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メディアグランプリ

絵本の防弾チョッキ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:永田浩子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
うちには大きめの本棚1台にめいっぱい収納した、あふれるほどの絵本がある。
絵本への憧れで、ためてしまったのかもしれない。
 
私には、幼いときに、母から絵本を読んでもらった記憶がない。読んでもらったかもしれないけど、記憶がない。
小学生のとき、いとこが叔母から読んでもらっている光景を見て、とてもうらやましく感じ、ながめていた自分の感覚と映像が脳裏にずっとある。
 
そのためなのか、娘には、赤ちゃんのときから小学校にあがるまで、ほぼ毎日、絵本の読み聞かせをすることを、寝る前の儀式としていた。
絵本は、親子の心をつなぐとてもありがたいツールだと思う。
親が子に、絵本を読んであげる。どんなに忙しくても、子どもと一緒にゆったりとその時間を持てることは、とても豊かだ。
 
そんなことを感じているときに、私はとあるボランティア団体と出会った。
日本の絵本に、その国の言葉に訳されたシールを貼ってアジアの国々に送る、というものだ。
困っている国の人に、生きていくための衣食住を提供するのではなく、『絵本』なのだ。
「なんだかおもしろそう」と思い、私は1冊翻訳絵本を作ってみることにチャレンジした。
翻訳の書かれたシールは、絵の上にかからない形状で、ハサミを入れる線が入っている。その線の数ミリ内側をカットすると、もとの文字を隠すだけのちょうどよいサイズのシールになる。これをぴったりの場所に貼ることは、少々緊張したが楽しい作業だった。
 
できあがった絵本のことはすっかり忘れてしまっていたある日、カンボジアの現状を伝えるテレビ番組が放映されていた。「私にも何かできないか」と心を動かされる内容であった。「今の自分には何ができるわけでもないが、寄付だけはしよう」と思い、テロップに書かれていた団体について調べてみた。すると、それは絵本を送るボランティア団体であることがわかった。
すぐにメールをし、気持ちを伝えると、そのときの私には想像もしていなかった、絵本のとても重要な役割を教えていただいた。
 
カンボジアでは、内戦時の地雷がいまだにかなり埋まったままで、これらを撤去するためには、100年以上の歳月をついやすだろうともいわれている。故ダイアナ元皇太子妃が撤去のための活動されていたことでご存じの方も多いだろう。
この地雷はどこに埋められているのかわからないので、気づかずに手や足を失い、はたまた命まで奪ってしまうことが、多く起こり続けている。埋まっている可能性のあるところには看板があり、注意書きはされているが、文字が読めないために、それを認識することができないというのだ。これからの未来が待っている人々の命が、字が読めないために奪われていたのだ。
識字率をあげるために一役かっているのが、『絵本』である。
残酷な大虐殺があったこともあり、この団体の活動が始まった当初は、難民キャンプの人々には笑顔もなかったそうだ。本も焼き払われてしまっていて、わずかに残ったものを復刻させていき、『絵本』も新しく誕生させるとともに、みなの顔がほころんでいったという。
 
私は文字が読めないということがどんなに恐ろしいことなのか、という体感したことがある。
瓶が3本あり、その中に透明な液体が入っている。どれか必要なものを選んで飲むという想定の実験だ。
その瓶にはそれぞれラベルが貼ってある。カンボジア語(クメール語)の文字をご存じだろうか。我々には、到底記号にしか見えない。
 
『ទឹក』『ពុល』『ថ្នាំ』
 
そこには『水』『毒』『薬』と書かれているらしい。
さあ、どれを選ぶか。
 
私は、『毒』を選んでしまった。『水』だと思って、もし飲んでしまったら、命はない。
いくらわかるようにしているとはいえ、文字が読める前提の案内や注意書きなどは、読めない人にとってはほんとに危険なことなのだ。
 
絵本の役割はほかにもある。
難民キャンプで生まれた子どもは、そのキャンプ内が全世界。テレビやタブレットがあるわけではないので、内陸にいれば、海がどんなものなのか、そこにいる生物はどんなものがいるのかなど、知ることはできない。暖かい国にいれば“雪”がどんなものかもわからない。世界にはどんな職業があるかもわからないし、たとえば歯医者さんという職業があり、どんな仕事をするのかもわからない。
それらを、絵本を通して、知ることができるのだ。
「イルカはこんな形の動物」「飛行機という乗り物」「パンを作って売る仕事」「洋服をデザインして作る人」など、難民キャンプの外へ、子どもたちの世界は広がる。絵本から夢を持ち、未来を切り開く可能性がある。
 
文字が読めるようになった子どもは、その楽しみを分かち合いたいと思うのだろう。子どもが、お母さんに読み聞かせをしているほほえましい映像も見せていただいた。文字の読めないお母さんに一生懸命に読んであげる子ども。
お母さんもまた、子どもを通して世界を広げているのだ。
 
絵本は世界を広げる。
絵本は、親子の絆を深めるもの。
絵本は命を守ってくれる防弾チョッキのようなもの。
絵本は、夢を描くヒントがちりばめられ、 未来を切り開く大きなチカラとなる。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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