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メディアグランプリ

ひょっとしたら、このオーブントースターは紹介しないほうが良いのかもしれない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:タカシクワハタ(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「この製品を紹介してよいものだろうか……?」
今、僕は少々迷っている。
この製品は昨年僕が買ったものの中で、最も「買ってよかった」ものである。
だからもちろん胸を張っておすすめしたい製品であることは確かだ。
ただ、少し気になるところがあるのだ。
この製品はあまりに強力すぎる。
下手をすると業界を一つ潰してしまう可能性もある。
でも。
やはり多くの人に見てもらいたい。
この製品がうみだす驚きと感動を。
そんなわけで今日は僕が昨年買って最も良いと感じた製品を紹介する。
パナソニックのオーブントースターだ。
 
「お昼ご飯、冷凍庫にピザがあるから食べてね」
母親は勤めに出ていたので、小さいころから
オーブントースターで冷凍ピザを焼く機会は多かった。
僕はオーブントースターで何かを焼くことがとても苦手だった。
中でも冷凍ピザ。これがなかなかの曲者であった。
一応オーブントースターのタイマーの横には
「冷凍ピザ 5分~6分」とは書いてある。
僕はタイマーのダイヤルをぐりっと回す。
すると
「ジジジジジジジ……」という音とともに
トースターの中の赤外線がオレンジ色の光を放ち始める。
そのオレンジの光の熱で冷凍ピザがあたたまり、
やがてはチーズが解け始め、
5分経つとちょうどよく焼けたピザが出来上がる……はずだった。
しかしそうはいかなかった。
だいたい5分経って出来上がるのは中が凍った冷たいピザか
あるいは無惨に焼け焦げたピザであった。
ピザを冷凍しておいた時間やその日の気温。またタイマーの回し具合など
様々な条件によってピザの出来具合が全く違ってしまうのだ。
おかげで僕はピザという食べ物にも、オーブントースターにもあまり良い印象がなかった。
 
そんな我が家に新しいオーブントースターが来たのは昨年春のことだった。
きっかけは嫁の誕生日。
「おいしいパンが食べたい」ということで
オーブントースターをプレゼントとして購入したのだ。
いやいや。オーブントースターごときで味が変わるものか。
確かに、最近の製品は性能が良いらしい。
実際に某B社の高級オーブントースターなどは、
水を入れて焼くだけでパンがおいしくなる。
そんなうわさは聞いたことがあった。
でも、でもさあ。
B社の製品ってお高いんでしょ?
それに水入れるってなんだかめんどくさい。
けっきょく使う人のテクニックの問題じゃないの?
長年オーブントースターに苦しめられてきた僕は
疑いの気持ちしかなかった。
 
そんなわけで我が家にやってきたのは。
パナソニックのオーブントースターだった。
B社のオーブントースターの半分以下の値段。
白くてコンパクトな立方体の筐体は
どこか質実剛健な印象を与えていた。
 
試しに食パンを焼いてみることにした。
おお、このオーブントースターは例のダイヤルがついていないのか。
トーストを焼くときは、本体前面にある
「トースト」というボタンを押せばよいらしい。
本当にこれだけで大丈夫なのだろうか。
 
ボタンを押すと心配な僕の視線をよそに
白い本体の中がぱっと明るくなった。
僕が知っているようなオーブントースターの
オレンジ色の光とは違う。
白熱灯のような明るい光だ。
ぱっと見た感じ、白いマンションの部屋に住民が帰ってきて
明かりがついた。そんな感じにも見えた。
それにしてもやけに静かだ。
「ジジジジジジジ………」という音どころか
ほぼ無音である。
本当に動いているのだろうか?
少し心配になったその時であった。
パッ!
何とトースターの中が真っ暗になった。
えっ? いきなり故障?
でもボタンのランプはついている。デジタル表示の残り時間もしっかり動いている。
慌てて僕は取扱説明書を開くと、どうやらこれは仕様のようだった。
数秒するとまた先程の明るい光が灯る。そしてまたまっくらな闇が訪れる。
これがひたすら繰り返される。
なんだか妙な感じだ。
かつてのオーブントースターが
「はい! 一生懸命焼いてますよ!」といった感じの働きっぷりだったのに比べると、
このオーブントースターはひたすらクールに淡々と働いている感じだ。
 
やがて時間がたつとプップーとブザーが鳴った。
これで出来上がりのようだ。
本当にちゃんと焼けているのだろうか?
半信半疑でドアを開けてみた。
驚いた。
そこにはきれいなキツネ色に焼けたトーストが存在していた。
おそるおそる食べてみる。
サクッ! という音とともに
口の中に香ばしい香りがひろがる。続いてもっちりした食パンの歯ごたえがあり
少しの甘みとバターの香りがひろがっていく。
信じられない。
何もつけていない。普通の食パンがこんなに美味しいものだったとは。
 
それにしても恐ろしい。
この無機質な箱に市販の食パンを入れる。
ボタンを押す。
よくわからない点滅を繰り返す。
おいしいパンが出てくる。
まったく仕組みがわからない。
これは調理というよりも魔術だ。
種も仕掛けもいっさいわからない、
超一流のイリュージョンを見ている。そんな気がするのだ。
しかしこのイリュージョンは問題作だ。
こんなことをされてしまったらパン屋さんは商売あがったりだ。
パン屋さんやパン職人といった業界を殲滅してしまう
悪魔の発明なのかもしれない。
 
ここまで書いて、まだ僕はこのオーブントースターを紹介してよかったのか
自身が持てないでいる。
静かに微笑みながら創造する白い天使。
業火で何もかもを焼き尽くす白い悪魔。
このオーブントースターには二つの表情がある。
あとはもうあなた自身に判断してもらうしかない。
あなたの目の前に現れたのは天使の奇跡か、悪魔の幻惑か。
あたたかい紅茶でも用意して、
キツネ色に焼きあがったパンを味わいながら
じっくりと考えてみてほしい。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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