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下手でもいいから丁寧に


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記事:住山鈴香(ライティング・ゼミ 通信限定コース)
 
 
「下手でもいいから丁寧に」
これは私が子供の頃、母に言われ、今でも一番心に残っている言葉だ。何回も言われていた言葉だったが、この言葉の意味が分かったのは大人になってからだった。
 
冬休みの宿題として書き初めがあった。小学生の私は、年明け1月2日に書き初めの習字にとりかかった。ところが何枚書いてもなかなか上手く書けない。思うように書けないと、だんだん出来ない自分が嫌になった。私は、墨汁をつけた筆を雑に動かし、「上手に書かれへんから、もういやや〜!!」と泣きべそをかきながら、書き初めの宿題を投げ出そうとした。そうすると、母は私に「下手でもいいから丁寧に」と言い、決して途中で投げ出すことを許してくれなかった。
 
小学生の私にはこの言葉の意味がさっぱり分からなかった。
「なぜ下手でいいのか?」、「下手なのに丁寧ってどういうことなのか???」
 
私は物心ついた頃から、割となんでも器用にこなせる子供だった。そのため、子供の頃は運動や勉強でできないことがほとんどなかった。小学校時代は先生や周りからも褒められることが多い優等生タイプだった。そんな私は、「なんでもできないといけない」、「やることは上手じゃないといけない」と思っていたのだろう。だから母の言う「下手でもいい」と言うことが分からなかったのだ。私の中では「下手はダメ」だった。だから習字が上手く書けない自分を許せなかった。上手くできない自分にイラつき、殴り書きをし、泣きベソをかいていたのだ。
 
「ヘタでもいいから丁寧に」は、私が小学生の頃、一番言われた言葉だろう。小学校の高学年ぐらいになると、母が私の宿題を見ることがだんだん少なくなっていった。それと同時に、その言葉を言われることはなくなっていった。
 
「ヘタでもいいから丁寧に」この言葉を思い出したのは、社会人になってすぐの頃だ。
 
大学を卒業しアパレルで販売の仕事に就いた私は、初めての接客に不安がいっぱいだった。新人は知識が少ないのにお客様の対応をしなければいけない。基本的なことは習ったものの、もちろん初めから全部を完璧にこなすことは無理だ。接客中にお客様に聞かれたことが分からなく何度も先輩に確認し、お客様をお待たせすることもあった。ただ毎日、一生懸命に目の前のお客様に丁寧に接客をしていた。
 
この新社会人の経験をしている時に、ハッと気づいたのだ。母が伝えたかった「ヘタでもいいから丁寧に」の意味を。
 
小学生の頃の私にとって、「下手はダメ」だった。でも、新社会人の私の接客は下手でしかない。下手だからといって、お客様を投げ出すことはできない。自分ができることを一生懸命に丁寧にやるだけだ。新人の下手な接客だったが、お客様から怒られたり、不満を言われることは一度もなかった。新人の私は上手に接客することよりも、一生懸命に丁寧にお客様を対応することが一番大事だったからだ。「下手でもいいから丁寧に」の実践だった。
最初は誰でも下手だ。私の接客も、その後、経験を積み重ねることで上手になった。1年も経てば、後輩をちゃんと指導できていたぐらいだ。
 
小学生の頃、上手にできないと泣く私に、母は上手いか下手かよりも、今、自分の目の前のやるべきことを丁寧に心を込めてやりなさいということを教えようとしてくれていたのだ。結果より過程の大切さを言っていたのだと今では分かる。過程の先に結果があるということも伝えようとしてくれていたのだろう。
 
小学生の頃、習字以外にも漢字ドリルを早く済ませるために、グチャグチャな字で書いていた時も「ヘタでもいいから丁寧に」をよく言われた。漢字ドリルは早く済ませることよりも、丁寧に書いて漢字を覚えることが大切だからだ。
ピアノの練習で、上手く弾けないと鍵盤をバンバン叩いていた時もだ。下手なのに乱暴に弾いても上手くなるはずはない。丁寧に練習することが上達の近道だったからだ。
 
上手か下手かだと上手な方がいい。
でも、下手でもいいのだ。下手でも丁寧なら、その丁寧は上手と同じぐらいの価値を生むことがある。新人の私の下手だが丁寧で一生懸命な接客のように。
そして、丁寧を積み重ねると、下手も上手になる。
 
子供の頃の宿題とは違い、大人は下手だからやらないという選択肢もありだと思う。下手だから上手な人に任せるのもいいだろう。
でも、やりたいのに下手だからという理由でやらないのはもったいない。下手でもやりたいことは挑戦しよう。その時に大事なのは「丁寧に」だ。
 
小学生の頃の私が、「下手でもいいから丁寧に」が理解できていたら、習字もピアノも上達していたかもしれない。母の伝えたかったことを理解するのに20年近くかかってしまった。「下手でもいいから丁寧に」は私の人生の教訓だ。
 
とはいえ、日常生活での私は、家事は下手にも関わらず、雑だ。洗い物の食器は割るし、洗濯もののシャツのシワは伸ばさずに干してしまう。
訂正しよう。「下手でもいいから丁寧には」私の人生の教訓ではなく、一生の課題だ。
 
 
 
 
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2020-06-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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