メディアグランプリ

元公務員、お役所の書類がわかりにくい問題を考える


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:なめ山 なめろう(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「役所の文章って、本当にわかりにくい」
「何が言いたいのかわからない、どこを読めばいいのかわからない」
「ダウンロード用のpdfデータが、やたらと重い。もっと軽くならないの?」
 
住んでいる市区町村の役場で申請や手続きをするとき、
住んでいる自治体や〇〇省・〇〇庁のHPで情報収集をするとき、
「お役所の書類」に触れて、このように感じた経験がある方は多いと思います。
 
大丈夫です。
元公務員の私でも、たいていの「お役所の書類」は、わかりづらくて仕方ありません。
現役公務員の頃から、「わかりづらいなあ」と思っていました。
 
公務員時代、民間企業の方からの問い合わせの電話が終わった後、同僚がこう嘆いていました。
「『申請の手引き』のここに書いてあるのに、読んでよ!」
 
「……いや、読んでもわからないから、電話で確認したいんちゃうかな」
「……みんな他の仕事もあるんやで、こんな長い文章、読んでられないわ」
こう言いたいのを、私はぐっとこらえていました。
 
実際に業務に携わる公務員の側でも、ものにもよりますが、役所の文書を理解できるまで読み込むには、時間がかかります。
自分の業務マニュアルに対して「いっそ、マンガで説明してくれ!」と何度思ったことでしょう。
 
では、なぜ「お役所の書類」は、こんなにわかりにくいのでしょうか。
「お役所の書類」を作る側は、一体何を考えて、こんな分かりにくい文章の束を世にリリースしているのでしょう。
 
問題は、”伝えることのプロ”がおらず、ターゲットが見えていないことです。
 
普段の生活でみなさんが読んでいる文章の多くは、”伝えることのプロ”が書いています。
新聞社や出版社などのメディア業界で働く人たちは、情報を人に分かりやすく伝えることのプロです。
プロの方々は、本や記事を企画するときに、「この本や記事を、誰に読んでもらいたいか」というターゲットを設定しています。
そして、ターゲットに合った文章やデザインを考えます。
たとえば、ビジネスマンをターゲットにした仕事術の記事と、若い女性をターゲットにしたファッション記事では、使う用語や、文章の口調が変わってきます。
 
では、「お役所の書類」はどうでしょう。
役所の書類のターゲットは、ざっくり言ってしまえば「国民みんな、住民みんな」です。
ターゲットが、あまりにも広すぎます。
それならば、「みんなに伝わる文章」を書けばいいと思います。しかし、老若男女、どんな人にも平等に伝わる文章というのは、難しいものです。
その上、役所には、”伝えることのプロ”がいません。
メディア業界の人たちのような、情報を伝える能力を磨いている人材が、ほとんどいません。
だから、「国民みんな、住民みんな」に伝わる書類が、作れないのです。
 
また、「お役所の書類」が、世に出るまでの道のりにも、問題があります。
 
役所で、国民・住民向けの案内の書類を作るとします。
しかし、書類を作る側も、作った書類をチェックする側も、”伝えることのプロ”ではない、生粋の公務員ばかりです。
役所の職員は、月曜日から金曜日の朝から晩まで、いかにもお役所らしい、お堅い書類と文章に囲まれて過ごします。
日常会話も、内部の人間同士なら、お役所用語での会話が通じます。
頭が、役所のお堅い文章に、どっぷり浸かりきっています。
そのため、役所の外にいる人が「わかりにくい」と思う表現も、役所の内側にいる職員たちにとっては、「わかる」のです。
 
役所には”伝えることのプロ”がいないため、他にいい表現があっても、それを思いつく人がいない環境です。
「もっとわかりやすくできるよ」と、指摘する人がいません。
そのため、わかりにくい書類を、疑問に感じる人がいないのです。
 
いいえ、疑問に感じている人は、公務員でもいるはずです。
ただ、疑問を解決する余裕がないほど、忙しい役所が増えています。
ギリギリの人数で仕事を回している役所では、1人あたりの業務量もカツカツです。
忙しい役所では、国民や住民向けの書類を作るにしても、締め切りまでに仕上げることが最優先です。内容のわかりやすさについて、じっくり考え、話し合う時間が、職場全体にありません。
 
このような状況では、「お役所の書類」を作る目標が、「国民・住民みんなに伝わる」ことではなく「締め切りまでに、内部のチェックをなんとか通す」ことになっています。
いわば、「お役所の書類」のターゲットが、「国民みんな、住民みんな」から、「伝えることの非プロだらけの、役所の内部」にずれてしまっています。
 
ここまで、元公務員の立場から、わかりにくい「お役所の書類」が生まれる理由を考えてきました。
では、一般市民であるわたしたちが、いざわかりにくい書類にぶつかったとき、一体どうすればよいのでしょうか。
 
一番は、やはり、役所に問い合わせて聞くことです。
役所の文書は、わからなくて、当然です。
役所の人間は”伝えることのプロ”ではありません。
だから、書類だけで伝わらない部分は、互いのコミュニケーションで埋める必要があります。
 
役所の外の人は、役所の書類の解読方法がわかりません。
役所の中の人は、書類の中身のいい伝え方がわかりません。
どちらも、わからないもの同士なのです。
 
問い合わせの際は、わからないポイント・聞きたいポイントをはっきりさせると、問題の解決にたどりつきやすくなります。
自分は何者で(個人か、企業か)、どんな目的で(例:給付金を申請したい)、どこがどれぐらいわからない(例:HPを読んでも、何を用意すればいいかわからない)を、冷静に伝えると、対応する方も助かります。
 
公務員の側も、「役所の文書は、わかりにくくて当然」と甘んじてはいけません。
「わかりにくい」という意見を、謙虚に受け止めることが必要です。
忙しいときの問い合わせの電話は、確かにイライラします。
ですが、疑問を抱かれて当たり前の世界で、公務員は働いているのです。そういう業界なのです。
問い合わせる側の気持ちになって、相手のニーズを落ち着いて聞き出し、適切な回答を見つけ出すトレーニングをすること。
それが結局は、自分の業務の効率化につながります。
 
 
 
 
***

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2020-07-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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