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メディアグランプリ

ノートの余白が教えてくれたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松下朋子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私の4月は、こんな予定ではなかった。斜線だらけの手帳をみてひとり落ち込む。
 
第二子の育児休業からの職場復帰を控え、ひさしぶりのひとり時間を満喫する予定だった。友人親子との台湾へのクルーズ旅行、サイトをずっとチェックしていたホテルでのアフタヌーンティ、職場復帰に向けたオフィス服のお買い物。お気に入りの手帳の4月は「やりたいこと」で溢れ、黒々としていたのだ、つい2ヶ月前までは。
 
それが今回の緊急事態宣言を受け、予定はすべてキャンセル、外出も最低限にとどめざるをえず、まさに手帳は白紙状態。命を守るためだ、仕方のないこととはいえ、斜線で消された「やりたかったこと」を見ると、ふっとため息をついてしまう。
 
この情熱を、エネルギーをどこへ向けたらよいのか。私のだした結論は「子どもたちとの時間を全力で楽しもう!」。保育園も休園となり、毎日を家で過ごすことになった5歳になる長女と毎日ノートに「じかんわり」を作り、体操にドリルワーク、ピアノの練習に散歩、と保育園並みのタイムスケジュールを設定。ウェブ上に溢れる「おうち時間活用術」のまとめを見るたびに、そして保育園の友人からのラインでアップデートされる充実した自宅でのイベントを見るたびに、我が家も負けじ、と「じかんわり」は日に日に黒々となってくる。時計を見ながら「はい、次はコレ!!」と娘を急かすこと数日。夕飯の席で娘がつぶやいた一言が私を激怒させた。
 
「きょうは、楽しくなかった」
 
5歳児の言うことだ。大らかに聞き流せばよいだけ……しかしながら、私は1日を充実させようとこんなに努力しているのに、という気持ちが先立ち、売り言葉に買い言葉。主人に諌められても不穏な気分を翌日までひきずり、「じかんわり」も書かず迎えた次の朝のことである。午前中、わざとらしく新聞を広げて様子見をする私の傍で、長女が動き始めた。
 
おもちゃ棚から画用紙を取り出し、クレヨンでお絵描き。子どもらしい、鮮やかな色使いに思わず目を奪われる。珈琲を飲みながら横目で見ていると、次は覚えたてのひらがなで何やら作文中。ひっくりかえった「を」やよじれた「あ」が可愛らしく、気づけばふっと微笑んでいる自分に驚く。
 
よし、今日は何にも決めずやってみよう。
 
お昼は、ミートソーススパゲティはどう?ときくと、満面の笑み。ソースづくりから……と玉ねぎを取り出すと「かわ、むけるよ!ほいくえんでやった!」と意欲満々。エプロンと三角巾を身につけて玉ねぎに向かう姿は真剣そのもの。そういえば保育園からのお便りに調理さんを手伝ったことが書いてあったなぁとぼんやり思い返しているうちに、ガス台のル・クルーゼからは美味しそうなソースの香りがただよってくる。
 
次女の昼寝の合間に取り込んだ洗濯物をみれば、「はるがきた」と歌を口ずさみながら、いつの間にか自分のパジャマをしっかりたたんでいる。「ほいくえんではね、じぶんのかごに、いれるの。こうやってたたむときれいでしょ?」と得意げに教えてくれる眼差し。あれ、いつからそんなことできていたの、と心地よい驚きとともに、こちらも思わず笑顔になる。
 
まったく、今日という日は、なんという日だ。思いもよらなかった子どもの成長を、1日でいくつも見ることになろうとは。我が子ながら、5歳になるとこんなにもできることが増えるのか……とその成長が眩しい。何より彼女は、1日を自分なりに楽しむ術を、すでに手に入れていたのだ。
 
好きなこと、楽しいと思える時間をたくさん見つけてほしい。人生を楽しめる人になってほしい。子どもたちが生まれた時の気持ちがよみがえってくる。
 
そうきっと、私は空白の時間が怖かったのだ。2人の娘を育てながらの毎日、仕事に、育児に、家事に追われ、いつの間にか効率よく1日を過ごすことばかりを考えていた。日ごと黒々となる「じかんわり」は娘のためではなく、私自身を安心させるためのものになっていたのだと、気づかされる。
 
この日以来、「じかんわり」ノートは余白を残したまま。毎朝、朝食をとりながら今日はどんな1日にしようと娘と話しながら決めている。代わりに「えにっき」をつけてみることにした。明るい色使いの日、怪獣が登場する日。子どもたちが寝静まった後に、今日はどんなことが彼女の心に残ったのか、想像しながらノートを開く時間がたまらなく楽しい。
 
この自粛期間はいつまで続くのか、現状では未来を見通せる人は多くない。まずは今を楽しみながら健やかに、元気に過ごすこと。たくさん笑うこと。ふっと立ち止まって見えてきたのは、こんなシンプルな暮らし。ああでも、これってとても大切なこと。
 
気づけばここ数日、手帳を開いていない。久しぶりに日記をつけ始めている。ノートの余白がもたらしてくれる、彩りゆたかな時間をずっと覚えていたいから。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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