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メディアグランプリ

誰かと比べることは、Googleマップだった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高橋 共子(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
私たちは、生まれた瞬間から誰かと比べられて生きている。
 
兄弟がいれば「弟のほうが可愛がられている」と常に比較の対象になるし、学校では有無を言わさず学力や運動の実力を競争させられる。「他人との比較」が人生という道路にある障害物だとしたら、生まれてこの方いっさい無事故で過ごしてきました、という強者はそういないのではなかろうか。
 
一方で、
「他人との比較は無駄」
「人と比べるくらいなら、過去の自分と比べろ」
巷の自己啓発書を開けば必ずと言っていいほど目に入る「他人との比較=ナンセンス」論。
 
たしかに他人との比較にあまりいい印象はない。
とくに、羨望や嫉妬を伴う比較は本人も苦しいし、不健全だ。
 
そうはいっても人間は社会的な生き物。SNSで他人の人生を覗き見することが当たり前となった今、否が応でも他人のキラキラした世界が目に入る。もはや私たちはこの「他人との比較」というコントロールし難い習性から解放されることは難しいのだろうか。
 
私自身はというと、社会に出てからは、同期や同僚らと常に自分の成果や待遇を比べ、落ち込んだり舞い上がったりする日々だった。今ならわかるのだ。「上司や配属先が気に入らないならどんどん結果を出して決裁権を持てる立場になってから言え」と。しかし、社会人1〜2年そこらの私にとって、「環境が悪い」「同期の〇〇さんはいいよね」というセリフは、仕事が思うようにいかないことの言い訳にもってこいであり、都合よく自分を納得させる程のいい材料でしかなかった。そんなことしていても現状は変わらないのに。でも、わかっていてもやめられない。そんな自分が、嫌で仕方なかった。
 
自分の実力をそのまま評価してくれる世界で仕事がしたい。
そう考えた私は、6年前に大きな決断をした。
 
私が新しく選んだ仕事は、フルコミッションのセールスマンだ。
フルコミッション。すこしカッコつけて言い表しているが、要は完全歩合制である。
「完全歩合……つまりそれって、成果がなければお給料zeroってことですよね?大変そう〜」
いまの仕事に就いて6年、累計500回は言われたセリフだ。
 
転職してからの私は、死に物狂いで働いた。
 
途中膀胱炎をこじらせて親にも友達にも内緒で10日間入院したり、春に咲き誇った桜を眺めるだけで涙が止まらない現象に襲われたりと、本当に色々あった。それでも自分の頑張りが成果として現れるフルコミッションの仕事は、毎日が充実していた。2年間の修行期間中に定めた高い目標も、なんとか達成することができた。誰が見ても「いい仕事につけてよかったね」「大変そうだけど、充実してるね」という日々を送っていた……はずだった。
 
しかし、「他人との比較病」は、そう簡単に完治する病ではなかった。
 
セールスの仕事を突き詰めていけばいくほど、私は「もっと認められたい」という底無しの沼に嵌っていった。結局フルコミッションの世界に入っても、他人と成果を比べて一喜一憂する自分のままだった。
 
「○○さんがあんなに大きな契約をいただけるのは、いい大学に行って、一流企業に就職して、人脈もたくさんあったからだ。私は家が貧しかったし、借金してでも大学に行けと言ってくれる人はいなかった。環境に恵まれていなかった私に、○○さんのようなリソースはない。同じ成果を出せるはずがない」
 
どこかで聞き覚えのあるセリフだった。
 
ヘビースモーカーの人が体に悪いとわかっていてもタバコをやめられないように、甘いもの好きな親戚のおばちゃんが食後の大福をやめられないように、「比べても意味はない、むしろ害悪」とわかっているのにしょっちゅう周りと自分の比較ばかりしていた。喫煙者が肺に毒を溜めるように、親戚のおばちゃんが下腹部に脂肪を溜め込むように、自分の心の中にどす黒い不満を溜め込んでいた。
 
「どうしても人と比べてしまって、モヤモヤしてしまいます」
 
ある日、この苦しい胸の内を、憧れの先輩に相談してみた。
誰もが羨む成績をあげ、でも一切驕ることなく、いつも笑顔でさらっとすごいことをやってのける、大好きな先輩だ。
 
「そっか。誰かと比べるのも悪くないけど、人の良いところを見つけて自分のものにできるといいね。数字は比べなくていいと思うよ。長い人生の中で、人より笑う数を比べるなら、素敵かもね」
 
人と笑う数を、比べる……?
 
考えたこともなかった概念だ。
大人数の飲み会では「なんか怖いよ、楽しんでる?」と10回は言われたことがある私である。確かにもっと人より笑うことができたら、何かが変わるのかもしれない。
 
先輩が何年も高い成績を出し続けている理由が、垣間見えた気がした。
 
次の日から「他人と比較する病」の症状が発動しそうになった時は、先輩の言葉を思い出し、笑顔で人と接するよう心がけた。少し心のトゲが抜けたような気がした。
 
もう一人、尊敬する先輩に相談をした時の答えはこうだった。
「私たちが〇〇コンテストに入賞するために……!とか毎年やってることって、たとえば北欧の森で暮らしてる人からしたら、マジでどうでもいいちっちゃな世界の話なのよ。私は、そういう人たちと対峙した時に、自分がどれだけ一人の人間として素晴らしいね!って感じてもらえるかの方が大事。仕事だけでしか成果を出していない人には魅力を感じないかな」
 
衝撃だった。頭を殴られた気分だった。
 
「自分がタイトルや順位をモチベーションに頑張れるタイプなのか、ライバルを作って頑張れるタイプなのか。はたまた何か他のワクワクがあることが大事なのか。自分に何が合ってるかだよ。あなたは人より成績を上げることが一番のモチベーションになるの?」
 
私はとても恥ずかしくなった。
自分の見ている世界があまりにも狭かったことに気付かされたからだ。
 
そろそろ、「他人との比較」だけで仕事をがんばる時期を卒業したら?と、仕事の神様に耳元で囁かれている気がした。「自分自身が最も納得いく仕事をしてみなさい」と。
 
私は思った。
もしかするとこれは、Google マップみたいなものかもしれない。
 
「この行き方しかありえない」と、一つのルートに固執して他の可能性に見向きもしなければ、見える景色はいつだって変わらない。どんなにそのルートが排気ガスで空気の悪いエリアだったとしても、ずっと息苦しいままだ。
 
でも、Google マップも「最短で効率よく行く」だけじゃなく、「公園」と入力して立ち寄ってみたり、「カフェ」と入れて一息入れてみたり。自分にはどのルートがあっているのか。そこで出会う人と自分を並べてみることで、全く違う景色が見えてくるのかもしれない。
 
幸か不幸か、1ヶ月前から私の会社も在宅勤務がスタートした。
フルコミッションのセールスマンにとって、在宅勤務とは拷問に近い苦行である。
しかし、これも大事な「寄り道」なのかもしれない。
この「寄り道」で、私は何を見つけられるだろうか。
どんな景色を見て、何が心に残り、どれだけの出会いがあるだろうか。
 
収束して仲間と再会した時、「みんなと比べて」笑顔で居られるように。
 
どんなルートを使って「コロナ収束後の未来」へ向かおうか。
時間はたっぷりある。ゆっくり考えてみよう。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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