「人を思う気持ち」
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:隅倉 文子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「今日、仕事休んで病院に行ってくる」
慌ただしい朝の時間に夫はぽつりと言った。
私は「どこか悪いの?」と聞いた。夫は比較的病院が好きでちょっと調子が悪くなるとかかりつけの病院によく行っていた。今回も風邪気味とか頭痛がするとか、そういう理由で病院へいくのかなと思っていた。
「ちょっと、精神科の病院へ行ってくる」と言った。
私はびっくりした。精神科って、何?
心当たりが全くないわけではなかった。
夫は1年前に別の部署に配属になった。そこに転職をしてきた頭の切れる年下の上司がいた。向こうは役職が上だが、勤続年数も年齢の夫の方が上だった。
その人は夫の性格を逆手にとり、執拗に夫をなじるようになった。
私はその時は、あまり詳しく知らなかったが、職場であまりいい事がないことは、聞いていた。逆にイジメにあっているようなことも聞いていた。そのころ私が勤めていた会社も上司の叱責により休職した社員がいて、会社の責任というよりも本人のメンタルの弱さが原因と私を含めてみんな思っていた。いじめるほうも悪いけど、いじめられるほうにも原因があるのではないか? と思っていた。
だから、夫が精神科へ行くと言った時、びっくりしてしまった。
病院では、うつ病ではないが、重度ストレス障害なので、しばらく会社は休んだほうがいいといわれた。
その日から会社を休むことになった。
夫は自ら病院へ行こうと思ったのではなく、職場の同僚におかしいから、一度病院へ行ったほうがいいと言われて、病院へ行く決心をしたのだった。
私もよく考えるとおかしいと思ったことは、何度かあったけれども、どこか気合でなんとかなると思っていた。
夫は、ギリギリの精神力で、弁護士に今の立場を好転する方法を相談した。
この1年間に起こった出来事を夫は書き起こしていた。私は、プリントアウトしたものを読んで、弁護士とのやり取りを聞いて、今まで考えていたことは間違いだと知った。
それは、大勢の前で叱責をしたり、休日出勤を強要されていたことなどが書き綴られており気合でどうにかなるものではなかった。
その後、職場で事の是非を問う、聴聞会があったのだけど、まだハラスメントという言葉は一般的に知られておらず、また、職場で初めての聴聞会ということでいじめがあったとは、認められなかった。
でも、夫がその後職場復帰したときは、その上司とは、別の部署への移動になり、その上、所長は解雇処分になったから、認められたのだと思う。
聴聞会の後、人事から連絡があった。すぐに職場復帰はしんどいのではないかということで、リワークという復職支援の施設に通ってはどうかという提案だった。
そこでは様々な理由で休職している人たちがいて、講師の話を聞いたり、グループで話をしたりする。
そこに通うようになって、しばらくして当事者を支援をする家族やパートナーの集まりに私が行くことになった。
そこで、支援者のきづきなどを共有するのである。
休職と復帰を何度も繰り返す人も何人かいた。
比べても仕方ないのだが、夫よりも症状の厳しい人が相当数いた。
家族の話だけを聞くと、精神を病んでいる人というイメージだと思った。
しかし、当事者の人たちに会ってみると、普通に働いている人たちと見た目は変わらない。たぶん夫も見た目は、以前と全く同じに見えるだろう。
だから、復職しても、同じに見えるから以前と同じように対応される。だけど、気持ちがついていかなくてしんどくなる。
極端に痩せたり身体に影響があると見た目でわかってもらえるのだが、休んだ分、逆に顔ツヤがよくなったりしたら、元気になったと思われるだろう。
リワークでは、どのような対応をしたらいいか事細かく教えてくれる。
例えば、職場復帰して、歓迎会を開いてくれる上司に対して、自分は体調がまだすぐれないから断りたいのだがどういえば、嫌な気分にならないで対応できるかということ。
話を聞きながら、
「嫌なものは嫌だとはっきり言えばいいんだよ」と思った。
でも、そもそも、そんなに強く言えないから心が折れてしまったのだろう。
和を乱すことをいけないと思うか仕方がないと思うかその違いなのかなと思う。
「和を乱してはいけないと思うから、しんどくなったのだろうな」とそんなことを考えた。
しんどいけど、働かないといけない。
だから、リワークで復帰のためのプログラムを受けて前向きにがんばるというかんじだろうか?
だから、話を聞いた最後は、ちょっと申し訳なく思った。
夫が働く理由は、家族のためという理由が大きい。
だから、「気が済むまで、休んでほしい」とは言えなかった。
あれから、数年たって、夫は復職して仕事を続けている。
体調をみて休みを取ったりしながら、自分のペースで仕事をしている。
私は、いろんな人に感謝している。夫に病院へ行くことを勧めてくれた同僚。すぐに職場復帰と言わずリワークという選択肢を示してくれた会社の人事の人たち。
そして、今も働き続けている夫に感謝している。
***
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