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【ぼっち女子が優等生に捧ぐ】お前の生き方は間違ってる≪こじなつのラブレター≫


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彼女のことは、話したことはなかったけれど、一年生の時から知っていた。有名人だったのだ。廊下でたまにすれ違う彼女は、いつもにこにこしていた。学級委員をいつも進んで引き受ける優等生であること。テストのたびに、上位5名の中に名を連ねていること。体育はちょっと苦手らしいということ。そして、ピアノが信じられないくらい上手らしいということ。合唱コンクールでピアノの前に腰を下ろし、鍵盤にそっと触れようとする手つきからして、他の演奏者とは一線を画していたように思う。彼女が弾く伴奏は、ピアノをよく知らない私でも、なめらかで優しい旋律だなあと感じていたものだ。

 

同じクラスになったのは、三年生のときだった。どういうきっかけで話すようになったのかはあんまり覚えていないけど、いざふたを開けてみるとコイツは意外とやかましくてツッコミどころの多いやつだった。やたらと独り言が多いし、自分の言ったことに自分で受けてはけらけらと笑っている。

例えば宿題をやってる時なんか、こんな感じ。

 

「あれーやばいっ。『勤勉』の『きん』が書けないよーど忘れしたよーどうしよー。あれー?きん……違うなあ……きん……あーもうどうしよ!あっごめんねー私、宿題やってるとどうしても独り言が出ちゃうんだよねーあはは。家でもこんな感じなんだーだからそういうやつだと思って、気にせずなつみは自分の課題やって!きん……きんべん……あれーなんだっけなあ……」

 

いつもにこにこという印象に間違いはなかったけど、なんだか予想の斜め上を行くやつだった。

 

メンバーがいつも変わらないコミュニティだと、グループ至上主義になるのはしかたないことだ。それが中学校や高校みたいな社会だとなおさらで、クラス替えの直後から、自分の所属するグループを早めに確定させて安心したいという動きはあった。彼女のもとには、1年生の時から彼女を慕っていた女の子たちが自然と集まっていた。

一方私はと言うと、そんな流れを察知できずうまいこと立ち回れなかったものだから、のんびり本なんか読んでるうちにクラス内のグループ構成はすでに出来上がってしまっていた。まあ、言ってしまえばぼっちだ。焦らなかったと言えばウソになるけど、こういうのは今さら何かしてもどうしようもないものだとわかっていたし、クラスには同じ塾に通う仲間も、小学校からの幼馴染もいて、みんなとそこそこ仲が良かったから、あまり心配はしていなかった。それに、彼女とはいずれいい友達同士になれるはずだという確信があったのだ。グループがどうとか関係なく、たぶんこの子は、私が思ったことをそのまま口にしても絶対に耳を傾けてくれるし、彼女も私に本音を語ってくれるはずだと直感的に思っていた。

裏を返せば、私はそのころから、彼女が少し無理をしていることを感じ取っていたのかもしれないなあと今になって思う。

 

教室内でのグループが決まってなくてものんびりゆったりしていた私だったけど、唯一の心配事があった。

 

修学旅行。

 

これは一大事だ。中学校生活最大のイベント。みんなで新幹線に乗って、向かうは京都奈良、宿泊するのは琵琶湖畔の高級ホテル(マッサージチェア付きのVIPルーム)、ディナークルーズ付き。これを精一杯楽しまない手があるだろうか。

私がすごく心配したのは、新幹線の席決めや旅行先の班分けで孤立することだった。思い返すとちょっと滑稽だけど、こればっかりはわかってほしい。せっかくの修学旅行なのに、新幹線の二人掛け席に一人で座らされるなんて、正直目も当てられない悲惨な事態だ。うっかり仲良し二人組の所属する班に加えられて、置いてけぼりみたいな状態で清水寺や二条城を見学するのだっていやだ。そんなみじめな目には遭いたくないぞ。

 

