副業の禁、やぶってみたら
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山口明子(ライティング・ゼミGW集中コース)
今とは違うなにかにチャレンジしたいとか、転職に向けてちょっと自分を試してみたいとか、お給料の他にちょっと収入があったらいいかもと思うけど、結局やらない理由として会社の「副業禁止」のルールをあげる人、意外といるのではないかと思います。
私は副業の禁をやぶり、12年働いた仕事を辞めました。
「なぜか、バレるんだよねー」
隣の市の小さな町で、月に1回開催される「たらみ市」というイベントで、5分500円の手相占いをはじめたのは6年前です。
横でマッサージの出店をしている女性に、
「副業してると誰かが職場にチクるんだよね」と言われたのでした。
「そうなんですか?大丈夫でしょう」
そのときは、気にも止めませんでした。
再婚しようとした人にフラれた直後、暇をもてあましていた私は、6万円出して手相を学び鑑定ができるようになりました。
手相占い師になるつもりはありませんでしたが、たまたま知り合いから
「手相で出店しませんか?」
という話がきました。
「いいですよ」
月に1回だし、知り合いは来そうにない所だし、なによりも楽しそうだと思い、軽い気持ちで引き受けることにしたのです。
副業禁止のルールなど、頭をかすめもしませんでした。
鑑定は、最初のほうこそ緊張していましたが、もともとソーシャルワーカーという仕事柄、相談を受けることには慣れていました。
なにより、私の話す言葉が500円というお金に変わることに、私は驚きとよろこびを感じていました。
それまで雇われてお金をもらう経験しかしてこなかったので、目の前でお金が差し出されることに、新鮮な可能性を感じていたかもしれないと、今となっては思います。
話が深くなると、5分では終わらない内容もありましたが、後ろにお客さんが待っていないときは、お代はそのままで、15分、20分と話し込んだりして、あっという間に時間が過ぎていき、会場を後にするときには、なにかいいことをしたようなスッキリした気持ちで帰っていました。
勤め先に「副業は服務規程違反です」という文書をもらったのは、手相での出店をやらなくなって、何ヶ月も過ぎた頃でした。
「なぜか、バレるんだよねー」
とマッサージの人に言われたことを
「こういうことか」
と思い出していました。
会社の話によると、社内のだれかからの情報提供があったのだとか。
当時従業員が500人いる中で、そんなに私の行動に興味がある人がいるわけないし、もし偶然知ったとしても、
「5分500円をツゲグチする人なんていないよー」と思っていました。
「いたんだ、そんな人」
会社にもらった文書を読みながら、負け惜しみでも嫌味でもなく、ツゲグチした人に
「ありがとう。決心がつきました」
とお礼を言いたい気持ちがわいたときに
「潮どきだな」
と思いました。
12年前、「生活のために、仕方なく」足を踏み入れた福祉の仕事は、できれば大変なことはスルーして、楽に生きていたいと思っていた私の性根を叩き直すかのように、厳しい業界でした。
逃げ出したいことも何度もありましたが、田舎で就職先を見つけるまでの苦しさを思い出しては「私はもうお母さんなんだから」と自分に言い聞かせて、なんとか耐えてきました。
でも、時々おそってくる
「私60歳まで、この仕事するんかなぁ」
「そんなの嫌だー」
「でも、他にできることなんかないしなぁー」
「はあー人生は絶望だー」
という気持ちは、考えまいとしても、いつも私の心にズンといすわっていました。
現実を変えようと、「そうだ。再婚しよ」と思って付き合ってた男から
「他に好きな人ができたから」
とあっさりフラれ、
経営陣にたてつき過ぎて、降格左遷したポストでは、やることが何もない窓際族になってしまい、将来に明るい見通しが一切ない暗黒期に、
「手相で出店してくれませんか」
という申し出があったことは、思ってたよりずっと私を支えてくれてたんだ、
だから、私は腐らずにここまでこれたんだと、気がつきました。
「辞めます」
事情を説明せよ、と呼び出された会議室で、私は決めました。
決めるのに5分もかかりませんでした。
「やってないなら、やってないって言えばいいんだよ」
私から釈明を聞こうと思っていた優しい上司は、何度も私にそう言ってくれましたが
「いえ。ここに書いてある通りです」
「ルールを破ってるって、わかってやってました。だから辞めます」
仕事を辞めて5年が経ちました。
「いつか、フリーになろう」とか「いつか事業を立ち上げよう」とか思ってもいなくて、なんの準備もしていなかった私でも、5年間フリーで生きてこれたのは、12年間の厳しい福祉業界での経験があったからだと思っています。
そして、ツゲグチしてくれた人に、今でもやっぱり
「決心できない私の背中を押してくれて、本当にありがとう」
と何度感謝したかわからないほど、この5年間は幸せで充実した時間でした。
仲間もできました。
やりたいこともわかりました。
この私で生まれてきてよかったと、何度も思いました。
これからは「副業禁止」のルールも変わっていく世の中になるかもしれませんが、もしも、このルールに怯えて、一歩を踏み出せないでいるならば、
「自分の運命をかけて試してみるのもいいかもよ」
とお伝えしたいと思います。
バンジージャンプを、心の準備もできないまま、
「えいっ!」
って飛ばされるようなことが起きたら、それがタイミングです。
***
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