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当たって砕けても大丈夫


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:イマムラカナコ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「やっぱり、伝えるべきだよ!」
正直、そんな展開になるなんて思っていなかった。私に向かって、詰め寄るように迫ってくる相手の勢いに思わずのけ反った。
「でも向こうは私のこと知らないと思うよ。話したことなんか、ないし」
「だけど、何でもやってみないと分からないよ。上手くいくかもしれないし」
そう迫るのは、高校入学後、仲良くなった積極的な友人。
彼女は、思ったことをすぐ口に出して、実行できる人。
どちらかと言えば、ふわふわとしていた私にとって、意志の強そうな瞳を持った彼女は魅力的な人だった。
 
受験が終わって入学すると、周りは何だかとても浮き立っていた。
高校生活に対する期待と、受験が終わった開放感。
仲良しグループができると、話題は女子高生らしく、恋バナだ。
誰々先輩が、格好いい。何組の何君がモテそうだ。△△君は彼女がいるらしい、などなど。
けれど、そんな話になる度に、私は居心地の悪さを感じていた。みんなの話についていけないのだ。私とはまるで縁のない話だった。
格好いい先輩やルックスのいい同級生を見ても、感心こそするが恋愛対象としての現実味なんて全くなかった。
キラキラした顔で話に夢中になっているみんなは、きっと楽しい恋愛が待っている当事者なのだ。
自信がなく、今で言う女子力も低い私とは違う。
 
本来ならば、みんなと同じノリで恋バナに熱中するのが正解だったのだろう。
私は次第に疎外感を感じ始めていた。
 
「好きな人いないの?」
こちらを射抜くような目で見つめた友人は、唐突に私に尋ねた。
返答に困った。
みんなと同じ熱量で語るべきことが、何も見つからなかったのだ。
「うーん、特にいないけど……」
彼女が少し落胆したのが分かった。
「あ、でも、感じがいいなと思った人はいるよ」
慌てて絞り出したのは、私にしては精一杯の答えだった。
 
どうしよう。
私の発した「感じがいいと思った人」は、いつの間にか友人の中で、私が「想いを寄せる人」に変換されていた。
彼の顔とクラスしか知らなかった私は、友人たちの問いに、ほぼ答えることができなかった。
「大丈夫。私たちがちゃんと調べてあげるから、安心して」
呆れながらも友人たちは、頼んでもいないのに身上調査を請け負ってくれた。
 
名前すら知らない彼のことを、どうして言ってしまったのだろう。
廊下で友人と話す彼を、偶然見かけただけだ。
特別に目立つ感じでもない。
だけど大人っぽくて、何か安心感がある人だな。
それだけだったのに、つい思い浮かんだ彼のことを友人たちに告げてしまった。
何だか、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 
友人たちは、優秀だった。次々と私が知らない彼の情報を報告してくれた。
フルネーム、出身中学、部活、誰と仲がいいか、通学方法、誕生日。
一体、誰に何と言って聞いてきたんだろう。
友人たちにありがとうと言いながら、考えるだけで冷や汗が出た。
 
ある日の放課後、グラウンドで部活をしている彼を見かけた。
思わず体育館の陰に隠れて、その姿を目で追っていた。
人をこんな風に観察するなんて、初めてだった。
今までにない、穏やかで優しい気持ちになれた。
 
見ているだけでいいと思っていた私に、友人たちは告白したらとしきりに勧めてきた。
散々迷った挙句、腹を決めた私に、友人たちは驚くべき手際の良さで彼を呼び出してくれた。
 
しかし、いざ彼の前に出ると、しばらく何を言っていいか分からなくなった。
心臓の音が彼に聞こえないかと心配になった。
「あの、ごめんね。時間とってもらって。話したいことがあって……」
 
ようやく、か細い声で話しかけた。
この時すでに彼は、私が何を言いたいか悟っていたと思う。
別のクラスの女子に放課後呼び出される場面なんて、そうそうない。
 
頭の中が真っ白になりながら、思い切って気持ちを伝えた。
きっと返ってくる答えは、「ごめんなさい」か「迷惑だ」とかに違いない。
何で告白なんかしたんだろう。後悔が波のように押し寄せてきた。
もう、この場から消えてしまいたい。
 
「ありがとう」
思いもしない、優しい言葉が降ってきた。彼はこちらを真っすぐに見ていた。
そして言いにくそうに、数年前からある人に片想いしていることを教えてくれた。だから、他の人のことは考えられないと。
 
やっぱり。そうそう簡単に叶うことはないのだ。
でも、彼は正直に自分の気持ちを話してくれた。
「こちらこそ、聞いてくれてありがとう。そっか。ごめん、私のことは気にしないで」
精一杯の強がりだった。私の入る隙間など元々なかったのだ。
 
「でも、もし自分に好きな人がいなかったら、○○さんのこといいなと思ったかも」
彼は、そんなアフターフォローまでしてくれた。
もう、十分だった。私が傷つかないように思いやりまで見せてくれた。
お世辞でもうれしかった。
 
「その人と上手くいくといいね」
次第に体から力が抜けていくのを感じながら、自分の気持ちにちょっぴり嘘をついた。
 
しばらくして、彼が、あの片想いの人と付き合い始めたことを知った。
不思議と心が静かだった。
彼も頑張ったんだな。告白をした時の自分と重なった。
 
あの日、告白が実らなかったことを知った友人たちは、とても申し訳なさそうにしていた。
でも、彼女たちは、いつも自信なさげに二の足を踏む私の背中を、力いっぱい押してくれたのだ。
背中を押してもらわなければ、怖がりの私は、自分から絶対に告白なんかしなかっただろう。
あのまま、何もなかったように過ごしていただけだ。
 
こうして、私の人生初の告白は幕を閉じた。
想いは叶わなかったが、伝えてみなければ得られなかったことがあった。
挑んでみなければ得られなかったことがあった。
一歩踏み出す勇気と、結果を受け入れる潔さを。
そして、そこから再び歩みだす強さを。
 
当たって砕けても、大丈夫。
明日があるさ。次を目指して、新たな道を進めばいい。
正解は一つだけではないし、道はいくらでもある。
川の中の石が、流れていくことでその角が取れていくように、いろんなことにぶつかることで、人としての円熟味が増していくと思うのだ。
 
数十年たった今でも、そう思わせてくれた友人と彼に感謝。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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