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メディアグランプリ

すっかり忘れていて、そして思い出したこと。紙の本は読むためだけのものではなかった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松下あすか(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「だって、あっという間にいっぱいになっちゃうんだもん」
 
紙の本を諦めて電子書籍を使うようになった理由だ。
 
学生の頃までは、本は本棚に並べて楽しんでいた。好きな作家さんの作品はもちろんのこと、気に入ったイラストレーターさんが表紙や挿絵を描いていれば、即ジャケ買いをしたし、読んだことのない作家さんの作品も表紙に素敵な絵があればつい買ってしまった。
 
ハードカバーの裏表紙の色、文庫に使われている柔らかな紙の触り心地、記憶と共に手になじんでいるお気に入りのページ。思い返せば私にとっての本は、イラストや紙の感触と共にあるものだった。
 
「いつも携帯手に持ってるよね」
 
そう聞かれたことがあるが、携帯依存症ではない。携帯で本を読んでいるだけだ。電車が到着するまでの待ち時間、もちろん電車の中もだけれど、エレベーターを待っている間などのちょっとした時間に、続きが気になる本を少しでも読み進めたいのだ。バッグから携帯を探す時間が惜しい。それで、いつも手に持っている図が出来上がる。
 
小説やアニメに出てくるおじいちゃんの書斎のようなものに憧れた、いや、今でもできることならそんな空間が欲しい。部屋中の壁が本で埋まり、ふかふかの絨毯か柔らかなソファで読む。大きな窓からは木々が見え、読書するのに程よい明るさの光と心地よい風が入ってくる。
 
残念ながら現実はそうはいかなかった。読みたいだけ本を買っていたら、あっという間に家が本で埋まってしまう。一時期は、図書館を本棚の替わりにしていた。借りては返し、返してはまた借り……、住むなら図書館の隣に住みたいと思ったこともある。けれども引越しを機に図書館が遠くなってしまった。車で通えなくもない、だけどちょっと駐車場が面倒な図書館だった。とにかく狭いのだ。駐車場を思うと気が重くなり、とうとう足が遠のいてしまった。ちょうど周囲で電子書籍を読む人が増えてきたのと同じタイミングだった。
 
そうか、その手があったか。
 
電子書籍というものを早速使ってみた。何冊もの本が一度に持ち歩ける。気になる本があればいつでもどこからでも買うことができる。何なら無料で読める本もあるし、月々お金を払えば読み放題だってできる。こうしていつでも携帯を握りしめている人が出来上がった。
 
つい先日、電車の中で文庫を読む女性を見かけた。電車で本を読む人なんて久しぶりに見たなとふと表紙を見ると、知っているシリーズの最新刊。知り合いを見つけたかのように嬉しかった。
 
それ面白いですよね。
 
思わず声をかけそうになる。この本を読んでいる人ならきっといい人に違いない、なんてよくわからない勝手な想像まで膨らむ。車内ほぼ全員が携帯の画面を眺めているのをそっと見まわして思う。何を見ているか分からないけど、もしかしたら本を読んでいる人もいるのかもしれない。
 
何読んでるの?
それおもしろい?
 
そういえば、最近そんな会話をしていないなと思う。家族すら、私がどんな本を読んでいるのか知らないだろう。物理的に本が積みあがっていた時には、誰かが読んでいる本を借りることもできたし、反対におすすめすることもできた。そこから会話も広がった。
 
本屋さんをふらふらと歩きながら気になった本を手に取る。そういう選び方はネットではできない。ネットで検索するのは簡単で便利だけど、自分だけが知っている(つもりになれる)掘り出し物の本に出会うことはほぼ無い。それに、本ならどれでも電子書籍になっているわけでもない。私にも、電子書籍化してくれないかなぁ、と思い続ける作家さんがいる。そんな風に不満もあるけれど、電子書籍というデータを持ち歩くことができるようになって無限の書庫に繋がったような気がしていた。けれど、もしかしたら何か大事な物を失くしてしまっているのかもしれない。そう思うと同時に紙の感触が懐かしくなってきた。
 
本屋さんと紙の本が与えてくれるものは、ストーリーや情報だけではなかった。直接出会う楽しみはもちろんのこと、外から何を読んでいるのか分からない電子書籍と違って、人を知るきっかけとなり、自己紹介の替わりにもなる。愉しみや哀しみ、世界観を共有できるものでもある。1冊の本を仲間内で順番に読んだことも懐かしい。
 
もう読んだの?
面白かったよー。
今誰が持ってる?
ごめん、家に置いてきちゃった。
早く次貸してー。
 
電子書籍だったらまずありえないやりとりを思い出しながら考える。また、紙の本に戻ろうかな。小さな見た目で大量収納可能な、四次元本棚なんて無いだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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