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メロンパン物語


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記事:あさひゆうこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「すいませーん、パンくださーい!」
 
時は昭和39年、最初の東京オリンピックの頃の話です。
私は5歳。東京オリンピックの入場行進を、テレビで見たのをよく覚えています。
 
当時、私の住んでいた住宅地に、「桃源堂」というパン屋さんがありました。大きな土地の道沿いにお店があり、きれいな芝生の庭の奥に母屋がありました。
 
私はいつも、母とパンを買いに行っていました。
お店に人がいないことも多く、そんなときは、
「パンください」
と母屋の方に声をかけに行くのは、私の役目でした。
 
その頃、菓子パンと言うと、
あんぱん
ジャムパン
クリームパン
そして
ウグイスパン
 
くらいしかなかったと思います。1個30円でした。
 
あんぱんの中にはあんこ
ジャムパンの中にはいちごジャム
クリームパンの中にはカスタードクリーム
ウグイスパンの中にはウグイスあん
 
そして50円出すと細長いコッペパンの間にバタークリームがはさんであって、
真ん中に真っ赤なサクランボ風の飾りが乗っている、すごくオシャレなパンが買えました。なかなか買ってもらえなくて、憧れでした。
 
ある日パン屋さんに行くと、「メロンパン」というものが初めて並んでいました。
「桃源堂」のおばさんが
「新しいパンが入ったよ、メロンパン。メロンの味だよ、おいしいよ」
 
「メロンパン?」
黄色いドーム型のパンです。
 
「ママ、メロンパンだって」
「そうね」
 
「ゆうこはクリームパンね?」
母親はまったく興味を示しません。
 
「パパはあんぱんとジャムパン。ママはウグイスっと」
「ウグイスパンっておいしいわよね、ママ大好きなの」
「はい、おばさん、じゃあ、これお金ね」
 
いつもの菓子パンを買いました。
この菓子パンも、そうしょっちゅう買ってもらえるものではありませんでした。
 
私は、メロンパンが気になって仕方がありませんでした。
おばさん、メロンの味って言ってたな。
メロンパンだから、中にメロンクリームが入ってるんだろうな。
だって、あんぱんにはあんこ、ジャムパンにはいちごジャム、クリームパンにはクリームだもの。
おいしそうだな。
食べてみたいな。
どんな味だろう。
 
次のチャンスが巡ってきました。
 
「ママ、ほらメロンパン」
「そうね」
「ゆうこはクリームパンね」
 
また同じ会話を繰り返し、いつものパンを買いました。
私はメロンパンが食べたい、と言えない子供だったのです。
 
またずっと。メロンパンの事を考える日が続きました。
 
そして、ついにその日がやってきました。
 
「今日は菓子パンにしましょうか」
 
「やった! 今日こそ!」
勇気を出して言いました。
 
「ママ、メロンパン買って」
「え? メロンパン? 美味しいのかしら? いつものクリームパンのほうがいいんじゃないの?」
「メロンパンが食べたいの」
「ふーん、じゃあいいわよ。でも、クリームパンのほうが美味しいと思うけど」
 
ワクワクしながら家に帰って、いよいよ食べます。
 
一口。まわりの皮が甘くておいしいです。
二口。まだクリームが出てきません。
三口。あれ? クリームは? 片寄ってるのかな?
 
いくら食べてもメロンクリームは出てきません。ぱっさぱさの白いパンだけ。
あれ? あれ? あれ?
 
最後の一口まで、ぱっさぱさのただの白いパンでした。
牛乳1本消費しました。
 
え? これがメロンパン?
本当にショックでした。
「メロンパン、どうだった?」
「うん……」
「ほーら、クリームパンのほうがよかったでしょ」
 
私は絶望しました。
それ以来、私は一度もメロンパンを口にする事はありませんでした。
 
時は進み、町中に美味しいものが溢れ、たくさんのメロンパンが話題になりましたが、私はその時の、口の中のぱっさぱさと絶望が忘れられず、決して食べませんでした。
 
平成から令和になろうかという、2回目の東京オリンピックが近い頃、娘が結婚しました。相手はなんとパン職人。2人でパン屋さんを開店することになりました。
 
「メロンパンって人気なんですよね。僕作ったので、お義母さん、食べてみて下さい。自信作です」
 
彼は、ドイツパンの店で修業していたので、メロンパンはそれまで作った事がなかったそうです。でも、町のパン屋さんとして開業するからにはメロンパンは外せないという訳です。
 
うわっ!! メロンパン……。
55年前、私を絶望のどん底に陥れたメロンパン!!
55年前の、口の中のぱっさぱさ感が蘇りました。
 
彼のメロンパンは焼きたてで、ホカホカでした。こんがりとしていて、いい香りがします。
一口。皮がさくっとしていて、クッキーみたいです。程よい甘みと香りです。
二口。問題の白い部分が出てきました。おっと、ほんのり甘くて、ふんわりしています。
三口。ふわふわのパンと、さっくりした皮と一緒に食べると、あれあれ? 口の中で溶け合って絶秒。とてもおいしです。
 
もちろん最後までメロンクリームは出てきませんでした。でも、あのぱさぱさしたメロンパンの味は、ふんわり甘くて口で溶けるメロンパンに上書きされました。メロンパンは美味しいものだったんです。それからは、娘夫婦のパン屋さんに行くたびにメロンパンを買って帰ります。
 
かくして、メロンパンは私の中で市民権を得たのでした。
なんだか、メロンパンで新しい人生が開けた気がします。
 
メロンパンは美味しいです!!
美味しいメロンパンをありがとう!!
 
 
 
 
***
 
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2020-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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