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リュックサックが重くなってきたら、スポンジを思い出そう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐々木 慶(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「なんで、こんなに重いの?」
「ただ、入れているだけじゃないの?」
 
彼女からのまさかの発言。
あんなに応援してくれたのに。そんなひどいことを言うなんて。
頭を急に殴られたような気分だった。
意味が分からなかった。
こんなに頑張ってきたのになんで? 何が悪いの?
そんな言葉が、私の頭をぐるぐる巡った。
 
好奇心の塊。
自分自身のことを一言で言うと、こんな言葉が浮かぶ。
知らない街に一人で出かける、出かけた先で初めて会った人と仲良くなって、その日のうちに呑みに行く。これは、私にとっては何の不思議もない、日常のことだ。
 
これだけ聞くと、きっと昔から好奇心旺盛だったに違いないと思う人もいるだろう。
しかし、実際はそれとは真逆の生活だった。
 
「なんで、全然しないの? 少しはやりなさい!」
小学生の頃、親からそんなことを言われていたことをよく覚えている。
それくらい、私は家の手伝いを全くしていなかった。
かといって、外に出て遊びに出ていたわけでもないし、室内遊びに打ち込んでいたわけでもない。
 
宿題をする以外は、ただただ、テレビの画面を見ながらぼーっとしていたのだ。
当時を振り返ると、学校や家族と出かける以外は、家から出た記憶がない。
親から見たら、なんて社交性のない子どもに見えたことだろう。
「少しは積極的に行動しなさい!」
よくそんな風に怒られた。きっと、親からしたら、激励の意味もあったのだろう。
ただ、私だって、ずっとぼーっとしたかった訳ではない。
積極的に行動するということが、自分から行動する方法が分からなかったのだ。
分からないからぼーっとする。親から怒られる。でも、どうしたらいいか分からない。
負のループに嵌まった私はよく泣いていた。
 
しかし、そんな状況も年齢が上がるにつれ、徐々に変わってきた。
中学校の時は、その後長い付き合いになる友人達と出会い、彼らとよくつるむようになった。
高校生の時は、進学した高校が地元から離れていて、電車で通わないと行けなかったから、外で一人で行動することに抵抗がなくなった。
大学生の時は、地元を離れ一人暮らしを始めたので、最低限の家事はこなせるようになった。
知らない街に一人で出かけたり、知らない人と話すことが楽しくなった。
 
次第に自分に自信がついてくるのが分かるようになってきた。
なんだ、自分だって、こんなに積極的に行動できるんだ。やればできるじゃん。
ただ、ぼーっとしていた人間から好奇心に溢れた人間に変化したのだ。
 
社会人になってからは、その変化にさらに拍車がかかった。
就職先は、地元でもなく、母校の大学があった街でもなく、縁もゆかりのない場所にある企業を選んだ。
きっかけは、大学生の時にサークルメンバーと一緒に行った旅行。
まったく知らない街だったが、私の心にとても突き刺さったのだ。
宿泊した旅館のスタッフや偶然乗った路線バスの運転手の素朴ながらも飾らない優しさに心が動いた。
この街に住みたい。それに、なんだか自分に合いそうな気がする。
そんな直感にも似た思いがしたのだ。
 
既に就職活動は始めていたが、その時までその街のことは全然知らなかった。
ただ、そんなことは気にならないくらい、気持ちはまっすぐだった。
その街に住みたい、そんな気持ちが私を突き動かした。
その街のことをひたすら調べ、ひたすら勉強した。
結果、就職活動は成功し、住みたかったその街に住むことができた。
自分の意思と行動力で住む場所も働く場所も決められた。
自分で自分を褒めたことをよく覚えている。
 
願いが叶ってスタートした、知らない街での社会人生活。
胸が弾んだ。
職場の同期や先輩から、その街の名物や定食屋さんや町中華といった地元の人しか知らないような飲食店を教えてもらい、片っ端から足を運んだ。
その街のことをもっと知りたかったから、その街のことが書かれている本や雑誌、新聞記事を片っ端から集めた。
好きで、知らない街に移住して、さらに情報収集も怠らない。
そんな自分のことが誇らしかった。
 
だから、気付かなかった。それが間違った方向に進んでいるなんて。
 
就職して7年。
私には彼女ができた。
彼女は、その街生まれその街育ちの生粋の地元人。別の会社ながらも同じ業界の人だった。
外からまだ不慣れのことが多い私に対して、お店の情報や地元の方言などいろいろなことを教えてくれて、そして優しく見守ってくれた。
 
ある日、彼女は私にこんなことを言ってきた。
「ねー、なんでこんなに重いの?」
聞くと、いつも私が持っていたリュックサックのことを言っているらしい。
私にとって、リュックサックが重いのは当たり前になっていた。
だって、中には、何冊かの本、雑誌、新聞記事の切り抜きを入れたクリアファイルの束が入っていたのだから。
背負うたびに、両肩がズシッとくるのが分かったが、気にも留めなかった。
だって、それは自分が努力して情報を集めた証だから。
彼女にそのことを話した。
そっか、頑張ってるね。
そう言ってもらえるものだと思っていたが、彼女から出たのは予想外の言葉だった。
 
「そんなに手元に持っていて意味があるの? ただ、入れているだけじゃないの?」
何を言っているか分からなかった。
頭をハンマーで殴られたような気分だった。
いつもはあんなに優しいのに、あんなに応援してくれているのに。
私の努力が無駄だと言いたいのか。
そう、感情的に言ってしまうのをこらえて、理由を聞いてみた。
すると、こんなことを言ってきた。
「本を買うのも、情報を集めるのも悪いことではないけど、ただ入れているだけじゃその本も情報も無駄になっちゃうよ。整理しないと」
 
その言葉にはっとした。
もともと興味があって手に入れた本や雑誌や新聞記事たち。
しかし、リュックサックに入れたまま放置していることが多かった。
本や記事の内容を最後まで読むことはほとんどなくなっていたのだ。
むしろ、リュックサックにどんな本、雑誌、新聞記事を入れているのか分からなくなっていた。
これでは、いくら情報を持っていても何も持ってないのと同じだ。
努力の証がいつの間にか、こだわりというただの重荷になっていていたのだ。
 
そのことに気付いてから、私は重荷を背負うのを辞めた。
リュックサックから荷物を全部出した。
その中から今本当に読みたいものだけを選んで、リュックサックに入れるようになった。
 
すると、どうだろう。
手元に持っている情報源は確実に少なくなったのに。今までよりも情報がスイスイと頭に入るようになった。
次はどんなことを調べようかという好奇心も以前より湧くようになった。
 
自分のこだわりをいったん吐き出す。
そうすれば、きっと乾いたスポンジのように情報も好奇心も入ってくる。
 
リュックサックが重くなってきたら、スポンジを思い出そう。
そう心に決めた。私のリュックサックがいつまでも軽いことを願いながら。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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