悪魔が来りてピネライス
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記事:近藤泰志 (ライティング・ゼミ平日コース)
みなさんは『ピネライス』という料理をご存じだろうか。
ピネライスとは京都の某有名洋食店の名物メニューで、一度食べたら数多の老若男女を虜にしてしまうというそれは恐ろしい京都生まれの悪魔の料理なのだ。
簡単に語源から説明するとピネライスの『ピネ』とはフランスの俗語で『薄いカツ』を意味する。このピネがライスの上にのっているので『ピネライス』という名前なのだ。
「なぁんだ、カツライスのことか。大袈裟に言うなよ」
そう思われた方もいるだろう。
ところがどっこいこのピネライスはそんな単純な料理ではない。なぜならライスが白米ではなくチャーハンだ。そしてあろうことかその上からまるで金の雨をこれでもかと降らすようにカレーがかかってくる。男の好物の上位に入るであろうこの3品が一度に食べられるのだ。男の胃袋を鷲掴みどころの騒ぎではない。掴まれてどこか遠い国に持っていかれてしまうぐらい凄まじい料理だ。
こんな暴挙をなぜ誰も止めなかった。
警察は一体、何をしていたのだ。
こんな攻撃的……いや官能的な料理を目の前に出されて平静を保てる男が三千世界のどこにいるだろうか。
なんてことを考えながら料理を待つこと数分、僕の前にお待ちかねのピネライスが運ばれてきた。目の前に出されたピネライスのナイスなお姿と、スパイシーなカレーの香りに僕はパブロフの犬よりも涎を垂らしてしまった。
いざ、実食。
僕は湧き出る興奮を胸に秘めながらピネライスにスプーンを入れた。
まずは形を崩さないように、そっとスプーンですくう。スプーンの上のピネライスは崩れることなく、カレー、カツ、チャーハンという順番でスプーンの上にお行儀よく乗っていた。なんと美しい断面層だ。こんなものを見せられたら地質学の博士もきっと気絶してしまうだろう。
僕はその断面層を迷うことなく口に入れた。
……口の中で全てが混ざりあって天にも昇る味わいだ。
天国はここにあった。
だがいつまでもピネライスに主導権を握らせておくわけにはいかない。僕は攻めの姿勢でピネライスをこれでもかと混ぜた。
そして「ピネライス何するものぞ」と勇ましく口に入れた。
……だめだ、完敗だ。
これは『カツカレーチャーハン』ではないか。
美味しすぎる。
こんなすごい料理にどう抗えといのだろうか。いや、抗うことすら愚かなのだ。
例えるならカレー、カツ、チャーハンの歴戦の猛者とも呼べる料理が、『肥後克広、寺門ジモン、上島竜兵』よろしく互いに仲良く手を取り合って、ピネライスという料理を至高の逸品にしているのだ。料理界のダチョウ俱楽部とはまさにこのピネライスのことではないだろうか。
これぞまさに「訴えてやるっ!!」だ。
その後も僕は一心不乱に物も言わずひたすらピネライスを食べ続けた。カツ→チャーハン→カレーという至福の無間地獄を堪能し、気が付いたら綺麗に完食してしまった。魂をもっていかれた気分だった。
あまりの美味さに放心状態になり、僕は呆けたようにテーブルに置いてあるメニューに目を向けると、目を疑う文字が飛び込んできた。
『トッピングできます』
「トッピング? ……おのれ、あのトッピングかっ……是非もなし」
もはや気分は本能寺で明智光秀に襲撃された織田信長だ。
驚きながらメニューを読んでいくとピネライスにお好みで半熟卵、チーズ、エビフライなどを追加で乗せることができるというではないか。
それどころかチャーハンをガーリックライスに、カレーをデミグラスソースにし、ハヤシライスにも変えることもできるのだ。神をも恐れぬ悪魔の所業とはまさにこのことだ。
そして最後にもう1つ衝撃の事実をみなさんに伝えなければならない。
それは一人前870円なのだ。
これが深夜の通販番組だったら注文が殺到してサーバがパンクしてしまうだろう。まさに価格破壊。味も優しいがお財布にも優しいとはどこまで良心的なのだ。お客の期待を次々と良い意味で裏切り続けるこのピネライスの快進撃を一体だれが止められようか。
「ピネライス、お前もか!!」
僕はジュリアス・シーザーよろしく、そう叫びたくなった。
見た目よし、味よし、値段よしの三拍子がそろったピネライス、京都に来られたらぜひ堪能していただきたい。
ただし、この悪魔の料理の虜になって京都から出られなくなる……なんてこともあるかもしれないのでゆめゆめ気を付けて……。
***
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