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ラブストーリー・イン・中本


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:まいける(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 

初恋というと、甘酸っぱいレモンとか、ほろ苦いチョコだとか、よく味覚で表現されることがあると思う。
ふと、僕にとって初恋はどんな味なのかと考えてみたら、どうも「激辛の蒙古タンメン中本」が一番しっくりくる。
別にウケを狙ったり奇をてらったりをしたわけではなく、あの頃を思い返すと僕は「あまい」とか、「にがい」とかではなく、「ガッハッッ!!」とむせ返すような気分になるので、この表現がぴったりなのだ。
そのくらい、僕にとってパンチの効いた経験だった。
思春期の僕は、「人を簡単に好きにならないやつの方が格好いい」的なことを謳っている痛い人間だった。小中学校の頃なんかは友達が恋バナばかりしているのを嘲笑していたか。
そんな痛々しい僕の、初恋の思い出だ。
 

その子に出会ったのは高校二年生の春。
名前はMさん。地元名古屋の同じ高校に通っていた。
僕とMさんは隣のクラスで、新学年になって初めての体育の授業で一緒になり僕らは出会った。というよりは僕が一方的に彼女を見つけた形になるのだが、その瞬間……。
「ハバネロお待ち――!!」
まるで何者かがそう叫びながら、僕の口の中に約1㎏のハバネロをねじ込んできたような感覚にとらわれた。
毛穴一つひとつがワッと開き、汗が噴き出していく。
細胞が分裂再生し、今までの自分とは全く違う自分に生まれ変わっていく気分だった。
何がそうさせたのだろう。全てだ。彼女のすべてが僕のストライクゾーンど真ん中だったのだ。
長くてフワフワした少し明るい髪。クリッとした目と笑うと大きく開く口。150㎝ほどの背丈だけど、ピョンピョン動き回る元気な姿。
一瞬で、これが恋なのだと悟った。
僕が初めて抱いた憧れの情動は、日に日に炎のように燃え上がって大きくなっていく。まるで、一口食べただけで悶えるような辛さが口の中で無限に広がっていく、激辛タンメンのように。
 

僕は猛烈に恋をした。
共通の友人を通じてMさんを紹介してもらい、メルアドを手に入れた。
メールが途切れないように全神経を集中させてじりじりと距離を縮め、仲良くなった頃合いを見計らってデートに誘った。
初めてのデートは映画館。内容は子供向けだったが盛り上がるシーンがあると隣で彼女が笑っている。耳元で「今の面白かったね~」なんて囁かれたら、正気を失いそうだ。
オムライス屋で夜ご飯。美味しそうに食べるMさんを見て食べるのも忘れてしまう。
人生において、最高に幸せな瞬間だった。
初めての恋。こんなにキラキラした気持ちになれるとは。
でも……。
全然足りない、もっと彼女が欲しい!
もっと特別な時間を過ごして、特別な関係になりたい。
僕は初めて味わう刺激に夢中になり、吹き出る汗や辛さも忘れて「もっと、もっと!」とそれを求めた。
 

そして告白の時は来た。
3年生になるクラス替えで、僕らは同じクラスになった。
これは運命だ。
独断と偏見に満ちた仲良しパラメーターがほぼMAXを示していると確信し、僕は満を持してある日の帰りに彼女を呼び止め、想いを告げた。
全然、ダメだった。答えはNO。
死んだ。めちゃくちゃ泣いた。親の目も気にせず家でずっと泣いていた。
あんなに仲良かったのに、なぜなのか。
イケメンが良かったのか、友達止まりの存在ということなのか。
むしろそんな理由であってほしかった。
追い打ちをかけるように一本の電話が鳴る。
まるで誰かから聞いたかのように、Mさんと僕を繋いでくれた友人からだった。
「今日、告白したでしょ。ごめんね言ってなくて。実はあの子、同じ中学の彼氏がいるの……」
もう死に狂った。さらに泣いて枯れ果てて、逆に狂い咲いた。
嘘でしょ。それは早く言おうよ。「君があまりにも幸せそうで、言えなかった……」じゃない。君もだよMさん。彼氏がいるのに呑気に俺と映画デートを楽しんでどうする。
全てに裏切られた絶望感と、好きな人と結ばれない喪失感。
好きになればなるほど、失恋したときの反動は大きい。
つらくて、痛かった。吐きそうになるほどの苦痛。
想いが通じないのってこんなに辛いんだ。
ああ、しんどいなこれは。
その刺激に惹かれてつい口にしてみた初恋は、思った以上に激辛で痛みを伴った。
 

