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思いきり笑うことのできなかった、あの頃のわたしへ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高橋 共子(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
私はとても、嫌だった。
 
どんなに笑い転げるほどおもしろいことがあっても、
どんなに売れている芸人のコントを観ても、
どんなに愛する人と幸福感にあふれる時間を過ごしても、
 
満面の笑みで笑えない自分が。
 
本当は、ガッキーとかベッキーとかさっしーとか、彼女たちのようにくっしゃくしゃの笑顔で思い切り笑ってみたかった。
 
でも、笑えなかった。
 
どうしても笑いを堪えきれない……というときは、仕方なく両手で口を塞いで、思い切り笑ってやり過ごした。
 
それくらい、嫌だった。
 
思い切り笑うことで、不揃いに生える自分の歯並びをフルオープンさせてしまうことが。
 
心の底から、恐れていた。
 
「わ、コイツの歯並びきたねっ!」という目で、周囲の人から見られてしまうことを。
 
それは物心ついたときから、ひどかった。
「私の歯並びって、マジ最悪……」と自覚したのは、たしか小5くらいのときだ。
 
じつはそれまでに何度か矯正歯科のある、日本でも有数の大きな歯科医院に治療に行ったことがあった。両親のはからいで。
 
ところが当時の我が家の財政状況では、トータルで200万前後かかる矯正費用を捻出することはとても困難で、残念ながら志半ばで矯正治療を諦めざるを得なかった。
 
とくに自分の歯並びで嫌いだったのは、会話中や普段微笑んだ時に覗く上の前歯だ。さらにその両隣の歯が生える隙間を失って、前歯の裏側に重なるようにして生えていた。誰がみてもガタガタの歯並びだ。
 
「いちたすいちはぁーーー?」
「……にーー!!!」
 
学校でお決まりのアレ。
集合写真を撮るときクラスのみんなが思いっきり口を広げて「にーー!!」と叫ぶ中、ひとり静かに「にぃ……」とほんの少しだけ口を開けてささやいていた。
不揃いの前歯が写真に映らないように。
 
楽しいとき、面白おかしいとき、みんなでいるとき、なにも気にせず思い切り笑える友達が輝いて見えた。
もっというと、思い切り笑った時に白い歯が整然と並んでいるだけで、何倍も美しく綺麗に見える友達の表情が、喉から手が出るほど羨ましかった。
 
「どうして私はこんなに歯並びが悪いの」
 
こんな歯並びになった原因を突き止めたくて、両親を問い詰めたことがある。
 
「あなたはね、小さいとき固いものを嫌がって食べようとしなかったのよ。柔らかいものばかり食べていたから、顎が発達しなかった。だから、歯がきれいに生える隙間がなくなっちゃったのよ」
 
いやいや、まったく納得いかねーし。
 
2歳や3歳のころ、私は好き好んで、意識的に柔らかいものばかり食べていたらしい。確かにそれはわかる。固いものを食べさせようとすると、泣き喚いたりして拒絶したのだろう。
 
しかし。
 
将来、女子として年頃になり、歯並びのことでこんなにも苦労すると2歳当時わかっていたら……私だって食べたくなくても我慢して固いものを食べたさ。
 
舌で不揃いに並んだ大っ嫌いな歯の裏を撫で回しながら、暗澹たる表情で両親を見つめつつ、やり場のない気持ちでモヤモヤしていた。
 
しかし、今さら10年前の両親を呪っても、私の歯並びが整うわけはない。
そこで私は誓った。
 
「大人になったら、絶対に絶対に自分のお金で矯正をしてやる。そして、これでもかというくらい、女優顔負けのくっしゃくしゃの笑顔をタダでばら撒いてやる!!!」と。
 
ーーーそれから20年後。
 
2020年初夏。とある夜。
有名なバラエティ番組を観て、夫と思い切り笑い転げている私がいる。
 
そこに、青春時代ずっと感じていた、思い切り笑いたい、でも笑えない……となった瞬間に感じるあの嫌な「ウッ」はまったくない。
 
両手で口を覆う必要も、なくなった。
 
なんなら、デリバリーされたピザとチューハイを両手に抱え、天を仰いで可愛いくしゃくしゃの笑顔……どころか、人様に別の意味で見せられないほど笑いまくっている。
 
歯列矯正はそれなりにお金もかかるし、人によっては4年とか5年の歳月を費やす人もいるときく。
それに、これは治療を受けた人たちが100人いたら100人同じことを言うが、とにかく歯を無理やり動かすわけで、痛くて痛くてたまらない(時が定期的にある)のも事実だ。
もうそのときはご飯粒でさえ食べるのが苦痛で、ヨーグルトとか豆腐しか食べられない夜だってある。でも、それでも、いつか美しく並ぶであろう歯並びを夢見て、そんな激痛の治療だって、私たちは耐えられるのだ。
 
私の場合、通い始めていくつかの種類の矯正治療を行い、2年半で針金の装置をはずして、人前で堂々と歯を見せて笑えるようになった。
2年半、短いようで、とても長く感じた。
 
費用も私にとっては人生で1番の高額消費行動であり、とんでもない金額を投入したが、それでも矯正をしたことに、1ミリも後悔はない。
 
あぁー。心の底から思い切り笑えるって、こんなに気持ちいいんだ。
 
きれいな歯並びで笑顔になれることは、私にとってどんな高級ブランドのメイクや服、靴やバッグより、容姿に自信を持たせてくれ、心を満たしてくれた。
 
安心して歯を思い切り見せて笑顔になれることで、十代の頃の自分に言ってあげられる気がした。
 
「いつかあなたも思い切り笑える日が来るから、大丈夫だよ」と。
 
 
 
 
***

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2020-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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