離婚でつまずかない方法
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:門井研(ライティング・ゼミGW集中コース)
「アパート借りてみる?」と一人暮らしを勧められたら絶対断るべきだと助言したい。
そのとき、家庭がうまくいっていると思えばなおのことである。
ただし、そう切り出されたからには、うまくいってはいないと思うけれど。
一度別居したら、もう元へ戻ってくることはないと覚悟しなければならない。
離婚した人の体験談を読めばわかることなのに、下り坂の渦中にいると耳を貸さないものである。
15年前の私の下り坂は、最初一か月のマンスリーマンションに始まった。
仕事を終え、いつものように帰路、デザートを買って帰った。
午後十時なので息子たちは眠っていた。当時は妻と呼んでいた女性だけが、リビングでテレビを見て起きていた。
賃貸物件の雑誌がテーブルの上に置かれている。
当時住んでいたのは、新築して半年しか経っていない戸建て住宅である。
息子たちは幼稚園児だから、彼らが独立するにはまだ先のことである。
「当面、別居してほしい」と女性は言い出した。
「どうして」という疑問をぶつけた。
「何か悪い点があるなら改める」とすがりついた。
生活を維持するために言いたいことを一通り言った。
しかし、「生理的に受け付けないから」「悪い点は生来のものだから改まることは絶対ない」とにべもない。
「あなたが出ていかなければ私が子どもを連れて出ていく」というので、とうとう降参したのである。
その翌朝、息子たちを幼稚園へ送った。それが制服姿の見納めだった。
二人は園庭を走り回った。そのすばしこさを誇って呼びかけられた情景を、その後何度も思い出して後悔することになる。
その日から、住宅は二重の支払いとなった。
これはとても無駄だった。テレビ、家具付きとはいえ、ほとんど着の身着のままで一人住まいを始めたため、衣類も新たに買うことになったし、光熱費も余分にかかる。食費だってよけいにかかる。
帰宅しても、息子たちが園庭を駆けているところが脳裏に浮かぶばかりである。
それを肴に酒を飲んでしまうから、体に悪いことこの上ない。
マンスリーマンションの契約が終わると、他にショートステイができる物件に移った。
そんなことを4年も続けた。
その後、敷金礼金の必要な賃貸マンションを契約してさらに2年が経った後、手紙を書いた。
戻りたい、こんなのは地獄だ、悪いところは完全に治ったので再発することはない、生まれ変わった姿を見てほしいと、久しぶりの手書きをして、郵送した。
そして手紙が返ってきた。
「ではしかたがないので離婚しましょう」
ここで、さらに離婚するときの注意点をきいてほしい。
必ず弁護士に相談しておくべきである。
情にほだされて、住居をあげてしまったりするととんでもなく苦しむ。
つまり名義を渡してしまって、自らも住まずに支払いだけをするとなると、銀行側に利率の高いローンへ変えさせられてしまう。
離婚して6年後に、弁護士に相談したのだが、もう打つ手はなかった。
養育費は送るとしても、住居は売却しておくべきでしたねと弁護士は表情を変えずに言った。
年月が経って息子たちは成人し、ローンは繰上返済を続けて完済した。
それが二年前のことである。二重の住宅への支払いが終わって長いトンネルを抜けた気分だった。
ただ、苦しんだことはすべて無駄だったかというと、そうでもないようだ。
その日、長男からメールが送られてきた。
「就職が決まったので飲みに行かないか」というものだった。
ずいぶん会っていないので、私のことをどんな風に思ってきたかずっと心配だった。
恨んでいないだろうか。
待ち合わせの居酒屋で、待っていた男性は、すぐに息子だとわかった。
ぎこちなくあいさつを交わし、近況報告を少しした。
そうして彼はなぜか遠くの方をみながら言い出した。トイレの方向なので、順番を待っているのだろうかと思った。
「これまでのこと感謝してます。ふつうの父親は、逃げてしまってお金を送るってことすらしないってよく聞くけど、親父はずっと俺たち兄弟を支えてくれてた。弟の分もお礼を言います。ありがとう」
憎まれこそすれ、礼を言われるとは思ってもみなかった。涙をこらえられず、恥ずかしい顔になって泣いた。
「おいおいやめてよ」と息子が肩をさするので、よけいに泣けた夜だった。
このときを最後に、夜涙を流したりすることがなくなった。
どんなに悲しい映画を見ても、である。涙が涸れるってことはあるのだろうかと思う。
***
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