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たったそれだけで……


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記事:住山鈴香(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「たったそれだけで……」
この言葉にどんな印象を持たれるだろう?
 
「たったそれだけで、マイナス10キロ」
「たったそれだけで、集客数U P」
「たったそれだけで……」は、広告や宣伝でキャッチコピーとしてよく使われている。
たったそれだけでいいのなら、私もできるかも、やってみようかな、やりたいなと興味をそそられる言葉ではないだろうか?
この言葉は、簡単さを強調することができるので、行動へのハードルが下がりやすく、最初の一歩を踏み出してもらうためにとても有効だ。
 
このようにキャッチコピーとしては効果的な言葉だが、同じ言葉でも時にはネガティブな意味になってしまうことがある。
 
「たったそれだけ……」
私は、この言葉には苦い思い出がある。
会社の制度を利用して不妊治療で1年の休職をしていた時のことだ。復職が間近に迫り、復職するか退職するかを悩んでいた時に信頼する同僚から言われたのだ。
 
関西在住の私は、東京にある本社の直属の上司と電話やメールで復職のためのやりとりをしていた。復職するにあたり、今までの私の経験を活かして会社にどういう貢献ができるかということを話し合っていた。それと同時に、休職して気づいた働き方への私の考えの変化から、退職も視野に入れていることも伝えていた。かなり込み合った話になっていたのだが、対面で話せる機会も持つことができず、自分の気持ちや考えが、上手く伝わらないもどかしさを感じていた。
そのため、同僚に、上司と直接会って話したいから、東京に行こうと考えていることを相談したのだ。その時、彼から出たフレーズが、「たったそれだけで、東京行くの?」だった。
 
同じ「たったそれだけで……」という言葉なのに、使い方で全く違うものになる。
 
「たったそれだけで……」彼にとっては、上司との数時間のミーティングのためだけにわざわざ往復3時間以上の時間と交通費28,000円をかけてまで、ということだったのだろう。
しかし、私にとっては、たとえミーティングできる時間が数分になろうとも、交通費がかかろうとも、直接会って上司と話したかったのだ。長年続けた仕事を続けるか辞めるかを左右する大切なことだったのだ。人生の節目になろうとしていることを、たったそれだけと言われたこの時のショックは大きかった。
 
同僚の彼とは一緒に働いた時間が長く、同僚の中でも特に気が合う仲間の1人だった。今回のことも上司との話し合いの前に、彼に仕事に対する想いや、これからの自分の人生をどう考えているかなど、かなり深い話をしていた。私にとって彼は、共に苦労を重ねた同士であり、最も信頼する友人だった。それだけに、この一言の衝撃は大きく、彼にとって、私はそんなものだったのだと思い知らされた。怒りは湧かなかったが、私が今まで抱いていた彼への信頼感は一瞬にして崩れ落ち、心のシャッターがガラガラ、ピシャッと音を立てて閉まった。
 
「たったそれだけで……。」言った本人はもちろん、悪気などなかったのだろう。でも、この言葉は相手を全否定する力のある言葉だ。私もつい、自分の価値観で「たったそれだけで……」や「そんなことぐらいで……」と言ってしまっていることがある。私にとってはそれが、些細なことや、たいしたことでないこと、無駄だと思えることだからだ。でも、それは相手にとっては大切にしていることかもしれない。自分の価値観で放った言葉が相手の価値観を踏みにじっている。この時に自分がショックを受けた同じことを、過去に私自身もしてしまっていたことにも気付かされた。
 
自分の意見や気持ちを正直に伝えることは大切だ。咄嗟に口から出てしまうこともあるかもしれない。でも大切なのは言うことよりも聴くことだ。ちゃんと相手の言葉や話を聞いていたら、たとえ価値観が違ったとしても相手の想いを汲み取ることができるだろう。そうすると、相手に「たったそれだけで……」と言うことなんてないだろう。
 
私が失言して失敗したと思う時は、相手の話しを適当に聞いて答えている時だ。そう言う時は決まって、相手を不快にしていたり、誤解を招いたりしてしまい、その後、関係を取り返すのに大変苦労する。
 
言葉には力がある。その力を上手く使うためにもまずは聴くが先だ。
 
復職するか退職するかを悩んでいた私だが、退職することを選んだ。理由はいろいろあったのだが、「たったそれだけで東京行くの?」と彼に言われたことである意味、踏ん切りがついたのかもしれない。
 
退職後、私はたくさんの新しいことを経験でき、充実した日々を過ごすことができている。あの時、悪役になってくれた彼のおかげでもあるかもしれないと今は思っている。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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