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私が自立した日~母の最期の総仕上げ


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記事:三谷 智子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
生前の母が残した、メモがある。
母は、悪性胸膜中皮腫という、肺の病気で亡くなった。60歳だった。病気が何かを突き止めるため、たくさんの検査を1か月間かけてした。母にとっては、死を覚悟した1か月だった。母は備忘録として、メモを書き始めていた。
メモには、日々の出来事も、死ぬまでに会いたい人も、母自身の葬式の段取りも書いていた。
病気を診断された2か月後では、字を書くこともままならくなった。
もし診断に1か月を要しなかったら、母のメモはこの世に存在しなかったかもしれない。
 
そのメモの中に、私たち家族それぞれに向けて書かれた、メッセージがあった。
父、私、弟2人のそれぞれに宛てて書いている。母の想いが詰まったものだ。
母は、家族宛てに書いている箇所を、最初は隠していた。
母が書いてから数か月経った頃、私が偶然見つけた。メッセージを見つけた頃、病状が進み、母は曖昧な意識状態となっていた。
 
私に向けた内容は、こうだった。
「結婚して、子供を授かり、家庭を築く。そんな幸せを心から願っていたけれど。お母さんの看病に明け暮れてしまったね。しっかり者のともちゃん。しんどいこともあったでしょう。おかげでお母さんは大助かり。お父さんの定年を祝ってあげてね。お父さんたちをお願いね」
 
初めて読んだとき、涙が次から次に溢れた。どんな思いで母は書いたのか。母の気持ちを思うと、涙が止まらなかった。
家族それぞれ、母の生前に読むことが出来て良かったと、今でも思っている。母が死を覚悟し、伝えたメッセージは、私たち残される家族に心構えをさせてくれた。
 
今年の5月、母の三回忌をした。母のメッセージは生前から今まで何度も読んだ。実は大なり小なり差はあれど、読むたびにいつも、「ん?」と私の心にひっかかるのだ。抵抗があるというか。
三回忌を機にではないが、今一度自分の心をそのまま感じてみようと思った。
 
結婚して、子供を授かり、家庭を築く。確かに、私はどれも出来ていない。母の望む姿ではなくとも、これが私。じゃあ私は不幸せなのか。いや、違う。
私は結婚を諦めなきゃいかんのか。お母さんが原因やって、言わんばかりの文面やん。なんでやねん。お母さんのせいちゃうし。というか、私は諦めてへんわ。
お母さんの看病をすることが、どうして不幸やねん。確かにきつかったよ。しんどかったよ。でもそれ以上に、病院で働く薬剤師となった自分が、誇らしかったわ。
しんどくても仕事を続けてきて良かったと思った。しんどいくらいの仕事の経験がなきゃ、お母さんに薬の指導をするのは、怖くて恐ろしくて出来なかった。とっくにプレッシャーに押しつぶされてたわ。
今の自分だからこそ、お母さんの看病へあたれると思った。看病できることは、私にとって幸せだった。私が役に立てることは、代えがたい喜びやった。
 
それとやな。私へのメッセージなのに、どうして他の人のことを書くねん。他の人のときは、その人だけに向けてやん。なんで、お父さんや弟のことも頼んでくるよ。
お母さんは知らないだろうけど、お父さんも弟2人も、もの凄くしっかりしてんねん。
お母さんが亡くなった後、私はボロボロになって、もう死んじゃおうかと思った。そんなとき、お父さんと弟2人が協力して、代わる代わる私を励ましてくれたんよ。
「ねえちゃん、しっかりせえ!!」って。お母さんの代わりに、ねえちゃんを支えようとしてた。3人ともすごかった。特にお父さんがすごかった。みんな、私とお母さんが思うよりも、しっかりしてて、とても頼りになるよ。だから私が、どうにかせんでもええねん。
 
次々と出て来る言葉は、母のメッセージへの反論だった。母のメッセージ、それもありったけの想いがこもっているメッセージへ抗うことは、私には罪悪感があった。心の奥にある気持ちを感じることなく、蓋をして押しとどめていた。でも、一旦蓋を開けると、たくさんの言葉があふれ出てきた。
たくさんの言葉を出したことで、気づいた。母のメッセージを受け取ることは、母の謝罪を受け入れること。私は母が悪いなんて、これっぽっちも思っていない。
 
お母さん、ごめん。このメッセージそのままは、受け取れない。お母さん、何も悪くないもん。
 
母への想いが強いあまり、私は母の価値観そのままを受け入れなければいけないと長い間思っていた。母の想いそのままを実現することが、私の望んでいることだと思っていた。
でも、母の価値観を鵜呑みにしている自分へ違和感があったからこそ、母のメッセージにひっかかっていたのだ。
 
私の価値観は、母とは違う。
私は、母のメッセージをそのままでは、受け取れない。私は、私自身の思いを大事にしたい。
私は私、母は母。
母の最期のメッセージが、私を母から卒業させた。私を自立へと導いた。
母が私にしてくれた、最期の総仕上げだった。
 
 
 
 
***

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2020-07-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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