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非攻撃的コミュニケーション


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川村 紀子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
中学生の娘のコミュニケーションの仕方を
わたしは見習いたいとよく思う。
受け取り方、伝え方がまろやかなのだ。
 
先日も感心したことがあった。
夕食の支度ができたと
脱衣所にいた娘に声をかけたら、
「これからお風呂に入るー」とのんきな返事。
 
「えーまだ、入ってなかったの?!
ずいぶん前に入ってって言ったよね?
もうごはん、できちゃったよ。
今まで何やってたの!
早く入っちゃってよ!」
わたしが立て続けに言葉をかけると、
娘は黙って下を向いた。
そして、大急いでお風呂に入った。
 
その後は、普段通りに食卓を一緒に囲んだ。
夕食を終え、ゆっくりお茶を飲んでいた時、
前に座っていた娘が話しかけてきた。
 
「あーちゃん、さっき、大きな声だったから、
さと、びっくりしたよ」
 
非難するという感じはなく、
ニコニコしすぎるのでもなく、
ほほえみの表情でさらりとした言い方。
 
「あ、お風呂のこと?」
そう私が返すと、
「そう!」
表情がいっそう明るくなった。
「大きな声でびっくりしたんだ。それはごめんね」
わたしは自然とあやまってた。
 
娘はお風呂に入っていなかったことを
ごめんなさい、とあやまるという形ではなく、
すぐにお風呂に入り、行動を修正した。
そして、母親に心の余裕がある時をみはからって、
されていやだったことを、
「わたしはびっくりした」と自分を主語にして伝えてきた。
娘の言いたいことはさわやかにわたしの心に届いた。
自分も相手も尊重した表現にわたしは、感心してしまった。
 
わたしが言われた側だったら、こうはいかない。
不満200%の表情をみせるかもしれない。
我慢して内側にためるかもしれない。
非難が悲しくて鬱々とするかもしれない。
 
ごめんなさい、の気持ちはある。
でも、「わたしはそこまでは悪くない」という気持ちが湧いてくる。
そんな大きな声を出すほどのことではないんじゃない?と自己防御したくなる。
こんな風な言い方はわたしのことをキライだからだろうか、とまで思ったりすることもある。
ファイティングポーズをとったり、必要以上に傷ついてみたり、
もともとはささいなことだったはずが、妙に複雑になる。
なぜ、こんなめんどくさい感じなんだろう?
 
週末は夫と言い合いになった。
「報告されてない」と言う夫と「報告した」と言うわたし。
わたしたちはお互いに攻撃されていると感じ、
感情的に強い言葉を相手に投げて自分を守った。
 
娘だったら、こうはならないだろう。
というか、娘が言い争う姿をわたしは今までみたことがない。
とはいえ、すべてを受け身で受け取る、というわけではない。
主張はする。攻撃的な反応をしないのだ。
 
実は娘にはダウン症があり、
その影響で幼少期はほとんど言葉を話さなかった。
4才の時に医師から
「言葉を使ってのコミュニケーションを一生しないかもしれないことも
覚悟してください」と言われたこともある。
 
言葉が無いからと言って、
彼女の中に表現したい気持ちや考えがないというわけじゃないということは、
娘が1才の頃に確信していた。
 
1才になってまもなく、娘は心臓の手術をした。
術後、ICUに入った娘は7本の管につながれた。
点滴や排泄のためのそれらの管が抜けないように
手足のあたりに4本のひものついた特殊な服を着させられ、
そのひもでベッドの両側の柵にくくりつけられていた。
 
ICUの面会時間は一日たった1時間。
それ以外の23時間、娘は身体を固定され身動きできないまま、
機械音が騒々しく鳴るICUで一人で過ごした。
管の数は減っていったが、
仰向けで手足がくくりつけられている状態は変わらない。
 
4日目の面会時に抱っこを許された。
ひもを外し、80時間以上固定されていた身体を
そっと抱きあげ、娘の身体が少しでもゆるむように
わたしの身体に添わせるように
ぴたりとくっつけて抱っこした。
 
「よくがんばったね。えらかったね」
声をかけ、背中をさすった。
すると、娘がなにやら声を出した。
ごにょごにょ‥‥‥
ねこがのどを鳴らしているくらいの小さな声。
声、というより、音、に近い。
 
ごにょごにょごにょごにょ
途切れることなく、音を出している。
言葉をかけることはためらわれた。
弱弱しく肌に伝わってくる娘の音に全身で耳を澄ませた。
 
ごにょごにょごにょごにょ
娘は愚痴を言っているようだった。
嫌な気持ちを吐き出しているようだった。
わたしは娘に触れている肌が全部スポンジになり
そのまんま吸い取るかのようにそっと抱っこし続けた。
 
1時間の面会時間があと数分で終わろうとする時、
音は止み、愚痴を全部出しきったのか
娘はスィッチが切れたかのように
コトン、と腕の中で眠ってしまった。
 
娘が言葉でそれなりに表現できるようになったのは9才を過ぎていたと思う。
言葉での表現がつたない娘の気持ちを聴こうと、
まわりの人間は、一所懸命、耳を澄ませてきた。
 
肌をスポンジのようにして想いを受け取ったあの日のように
今、何を感じているのか、何を伝えたいのか、
内側の本当の気持ちに耳を傾けられてきた経験が
娘は自分の気持ちをありのままに把握し、
自分も相手も傷つけない形で表現する力を育んできたのかもしれない。
 
相手を攻撃したり、我慢したりして、自分の気持ちを守ろうとしているうちに
自分のほんとの気持ちがわかんなくなるスパイラルから脱出するために
自分の気持ちをスポンジのようにそのまんまありのままに受け取ってみたらどうなるかな。
娘に愚痴りながら、やってみたら、進展するかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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