どういうわけだか覚えていないけど、班決めはすんなり終わって、余りもののぼっちがどっかの班に押し付けられるという最悪の事態は免れた。それでも新幹線の席決めがまだ残っていた。みんなと一緒に楽しみたいぞ……余りものだけはカンベン……と、珍しく私にしては、焦っていた気がする。

そこで私は席を立った。向かったのは、彼女のところ。教科書をぱらぱらめくっていた彼女は、

 

「よう、なつみ~」

 

とのんきな様子だ。自分からこんなことを言うなんてらしくもないけど、と思いつつ、意を決して息を大きく吸う。

 

「あのさ、新幹線さ、一緒に座ろうよ」

 

彼女の目が大きく見開かれた。え、あれ、なんか変なこと言ったかな、やっぱり意外に思われたんだろうか、と思ったのも束の間、彼女の瞳から涙がぼろぼろこぼれ始めた

 

「え、え、どうしたの」

 

やっぱり情緒不安定の症状がみられるじゃないかと本気でうろたえた。そうだ忘れてた、こいつはちょっと変なやつだったんだった。

 

かくして、私の新幹線座席問題は解決したわけだけど、そのときは、彼女は泣き笑いしながらもにゃもにゃとよくわからないことをいうばかりだったので、一体どういうわけで急に泣き出したのかはわからずじまいだった。手紙をもらったのは、その何日か後だ。同じ教室にいるにもかかわらず小中学生がよくやるような、ちょっと特別な折り方をした手紙。

 

実は、まだその手紙は手元にある。原文そのまま書いてもいいけど、本人がこの記事を読むはずなのでちょっとやめておく。要するに、こういうことだった。

 

今まで自分の交友関係は、学級委員会や規律委員会の子たちが中心で、とても仲が良いし良い子たちなんだけど、悪く言えば一年生の時からあまり変化がなかった。クラスにいるときも、いつも全体の人間関係を見つつ、浮いてしまうような子が出ないように気遣っていたら、いつのまにか自分がそういう役回りを一手に引き受けるようになり、いつも同じメンバーで一緒にいるようになっていた。そんな中で、私が突然現れたことがすごく嬉しくて、気づいたら涙が出ていた……らしい。

 

どうやらとても喜んでもらえたらしいのに、こっちが誘った動機ときたらぼっち回避のためだったんだから申し訳なくなって、返事を書いて謝った覚えがある。それでも、いつもへらへらしているあいつが本音を言ってくれたのはうれしかった。

 

ただそれは裏を返せば、彼女が本音を自分の中に押しとどめていたということを確信した、ということでもある。

 

彼女の異常なテンションの高さには和まされることもあったけれど、私の目には少し不自然に映るときも確かにあったのだ。でもその理由が、この手紙で分かった気がした。この子はきっとすごく聡い子でしかもやさしいから、少しでも周りの人のためになるような行動をとろうとしてしまうし、そのためには少しくらいの無理はいとわない子なのだ。なんでそんなことができるんだ、どうかしてるんじゃないのかと、当時の私はあ然とした。私には、逆立ちしても真似できない振る舞い方だった。

 

そういえば、こんなことがあった。さっきも言ったとおり、彼女はピアノがすごく上手で、合唱コンクールの時にはいつも伴奏を任されていた。彼女が伴奏をするのなら、せっかく最後の合唱コンクールだし、と私は妙な気をおこして指揮者に立候補した。歌うのはスメタナの「モルダウ」。モルダウ川の雄大な流れを表現した曲で、緩急のつけ方が歌う上での大きなポイントだった。

 

曲のクライマックスへと向かう場面で、楽譜に書いてあるよりもテンポを速くして歌うほうが盛り上がるんじゃないかと思った私は、彼女に相談してみた。ピアノを弾くのは彼女だし、彼女のほうが断然音楽に詳しいからだ。それなのに、返ってきた答えはこうだった。

 

「うん、いいんじゃないかな。なつみが良いと思うならさ。」

 

こんなこともあった。私の記憶が正しければ、彼女は高校受験をするにあたって、家庭教師かなにかをつけてもらっていた。ピアノの練習も、受験勉強と両立して行っていたはずだ。中学生にとっては相当なハードスケジュールだったと思う。彼女には、彼女の能力を最大限に伸ばすための、過分なくらいの環境が用意されていた。

