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後悔先立たず 〜人間ドックの要再検査を半年以上放置しました〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:加藤里加子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「検査結果は、ご家族も一緒に聞いて下さい」
「え?」
 
私は一瞬、固まった。
つい先日、病院の乳腺外科。MRI検査と組織検査、その結果を聞くための診療の予約を入れるため、スケジュール帳片手に調整している時のことだ。
 
まだ検査をやっていないのに、どうして家族の同席が必要なんだ?
一応、全員、そういうことになっているのだろうか?
いや、「その可能性」が高いから、家族を呼べと言ってるんじゃないのか?
 
そもそも、この日、検査技師が超音波検査を行なった後、担当医が詳細に調べた上で、さらに検査が必要ということになったのだ。つまり、「その可能性」が高いのだろう。
 
私はそう考えた。自分でも意外なほど、冷静だった。
 
私は、病院スタッフに携帯電話を使ってもいいか確認して、その場で、仕事中の夫に電話した。夫は「今すぐ病院に行く」くらいの勢いだったが、組織を採取してから結果が出るまでは2週間かかる。宙ぶらりんで待たされる時間は、結構長い。
 
夫の予定を押さえ、検査と診察の予約を取って、私は帰宅した。
リビングでコーヒーを飲み、ぼんやりと周囲を見回す。
 
部屋が散らかっている。最近忙しかったからあまり掃除していない。入院なんてことになる前に、この辺を片付けなきゃダメだ。夫は家事全般やってくれる人だけど、掃除だけは何故か苦手だ。あ、その前に、作成中の遺書を完成させなきゃ。うちは事実婚だから、相続のことはちゃんとしておかないと。
 
事務的なことを考えているうちに、いつの間にか冷静ではなくなっている自分に気づく。心の中、じわじわと、何か黒いものが染み出してきた。
 
それは、後悔。
 
「至急、再検査を要する」という人間ドックの結果が届いたのは、去年の夏だ。半年以上、私はそれを放置していた。
 
私は昔、乳腺線維腺腫で2回、4箇所の切除手術を経験している。全て良性だった。その後も何度か検診で指摘されて再検査を受けたが、全て「問題なし」で済んでいた。
 
今回も、そんなもんだろうと思っていた。
 
先週、右の胸が張るような痛みを感じた。
ネットでググってみたが、痛みを伴う症状は深刻な病気の可能性は低いという。だが、今まで感じたことがないほどの痛みだ。放っておくのも怖い。いずれにしても、長らく放置していた人間ドックの「再検査」も、ちゃんとやらなくては……。
 
そんな訳で、私はようやく乳腺外科を受診した。
 
超音波検査の結果、人間ドックで指摘されたように、左の乳腺にしこりが見つかった。女性担当医が触診しても分からなかったほど小さいしこりだが、場所が今までの腫瘍とは違う。乳腺の中だ。
 
担当医が超音波検査をやっている最中、姿勢のせいか、右胸の痛みが強くなってきた。今問題になっているのは左胸だが、右胸の痛みも気になる。私は先生に言った。
 
「右の胸がちょっと痛いんですけど……」
「それ、全然問題ないから」
 
即答というか、吐き捨てるような口調だった。
 
「この深刻な時に、何くだらないこと言ってんの」
 
私の中で、女性担当医の言葉がそんな風に脳内変換された。
右胸の痛みなんか、気にしている場合じゃない。それくらい、左胸のしこりは深刻なのだ。そういうことなのだろう。
 
涙が出てくる。
 
バカだ、バカだ、バカだ、バカだ、私はバカだ。
今までは、すぐに再検査を受けていたのに、今回に限って何故放置したのだろう。
 
「要再検査」は狼少年ではない。わずかであっても可能性があるから、「要再検査」なのだ。悪ふざけで「狼がくるぞ」と叫ぶ少年を見るような目で、「またか」なんて思ってはいけなかったのだ。
 
人生をやり直したいセーブポイントなんて、私にはない。
後悔するような生き方はしていない。
 
「コーヒーが冷めないうちに」のような、「もしも人生をやり直せたら」的な映画を見るたびに、私はそう思った。「失敗した」と思う場面は数多くあるが、そこに戻ってやり直したくなるほどの後悔はない。むしろ、その後の人生をチャラにしてしまうことの方が嫌だ。
 
でも、今回ばかりは、去年の夏に戻りたい。
人間ドックの結果を受け取ったら、すぐ再検査するんだ。結果がどう転んでも、こんな後悔だけはしないはずだ。
 
夕方、いつもより早く夫が帰宅した。
その頃には、私の気分も少しは浮上していたが、涙の跡が残っていたのだろうか。帰宅するなり、夫は私をぎゅっと抱きしめた。
 
一人で泣かなくていいから
一緒に、やることを一つ一つ確実にやっていこう
 
夫は、「その可能性」を前提に言葉を繰り出した。
安易な気休めは言わない。
すぐに再検査を受けさせていればよかったと、後悔を口にすることもない。
そういう無意味なことは一切しない、現実主義者なのだ。この人は。
 
後悔していてもいいことはない。むしろ、精神衛生上マイナスだ。免疫力だって落ちる。
 
人生に、やり直しができるセーブポイントはないのだから、前向きに、やるべきことをやればいいのだ。「去年の夏に戻りたい」なんて、ちょっとでも考えた自分を、私は切り捨てる。
 
ありがとう。
気づかせてくれた夫に感謝。
そして明日、私は検査を受ける。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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