メディアグランプリ

物語依存症


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

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記事:斉藤萌里(チーム天狼院)
 
 
「え、毎日本読むなんて、偉いね」
 
大人になってから、そう言われることが増えた。
新卒で入社した会社の先輩、同僚。
お義父さん、お義母さん。
小さい頃から自分を知っている人ではなく、大人になってから知り合った人たちに、なぜか感心されることが多い。
「本を読む」ということ。
夜寝る前と朝起きてから、本を読むことがルーティンになっている私は、その言葉を言われるのがちょっと嫌だった。
 
いや、ちょっとどころか、かなり嫌だったかもしれない。
だって、私は人から感心されるようなことをしている自覚が全くないんだもの。
運動が好きな子供が休み時間に外に遊びに行くように、
ゲームが好きな人が四六時中画面とにらめっこするように、
ただ私は自分がしたいように、本を読んでいた。
 
親がちょっと心配するぐらい、子供の頃から超インドア派だった。
先生や親に褒められるのは、決まってお絵かきやピアノ、裁縫。
「足が速いね」も「元気でいいね」もなかった。
好きなことは家の中でできることばかりで、その中の一つが読書だった。
その中でも大好物は「物語」。つまり、小説だ。
それも、文豪の小説ではなく、流行っている大衆小説。
ライトノベルにはまることもあった。
ミステリー、ファンタジー、歴史、恋愛、お仕事小説、どんなジャンルも割と抵抗なく読めるタイプで、気になった本を手に取ってみる。
新しいジャンルに出会えた時の喜びはひとしお。
 
なぜ、私はこんなにも物語が好きなんだろう。
自問するまでもなく、答えは一つしかない。
私、「超」が5つぐらいつくほどの、ネガティブ人間。
ストレスが溜まるとお腹の底からキリキリと痛みだし、明日どう過ごしたらいいかわからないくらいとことん塞ぎこんでいる。
塞ぎ込みながら「ダメだー」「無理だー」と喘ぐこともあるのだけれど、どうもこれは精神衛生上良くない。
 
気づいた私は、常に精神的に辛くなったとき、「物語」の世界に逃げ込むようになった。
 
とんでもなく謎が気になるミステリー。
恋で悩んだときはハッピーエンドの恋愛小説を読んだし、逆にささくれ立ったときはドロドロの恋愛ものを読んだ。
一人暮らしが寂しいと思うときは心がほっと温まる家族の物語。
その一つ一つの物語が、私にとっては癒しと慰めだった。
恋人と嫌なことがあっても、「寝る前にあの本の続きが読める」と思うととたんにワクワクした気分になれたし、テストの点数が悪くて凹んだときは、テストのことを忘れられるような、謎に出会いに行った。
 
そんなふうに、本は私にとって精神安定剤だったから、
「毎日本読むなんて、偉いね」
と言われることが不思議で堪らなかったし、「いえ、そんな大層な人間じゃないんです。すみません」と心から謝りたいと思った。
 
物語がないと、立てない自分。
 
情けないし、本当は自分の力で立ち上がりたい。
本を読まなくても生きていける人間になりたい。
 
大学時代の友人に、そんなことを相談したことがある。
 
「“物語依存症”だねえ」
 
その友達も、たくさん本を読む子だった。
日本の大衆小説ばかり読む私と違って外国文学をよく読んでいる子で、本屋さんに一緒に行くと、どの外国文学がこうで、とすかさず解説してくれる。
物知りで、賢くて、本を読んでいて。
「本を読む人」というのは、本当は友人のような人のことを言うんじゃないかと思った。
 
「物語依存症」
 
ぱっと聞いた感じ、なんだその物騒な言葉は、と思った。
依存症。
お酒とかギャンブルとかタバコとか、大抵は良くないイメージで使われる。
けれど、確かに考えてみれば、アルコール中毒の人はお酒がないと生きていけないだろうし、タバコが好きな人は、「タバコ休憩」に行かざるを得ないのだ。
 
私は、物語を読まざるを得ない。
依存症なんだ。
依存症なんだから、「本を読んで偉い」というのはまったく違っていて。
理性とは別のところで、本を読んでいる。
すごくもないし、偉くもない。
 
でも、本を読まない人にとっては、やっぱりどうしても、「本を読む=偉い」という方程式ができてしまう。
それは、本がイメージさせる「活字」「難しい」「眠くなる」といった、多くの人が感じている印象のせいかもしれない。
確かに、活字。
文字しかない。
漫画みたいにイラストがあれば分かりやすいし、映画みたいに映像があれば疲れないで見ていたられる。
文章が分かるのは、賢い人だけだと思っているのなら、「難しい」と感じるのもそうかもしれない。
「眠くなる」のは単純に、まだ自分に合う本に出会ってないからなのかも。
全部、客観的に考えれば確かにそうかもしれないと思うことが多い。
 
でも。
それでも。
本を読むことが、偉いというふうに思って欲しくない。
本はもっと身近にあって欲しいし、少なくとも私の中では、本は友達みたいなもの。
本気で面白いと思うものもあれば、時々「合わないな」と読み進めるのが大変だと思うときもある。
けれど、まさに「みんな違ってみんな良い」本たち。
本を読むことなんて、全然偉いことじゃないんだ。
物語依存症。
今はとても、この言葉が気に入っている。
 
 
 
 
***

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2020-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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