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「深夜3時の訪問者」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:和田 成正(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ピンポーン」
 
今から約10年前の冬、家のインターホンが鳴った。
インターホンが鳴ったら、すぐに誰が来たかインターホンのカメラを確認しにいく。
いつもはそうしている。
でもこの日は違った。
なぜか?
それは、インターホンが鳴った時間が深夜3時だったからである。
 
1回目のインターホンが鳴らされたその時、僕は寝ていた。
横には当時付き合い始めたばかりの年上の彼女が寝ていた。
前日彼女と飲んでいて、いい感じで盛り上がった僕たちは、
そのまま彼女の家に行き、シングルベットの上で肩を寄せ合いながら熟睡していた。
 
そこに、1度目の「ピンポーン」だ。
僕はその音に気付き、目を覚ました。
「ん、何? 今何時?」
彼女の方を向くと彼女はまだ寝ている。
 
マンションの別の部屋の人が、酔っぱらって間違えて押してるのかな。
そう思いなおし、また寝ることにした。
そこに2回目の「ピンポーン」
 
……
 
うん、とりあえず居留守をしよう。
そう決めこんで、また眠りにつこうとした。
ところが、「ピンポーン」はその後5分程ずっとなり続ける。
さすがにちょっとヤバいな。なんだろう。と思った時、携帯が鳴った。
僕の携帯ではない。彼女の携帯だ。
そこからは、「ピンポーン」と「着信」の波状攻撃。
 
さすがに完全に目がさえてしまって、寝ている彼女を起こそうとした。
その時やっと。彼女が寝ていないことに気が付いた。
彼女はずっと起きていたのだ。
彼女は震えていた。震えたまま目をつぶっていたのだ。
 
「え? 何なの?」
そう言おうとした瞬間。
 
「出ないで」
彼女が一言、そうつぶやいた。
 
「ピンポーン」はなり続ける。
「ピンポーン」が50回を過ぎたころ、さすがにインターホンのカメラを見に行った。
そこに映っていたのは、ハーフっぽいイケメンな男だった。
 
彼女はまだベッドから起きてこない。
その間も「ピンポーン」と「着信」のオンパレード。
 
さすがに90回を超えたくらいのタイミングで彼女がインターホンの前にやってきた。
「私、話してくる」
そう言って彼女がインターホンの応答ボタンを押そうとした。
 
僕はそれを止めて、聞いた。
「いや、誰? 知り合い?」
「うん。……元カレ」
 
彼女と付き合う時に、話に聞いたことがあった。
元カレと別れる時、結構大変で、結局強引に別れたと。
 
深夜3時にいきなり修羅場が訪れて、僕はテンパっていた。
これどうしたらいいんだ。彼氏としてどうなんだ。
こういう時は、彼女を守るのが彼氏の役目じゃないか。
 
「俺がインターホン出るよ」
 
彼女にそう告げ、僕は、インターホンの応答ボタンを押してこう言った。
 
「いや、そんな押したらインターホンの電池切れる!!」
 
どうだ。まいったか。相手も絶対予想不可能な応答だろう。
奇襲には奇襲で返してやるぜ。
カメラを見てみると、男は少しびっくりしていたが、
彼氏がいるとわかったからか、カメラに向かって一礼してきた。
 
彼女は、その様子を見てやっぱり話してくると言って着替え始めた。
「ここだとご近所に迷惑だから、近くのデニーズで話してくる。
携帯持っていくからやばくなったら、メールするからそれまでは家にいてね」
 
それから彼女は家を出て、元カレとデニーズに行った。
その間僕は当然寝るわけにもいかず、一人で部屋をうろうろ、もんもんとしていた。
 
「出て来れる?」
1時間経ったときに、彼女から連絡があった。
 
僕はドキドキしながら、2人がいるデニーズに向かった。
殴りあいの喧嘩になったらどうしよう……
ガチンコファイトクラブ(昔某TV番組の中の名物企画)を必死に思い返しながら、
デニーズの扉を開け、二人の席に向かった。
 