彼女は、第一志望校の前期試験を通過することができなかった。それでも、彼女は自分が背負った期待に応えようと必死だったに違いない。後期試験は、倍率が何十倍も跳ね上がる難関だった。それにも関わらず、彼女はいつものへらへらした笑顔のまま、勉強を続けていた。

 

中学校卒業後別々の学校に進学した私たちは、3年間あまり連絡を取ることはなかった。私はずっと続けていたバレーボールをやめたことで引きこもったりしていて、自分のことで精いっぱいだったのだ。でも、噂で彼女のことは聞いていた。先生たちに非常に期待され、ピアノと勉強を両立して頑張っているらしい、それはそれは大きな期待を背負っているらしいと。彼女は高校生になっても、周囲の期待に応えようとして、自滅しかけているらしいと。

 

そして、中学生の時以来初めて顔を合わせたのが今年の1月、成人式の日。晴れ着姿の彼女は一見大人びて見えたけれど、あの笑顔はちっとも変わっていなかった。少しとぼけたような笑顔。とらえ方によっては、「元気そうだね、安心した」ということもできた。彼女はかつてのクラスメイトに囲まれて、楽しそうだったから。でも本当は、こいつは中学生の時から何も変わっちゃいないのだとすぐにわかった。

 

「苦労してたらしいって聞いたけど。大変だった?」

 

そう聞くと、彼女は一拍おいて、言葉を探すようにしながら答えた。

 

「うん、まあ……大変だった、かな。」

 

やっぱりそうなのだ。私は心底呆れかえって、彼女の顔を見つめた。こいつはどこまでも、変わっていなかった。やっぱり我慢の連続だったんだ。自分が潰れそうになっても、自分ではないやつのためにひたすら耐えてきたのだ。

 

 

ほかの人のことだから、本来私が関知する問題ではない。でも彼女に関しては、いいかげんこのままではだめだと思っている。だから、そろそろ言ってもいいはずだ。今までずっと言いたかったのだ。おせっかいかもしれないと思って、ずっととどめておいたけど、もういいだろう。

 

お前のそのやり方を、私は絶対に美徳だなんて認めない。

 

自分がどう生きていけばいいか決めかねていても、それくらいは私にもわかる。

 

だって普通に考えてもみろ、そんなのあるか。どうして自分じゃないやつのために、そこまで無理ができるのか全く理解できない。本当にやりたいことで本当に納得しているなら、別にどうこう言わないよ。でも、そうじゃないときもあったはずだ。それでもちゃんと断らないから、結局自滅するはめになるんだよ。本当にそれでいいと思ってんのかバーカ。いいわけないだろ。私と足して2で割ってちょうどいいくらいだっつの。そろそろ好き放題やることを覚えろよ。

 

彼女は昔からとても優秀だった。本来ならば、こんなところで埋もれているタマではないと私はよく知っている。それなのにどうして彼女がこんな簡単なこともできないのか、私には不思議でならないのだ。それさえできているなら、彼女はあっという間に私の手の届かないところに行ってしまうんだろう。

 

まあ、こんなことも今までわからなかったようだから、一周回ってあいつはバカなのかもしれないな。

 

彼女が自分勝手に振る舞える日が来たら、それほど私を喜ばせることはないんだけど。

 

 

ただ、正直なところ、彼女のこの性格を助長する要因に、実は私もなっているということは否定できない。

だって、彼女が簡単に人の頼みを断れないのを知っていて、「天狼院でインターンをやったらいいじゃないか、同じ高校に行こうといったのに断りやがったのはどこのどいつだ」と会うたびに駄々をこねているのは、他でもない私だ。へへへ。

だから、彼女が天狼院でインターンをやってもいいと思えるように、こうして頑張っているのだ。どうだ、そろそろ降参なんじゃないか?

みなさんも、新たな仲間が加わったときには、どうぞよろしくお願いしますね。

 

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