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母の日に紫陽花


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:菊地信好(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
5月10日は母の日でした。
仕事で香港にいる兄と協力して、毎年母の日には贈り物を送っています。
 
母の日と言えばカーネーションですが、特にそこにこだわる訳ではなく、花であったり、お菓子の詰め合わせなどを送っています。
大した金額ではありませんが、兄が品物を決めて費用を負担し、私が注文など手配を担当するのが毎年の習わしになっていました。私自身も東京で仕事をしているので、必然的に通販で注文して実家に届けて貰うことになります。
 
今年、兄が選んだのはさくら色のカーネーションと和菓子のセットでした。
しかし、発注の際に問題が発生しました。兄が指定した花が、発注時点では品切れになっていたのです。残っていたのは紫色の紫陽花でした。母の日に間に合わせるためには、既にぎりぎりのタイミングでした。そのため、兄には理由は言えぬままに、紫色の紫陽花を注文しました。
 
「きれいな紫色の紫陽花をありがとう」
母から連絡があったのは、母の日である5月10日の数日前でした。
早く届いたのは、まあ良い。この時期ですから遅れることも覚悟をしていたので、むしろ助かりました。しかし、届いたのが紫色で、しかも母の日なのにカーネーションではなく紫陽花?
 
誰だって疑問に思います。兄からは発注ミスだったのか、それとも業者のミスなのか?という確認が入りました。
それはそうです。いつかはばれるに決まっています。その上、母からはご丁寧に後程写真を送るね、というコメントまであります。
最早、いつまでもごまかせる訳がありません。
 
兄から花の指定を受けてから、後で注文しようと思いつつうっかり数日が経過してしまいました。それが原因で、注文をしようと思った時には、さくら色のカーネーションは品切れになっていたのです。
やむを得ず、兄にその事情を話しました。
 
「まあ、母さんが喜んでいるし、それはそれで良いか」
兄の反応はあっさりしたものでした。
実際、母は素直に喜んでくれていました。紫陽花なら鉢植えで楽しんだ後、庭に地植えをすることが出来る。そうすれば毎年楽しめるし、地植えにしたらまた色が変わって楽しみが増える、と良いことばかりを言って来ます。
流石に母には、本当は違う花の予定だったけど注文が遅れたから……などとは言えません。
 
花の礼を言うために掛けて来た電話は、そのまま親族の近況にまで話が膨らみました。
昨年の4月に、父が病で他界しているのですが、その後1年間で、父方の親族には不幸が続いていました。父の兄夫婦と妹です。私からすれば、伯父夫婦と叔母にあたります。
特に、伯父と伯母は金銭的に問題があった家庭で、子ども達が5人いるにも拘らず、最後に面倒を見ようとする者はいなかったそうです。
先月の伯母の葬儀でも、私は参列することが出来ませんでしたが、母だけは足を運んでいました。そこでも参列したのは僅かな親族のみ。家族である子ども達でさえも全員は揃わないという状況だったそうです。
母は、一通りその時の様子を話した後に、子ども達に気を掛けて貰える自分は幸せだなどと言い出しました。
 
母は生前の父に依存している面が強く、生活の多くが父任せでした。外出するにも、何かを買うにも、何をするにも父まかせでした。
父に先立たれて、兄弟の間でも母の状況が心配でした。
「お父さん、早く迎えに来ないかな」
父の葬儀の直後は、そんなことを頻繁に口にしていました。それも1年が過ぎてようやく落ち着いてきたという印象です。
電話口でも、兄からは孫の成人式までは元気でいて貰わないと困ると言われた、と笑っていました。まだ10年近くありますので、母も80歳を超えてしまう計算です。
 
「もう身体があちこち痛いのに、80歳までなんてもたないよ」
そういう母の声は、以前とは違って明るいものになっていました。
昨年、父が倒れるまでは、実家に帰るのは正月くらいになっていました。父が入院してからは毎週帰るようにしていましたが、それもそれまで何もしてあげられなかったことに対する罪滅ぼしの意識が強かったのが本当の所です。
 
親孝行したい時には親はなし。良く言われる言葉ですが、本当だと思い知らされました。
父には、出来ることはもう殆どなくなってしまいましたが、母に出来ることはまだあります。
 
「私は幸せだ」
母の喜んでいる反応に、ちくちくと胸が痛みます。
 
私は普段から仕事が忙しいことを口実に、ついつい物事を先回しにしてしまう癖がありました。今回も、それで苦い思いをしました。
やるべきことはすぐにやるという、当たり前のことを改めて心に刻むと共に、今しか出来ない親孝行もしっかりやらなければいけないと思い直しています。
 
月に1度くらいは実家に帰って、母の通院を助けることも今しか出来ないことです。
そして来年の母の日には、綺麗なさくら色のカーネーションを、今度こそ送りたいと思っています。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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