席に着いた瞬間、元カレは席を立って僕にお辞儀してきた。
意外な反応に戸惑いつつも、精一杯けだるい感じを醸し出しながら僕はその行為を無視した。(ガチンコファイトクラブを予習した結果)
 
元カレは、彼女よりも歳上だった。彼女も僕より年上だ。
つまりそこにいるのは、僕より8歳以上離れた、二人の年上だった。
 
「で、何なんですか?」
 
声を震わせないように、気をつけながら精一杯強がる僕。
(本当はおしっこちびりそうでした)
 
元カレが話し始めた。
ざっとまとめると、
自分はまだ彼女が好きだ。
こんな行動して迷惑をかけて本当に申し訳ない。
でもあきらめきれない。
こんなことするのはおかしいと思っても、どうにもできない。
頭では、あきらめないといけないってわかっているけど、あきらめられない。
理屈はわかっているけど、そんな簡単じゃない。
何度嫌いって言われても彼女をあきらめきれないんだと。
 
彼が話終わった時、
「おいおい、こいつやべぇ。これはストーカー案件だろ」とは不思議と思わなかった。
目の前にいる、その元カレが誠実に見えたからだ。
決して興奮して訴えてきたりしない。敵意もない。
とにかくすごく誠実なのだ。
 
僕は正直拍子抜けした。
 
「二度と彼女に近づくな」このセリフを言うのを、何度もシミュレーションしてきたのだが、
そんな言葉は出なかった。
 
「わかりました。あなたがどれくらい彼女を好きか十分に伝わりました。別にその気持ちを捨てろとか言いません。彼女にアプローチするなら正々堂々とやってください。
深夜とか彼女が困るようなことはやめてください。それたぶん逆効果になりますよ」
 
何度もシミュレーションしてきた言葉と、180度違うことを口走っていた。
熱意を感じてしまったのだ。
本当に彼女が好きなんだなと。こんなに人を好きになるのだと。
何度振られても、あきらめきれない気持ちがあるのだと。
この人は彼女に熱狂してるのだと。
確かにアプローチや、やり方は間違えているけど、その勢いやエネルギーは本当にすごいなと。
僕自身が、なよなよしていたのも影響しているかもしれないが、あんな真っ直ぐな熱意をバカにしたりはできなかった。
 
それから彼が深夜に訪れることはなくなった。
その日から約1年後、僕は彼女と別れてしまった。
彼があの後、彼女に対してアプローチし続けたのかは、正直今となってはわからない。
 
そして10年の時が経ち、僕はあの時の元カレと同じ年齢になった。
僕はまだ結婚しておらず、現在彼女もいない。
そして、ふと思う。今あの時の彼ほど誰かを好きになれるだろうか。
熱狂できるだろうか。
 
別に、恋愛に対してだけではない。
仕事に対しても、人生に対してもあれくらいの熱狂ができているだろうか。
 
過去を振り返ると、熱狂してきたことは何回かあった。
その時は、不安もピンチも楽しめていたし、寝るのがもったいないくらい自分のやりたいことに没頭した。やりたいことは先延ばししなかったし、いつも行動したくてうずうずしていた。
 
今歳を重ねて大人になり、熱狂することが正直減ってきた気がする。
どこかで守りに入りすぎたり、熱狂することを恥ずかしく感じたり。
常識に縛られすぎてしまったり。先延ばししたり、行動力も少し落ちたり。
 
今世界も日本もコロナ真っ只中だ。
これを乗り越えるには、きっと「熱狂」が大事なんだ。
もちろん熱狂だけでは足りない。他にいろんなものが必要になってくる。
でも、はじめに熱狂ありきが一番大切だと今個人的に感じている。
 
あの彼が真冬の深夜に震えながらチャイムを押し続ける姿が、10年の時を経て、僕の背中を押し続けてくれるかもしれない。
 
……
 
まぁ、もちろん僕は真夜中の訪問者にはなりたくないけどね。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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