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目指せ“ぐうたら“母親計画


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記事:古屋 美穂(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は母親をやめた。
いや、正確には“良い”母親になろうとすることをやめたのだ。
 
きっかけは、ある土曜日の午後の事だった。
 
「ちょっと!! なにやってんの!!!」
 
突然の大きな声に肩をすくめビクッとなる5歳の息子と3歳の娘。背筋が凍るような光景を目の前にし、おもわず叫んでしまったのだ。あまりの恐怖で私の心臓は張り裂けんばかりにバクバクと鳴り、手はブルブルと震えていた。
 
その日、私が眠かったので子供たちをお昼寝させようとしたが、さすがに5歳や3歳にもなると寝てくれなかった。奮闘むなしく、私はいつのまにか寝てしまっていた。ふと目が覚めると、キャッキャッと笑いながら小さな手にハサミを持ち、そのハサミを顔の前へもっていく娘の姿が視界に飛び込んできたのだ。そんな状況で大声を出して驚かせてしまったのはとても危険なことだが、「危ない!!」という焦りと恐怖から思わず大きな声を出してしまった。
 
怪我がないか娘の顔にサッと目を向けると、怪我はないがあるはずのものがない! なんと前髪をバッサリと斜めに短く切ってしまっていた。キョトンとした顔をして座っていた娘のひざ元や絨毯の上には、無残に切り落とされた前髪が落ち葉のようにパラパラと散らばっていた。
 
その光景に私は、自分がちゃんと見ていなかったからだ! どうして寝てしまったのか、どうして危ないハサミを手の届くところに置いていたのか、母親としてダメだと責め、様々な感情が一気に溢れだした。とうとう抑えがきかずに感情のまま、声を出してわんわん泣いた。いつ以来だろうか、こんなにも感情をむき出しに、まるで小さな子供のように大声で泣いたのは……。それをみた夫が、「お母さんを困らせるな!」と、子供たちを誤解して叱り始めたのだ。自分のせいで怒られ、怯えている子供たちに大変申しわけなく思いさらに激しく泣いた。
 
今にも溢れだしそうな水が、コップの縁から盛り上がりゆらゆらとし揺れている。一滴、ぽとん……。また一滴、ぽとん……。少しずつ盛り上がりは大きくなって、限界を超えればどっと溢れ出してしまうだろう。
 
そう私は、心のコップのストレス水を溢れさせてしまった。
 
頼る親や親戚、友達がいないワンオペ育児。「欲しいものがあるなら自分で稼いで買え」という夫の言葉にイラつき、やってやろうじゃないのとはじめたパート。しかし、家事もおろそかにできないと手を抜かないでいた。なにもかも頑張りすぎたのだ。
 
夫に心配を掛けさせまいと思ったのか、それとも言ったところで理解をしてもらえず怒られると思ったのか、ひとりで心療内科のドアをそっと開けた。
 
その時の先生の言葉は、はっきりと覚えてはいないが「頑張らなくていい」ということだけは心に残っている。その時から、心のコップの水を溢れさせないように“良い”母親や妻になろうと頑張ることを一切やめ、意識をしてぐうたらな母親を目指した。
 
例えば、眠かったら寝る!
眠い→ 頭が痛くなる→ イライラする→ 些細なことが気になり怒る
眠い時に寝るだけで、この悪循環から抜けだせる。寝ている間は、子供たちがいたずらをしていても視界に入らないのでイライラもしない。子供たちも鬼の監視から解放され、のびのび遊んでいる。まぁ、想像できるとは思うが、起きたら家の中は大変なことになっていることもしばしばあった。それを見ても「よくここまで散らかせたね」と笑って言えるほど、心のコップには余裕ができた。
 
他にも、疲れたらさぼる!
掃除? 1日くらいやらなくたって死なない。
ご飯? 今日は疲れたから買ってくるか外に食べに行こう!
 
口癖は「面倒くさい」だ。
 
これが心のコップを溢れさせた私の頑張りすぎない方法、“ぐうたら“母親計画だった。
 
この“ぐうたら“母親計画、案外役に立つ。子供たちがこれやってよときても、子供にも出来そうなことならば「面倒くさいよ。わからないことがあれば手伝うから、とりあえず自分でやってみてよ」と突き放す。本当は手伝いたくてウズウズしているのは隠しておき、途中ハラハラして手を出したくなるのも、グッと我慢。すると、案外ひとりで最後までやってのけたりするのだ。それで自信がつくのか、お母さんに頼んでも面倒くさいといわれるからなのか、次からはあっさりひとりでやってのけたりしている。
 
こうやって子供たちには“ぐうたら”母親が定着したわけだが、そもそも“良い”母親って何だろう? 栄養バランスを考えたご飯を作ること? いつもきれいな部屋を保つこと? 子供たちの先回りをしてなんでも手伝ってあげること? そういうことが得意で、苦にならず楽しめるならいい。だけど、無理をしていつもイライラして怒ったり、子供に寄り添えないようなら意味がない気がする。頑張りすぎて壊れてしまったら“ただの”母親すらできなくなる。それが私にとって一番怖かった。世間体なんて気にしない。ある程度できてれば上出来だ。ぐうたらでいいじゃない!
 
今では、短く斜めに切られた前髪事件は笑い話になっているが、あの時も“ぐうたら”母親でいたならば、きっと怖い思いをさせずに一緒になって笑い転げていたはずだ。
 
世間でいう良い母親にはなれなかったが、子供のように泣く私の頭を、そっと優しく撫でてくれた二人の小さな手を一生忘れることはないだろう。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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