、きっと偽警官だ! 現金も見せろってお金も盗む気なの!? しかも警官と言いながら、制服も着てないし、絶対に偽物じゃん!!』
 
一気に不信感が募った。偽警官としか思わなかった。同じく、スペイン人も疑いの目で男を見ていた。私たちが不審に思っていることを感じ取ったのか、男は警察手帳を見せた。私はその警察手帳でさえも、偽造したものだと思った。
 
私たちは男に、旅行者であることを伝えた。それでも男はパスポートと現金の提示を求めた。私は警官になぜ見せる必要があるのかと尋ねた。すると、
「実はさっきから君たちの行動を見ていたんだよ。二人ともベルギー人じゃなさそうだし、路地裏で密会しているように見えた」
と男は言った。確かに、私たちがいた場所は、賑やかな通りから少し離れていた。私は男にスペイン人が道に迷っていたから、地図で彼の目的地を探していたことを伝えた。それでも、提示を求めた。私は、男になぜ所持金まで見せるのか問いただした。
「人影のない路地裏で外国人が麻薬の売買をすることがあるんだよ。そいつらは大金を所持している。あなたたちが麻薬の密売人でないことが証明出来たら、すぐに開放するから!」
 
……
 
男は、私たちが麻薬の密売人と睨んでいたのだ……
 
『密売人って……海外まで来てそんな危険なことするかっ!』
と、叫びたくなったが、
『いや、これは絶対にパスポートとお金を盗むための常とう手段だろう…』
と、思った。
次の瞬間、隣にいたスペイン人がパスポートと現金を見せ始めたのだ……
彼のパスポートが盗られてしまうと思ったが、彼は何も盗られず、そのまま解放された。
『これは私を安心させるための心理的作戦なのか?それともスペイン人もなかなかのマッチョだったし、もみ合いにでもなったら負けると思ったから開放したのか!?』
と、頭の中がぐちゃぐちゃになった。それでも、私は頑なにパスポートを見せなかった。
スペイン人がいなくなって、5分ほど経過しただろうか。私は男に、
「このガイドブックに偽物の警官を装ってパスポートを盗む悪党がいると書いてある。わたしはあなたが警官だと思えない。あなたが警官だという証拠はありますか!?」
と言い放った。すると、男は再び警察手帳を見せ、
 
「何度言ったらわかるんだ!?俺は警官だ。そんなに見せないなら警察署に連行するぞ!」
 
と、さすがに切れ出した。怒りで顔が真っ赤になった。
『どこかに連行されても困るけど、でもパスポート盗られるのも嫌だ……でもでも、男がもっと切れだしたらそれもそれで怖い……』
 
困り果てた私は、しぶしぶパスポートと現金を見せることにした……すると男は、
「クレジットカードも見せなさい!」
と言ってきた。スペイン人はカードの提示無かったのになんで私だけ……
カメラを除いて、私が所持していた金目のものは全て男の手に渡った…これで男が逃げだしたら、ただの一文無しになる……私は、男が逃げるのを阻止しようと、靴紐を結びなおし走る体制を整えようとした。その瞬間、男が言った。
 
「あなたは日本からの旅行客ね! 路地裏は昼間でも危ない時があるから気を付けてね!でも、ガイドブックに偽警官のことが書いてあったら、誰でも疑うよね(笑)ビックリさせてごめんね。ではベルギーの旅行を楽しんでね!」
 
……
 
なんと、彼は本物の警官だった……さっきまで怒りで顔がこわばっていたのに一瞬にし
て笑顔に変わった。彼は私の無礼を怒ることもなく、その場を去って行った。私は、本物
の警官に向かって口答えしてしまっていた……恥ずかしさで顔が真っ赤になった。彼の忠
告を守り、路地裏や人影のない場所はいかないようにしたそのおかげで3週間のヨーロ
ッパの旅は無事に終わった。旅の終わりに訪れたイタリアで一人の日本人マダムと出会う。
マダムにベルギーでの出来事を伝えると、
「あなたは本物の警官で良かったわね。私も同じように警官だという男に声をかけられて、パスポートを盗まれたわ」
 
と、マダム……
誰が善人で誰が悪者かわからなくなった……ただ、強く感じたことは、
“後悔しない行動を取ること”だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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