聖書が世界的なベストセラーなわけ
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記事: 十島 ゆり(ライティング・ゼミGW集中コース)
過酷な中学受験を乗り越えて入学した、中高一貫のミッション・スクールでの初日のことである。
この学校では毎日、朝と帰宅時に神様へのお祈りを捧げる。
そしてどんなお祈りの後にも最後にはこう結ぶのである。
「すべては神の御心のままに アーメン」
この学校は女子校なのだが、校舎の建築様式から内装の作りや制服まで、全て女子好みに作られている。この制服着たさに、受験を決意する生徒もいるくらいだ
私もどちらというと、そういったミーハーなノリで受験した者の一人である。
動機は不純ではあったけど、なかなかの倍率を潜り抜けてからの合格だったので、
この学校で初日を迎えた時、私はとても紅潮していた。
今日からこの学校で、思いっきり青春を楽しむぞ! と
意気揚々と挑んだ1日の始まりに、
牧師先生の言葉に繰り返して、私はその言葉を言わなくてはいけなかった
「すべては神の御心のままに アーメン」
全く釈然としていなかった。
どちらかというと、「私の心が赴くままに」と心を高鳴らせていた時に
どうして、「すべては神の御心のままに」だなんて、思ってもいないことを言わなくていけないのか。
その時は、不満しかなかった。
その日から毎朝、1日の始まりは讃美歌を歌い、牧師様の聖書の朗読を聞き、最後にお祈りを捧げる。
讃美歌の歌詞も聖書で読み上げられる言葉も
大体全て、神様は偉大で、私達は弱く愚かで過ちを犯す。
どうか、私達を救ってください。といったものである。
神様は寛大なので、もし私たちが罪を犯した場合には、素直に過ちを認め謝罪さえすれば許してくれる。
そんな勘違いをした時である。
私達のクラスは、ある聖劇を学校イベントで行う事になった。
聖劇とは聖書のエピソードを劇にすることであるが、
私達は、マタイによる福音書、第25章1節から13節のお話である「10人の乙女」というお話をすることになった。
このたとえ話を、みなさんはご存じであろうか。
「10人の乙女」は、天の王国にいる10人の乙女がランプを片手に花婿を迎えに行くというところから始まる。
10人のうち、5人はランプ以外に補充用の油を持って出かけていくが、他の5人はランプのみを持って出かけていく。
10人の乙女たちは全員、花婿との待ち合わせの場所に到着するのだが、花婿はなかなかやって来ない。待ちくたびれた乙女たちは、寝てしまう。
やがて、あたりが暗くなり、ようやく花婿が到着する。
しかし、最初のランプに入っていた油はすっかり無くなっており、ランプは消えてしまっていた。
補充用の油を持ってきていた5人の乙女たちは、すぐにランプに油を補充し、ランプを明るく灯して花婿に会えるのだが、補充用を持ってこなかった残りの5人のランプは暗いままで花婿と出会えない。
持っていない乙女たちは、持っている乙女たちに油を分けてくれないかとお願いするのだが、持っている乙女たちは分けてしまうと自分の分が足りなくなってしまうからと断ってしまう。
持っていない乙女たちは、慌てて油を買いに走るのだが、その間に持っている乙女たちと花婿たちは天の王国へと帰ってしまい、王国の門は閉ざされる。
油を買って戻ってきた、持っていない乙女たちは閉ざされた天の王国の門を必死に叩くのだが門はもう開かない、というお話である。
私は、初めてこの話を聞いた時にショックを受けた。
それまで毎朝聞いていた、聖書の朗読とは雰囲気が全然違かったからである。
え! 謝れば、許してくれるんじゃなかったの?
しかも、一番悪いのは遅刻してきた花婿なんじゃないの?
でも、花婿が遅刻してきたという前提条件は、持っている乙女たちにとっても同じである。
それでも、目標を全うできたのはきちんと準備していたからだ。
準備できていない方が、悪い。このお話は、そうゆう事を私に伝えたいのであろうか。
しかも、持っている乙女たちは持っていない乙女たちに助けを懇願されても、断ってしまう。
それをしてしまうと共倒れになってしまうからだ。
持っている乙女たちの性格が悪いわけではない。彼女たちの判断はとても正しい。
ただ、聖書のなかで、この展開は想定していなかった。
こんな無慈悲な結末には心の準備が出来ていなかった。
聖書には、やさしいお母さん像を求めていたが
実際にはシビアな現実がたくさん書かれている。
私達は、社会に出ると、答えが出しづらい問題にしばしば出くわさないだろうか。
目を覆いたくなるような悲惨なニュースにもよく出会う。
そんな時に、どう自分の心と向き合えばいいのか
聖書には、そのヒントが沢山書かれている。
聖書が世界的なベストセラーである理由は、ここにあるのではないか。
「10人の乙女」はそのほんの1例だが、私はこのお話のお陰で
世の中の不条理に対して、自分が無力であることを受け入れられるようになった。
目をそらしているのではない。
自分が役立てる範囲で他者を助ける、という判断は正当なのだと、私は「10人の乙女」に慰められている。
だからこそ、自分が役立てる範囲をもっと広く強くしていこうと思うのだ。
例え、今はすごく非力でも。
「すべては神の御心のままに」
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