一晩中悶えていた。彼女のことを考えながら。
これから、どうしよう。やっぱり気まずくなるのだろうか。
こんなに好きなのに仲悪くなるのは嫌だな。
いやそもそも、僕はMさんのこと以外好きになれるか。
騙された感はあるが、あの子に彼氏がいるか確認はしなかった。僕にも責任があるんじゃないか。
今はまだダメだけど、脈があるから彼氏のことを秘密にしてくれているのかもしれない。
もう一回だ。諦めるのはまだ早い。
考えたあげくこんな結論に至った。今思い返すと謎理論だが、そのときはそう信じて追いかけ続けるしかなかった。
痛みが閾値を超えて、麻痺したんだと思う。
むしろ何度でも痛みを味わいたい! そんな狂気に満ちた衝動に駆られた僕は止まらなかった。
 

結局、僕は次の日からもMさんにゴリゴリにアプローチしていった。
彼女も最初はポカン、としていたが、吹っ切れた自分の態度がよかったのか変わらず仲良く接してくれた。むしろフラれる前よりも仲良くなっていった。
誕生日にはプレゼントをあげたし、逆にプレゼントしてくれた。受験生だったので一緒に勉強して、夜中に泣きじゃくる彼女を電話で一晩中励ましたり。バレンタインチョコは、複雑な気持ちだけど美味しくいただいた。
僕は卒業まで合計4回告白した。そのすべて、同じくフラれてしまったのだが。
「君が好き。たとえ君と付き合えなくても、君と楽しくすごしたい。ただ君に喜んでもらいたい」
結果はダメだったけど、振り切った僕の想いを彼女はまっすぐに受け取って、そして返してくれた。
実は、卒業間際の4回目の告白だけそれまでとは少し違った。
Mさんに彼氏がいることをずっと知っていたこと、そのうえで君のことが諦められず奪おうとしていたこと、全てを打ち明けた。
彼女はバツが悪そうにしながらも本当のことを話してくれた。
彼氏がいたがすでに疎遠だったので内緒にしてしまっていたこと。受験期ですれ違いが多くなり今は連絡すらとっていないこと。
そして。今は僕のことを好きでいてくれていること……。
 

結局、僕らは付き合わなかった。
僕が受験に成功し上京するからというのもあるけど、長く友達以上恋人未満をやって感情も変化していた。
君が好き。でもこれからお互い新しい人生が始まるから、それを応援しあっていこう。
悲しかったし諦めきれなかったけど、遠距離で付き合ってもなんとなく続かない気がしていたからこれが一番綺麗な終わり方だと言い聞かせた。
それでも。
僕は本当に君に感謝している。君が、僕の人格や生き方までも変えてしまうほどの感動と、そして痛みを与えてくれた。
初めて人を苦しいほど好きになる気持ちを教えてくれた。
恥や体裁にとらわれず、好きなものを好きと声を大にして言い続けられる気持ちの強さをくれた。
 

本気で人を想い、死にたくなるほどの痛みに苦しんで今も脳裏に焼き付いてしまっているけど、その痛みに耐えながら何度も向き合い貪り尽したあとに残ったもの。
それはやり切ったという達成感と、全力疾走し終わった後のような爽やかな気持ちだった。
 
 
 
 

***
 
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2020-04-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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