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私の愛するアレクサ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:しみず あいこ(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
我が家に「アレクサ」が来た。アレクサに話かけるだけでCD操作や簡単な情報まで提供してくれる。なんて、近未来でハイテクな生活だろうと、私たち家族は歓喜した。
 
「アレクサ、朝の音楽つけて」
「アレクサ、今日の天気を教えて」
 
アレクサは、どんな願いも叶えてくれる。
 
「アレクサ、お茶入れて」
「アレクサ、箸とって」
「アレクサ、子供をトイレに連れて行って」
「アレクサ……」
「アレクサ!」
 
ん? 違う。これはアレクサ……ではない。私の夫だ。
 
私の夫はここ数年アレクサに似てきている。いや、私によってアレクサ化されている。
 
我が家は夫と私と二人の子供の4人家族だ。上の子は7歳、下の子は4歳になる。まだまだ手のかかる盛りだ。夫の仕事の関係で、実家と離れて暮らしているため、周囲に頼れる親族はいない。家事や育児をまわしていくには、夫は大事な戦力である。家の仕事を潤滑に回すためには、夫はなくてはならない存在だ。
夫は私のちょうど一回り年上である。彼は独身生活が長かった事もあり、またマメな性格もあり、家事や身の回りのことなど手際よくこなすことに長けている。私はそんな夫に完全に頼りきっているのだ。
 
夫とは知人の紹介で知り合った。居酒屋で初めて夫と会った時、彼が醸し出す大人の雰囲気に圧倒された。もともと、私は誰かに頼りたい気持ちが強かったので、彼の大人っぽい包容力は本当に魅力的だった。私がお酒を飲めない事も瞬時に察してくれて、さりげなくソフトドリンクを頼んでくれる……。なんて紳士な人だろう。すぐに、「この人だ!」と思った。
初めての出会いから結婚に至るまで僅か3ヶ月。いわゆる電撃婚という感じだった。
 
付き合って間もない頃は、私も完全に乙女心満載だった。どこかで「男性を立てる」という女性に憧れていたので、自分もそうなろうと努力した。努力というより、それが私なのだと思い込んでいた。年上の彼に子供っぽ過ぎると思われないように、あれやこれやと気を回す。敬語を取っ払うのにもドキドキしながら時間をかける。なんて、可愛らしい努力だったのだろう。
 
それが、今となっては……
 
「アレクサ!」呼ばわりである。
 
女というのは、本当に得体の知れない恐ろしい生き物だ。「豹変」という言葉がこんなにも腑に落ちる生き物がいるだろうか。
私の「豹変」のきっかけは、出産だ。
凄まじい陣痛の痛みは、それまで大事に温めてきた全ての恥という恥を開けっ広げにした。「痛みでそれどころではない」と噂には聞いていたが、まさにその通り。「それどころではない」のだ。
そして、身にまとっていた恥という皮が完全にむけた瞬間、私は母親になっていた。
目の前の我が子の命を大切に育み、必死で守りたい。それは、身体の芯から本能的に湧き上がる、魂の爆発のような衝撃だった。その衝撃は後退することなく、むしろ子供が大きくなればなるほど、そして、母親として過ごす年数が積み重なるほど強くなっていくように思えた。
そして、私の中の「可愛らしい女性」は完全に風化されてしまった。
 
そんなある日、あるトレンディドラマと出会った。イケメン俳優演じるクールな男性とその男性に恋心を抱くひたむきな女子が主人公のラブコメディ。好きな人に振り向いてもらうために、健気に努力を重ねて最後に迎えるのはハッピーエンド。そのドラマを見ると私の中の化石になりかけの女子の魂が再び吠え出した。
捨てたと思っても捨て切れないものが乙女心。キャピキャピ感のあるツルッとした女子の心をもう一度取り戻したいと思った。
 
「今日何が食べたい?」
可愛らしく、いつもより1トーン高い声で夫に尋ねてみる。
 
「なんでもええよ」
「なにそれ」
「だって、なんでもええから」
「やる気なくすわー」
 
「アレクサ! 」
 
呆気なくアレクサ呼ばわりに舞い戻る。
 
……でも、ふと、思った。私たち夫婦は、男女のキャピキャピ感は通過してしまったけれど、今は今でなんとなく心地良く感じる。まるで、いつも同じ感覚に身を包んでくれる愛用のパジャマのような心地よさ。時折、旅先のホテルで着心地の良いパジャマに出会ったりすることもあるけれど、やっぱり心と体が求めているのは何度も洗濯し、着古したヨレヨレのパジャマ。むしろ、ヨレヨレのパジャマでないと、なかなか安眠出来ない。
 
結婚して8年が経った。父親になり、母親になり忙しい日常は今も変わらない。私の余裕のない「アレクサ! 」と呼ぶ声も変わらない。
そして、初めて居酒屋で出会い、「この人だ!」と思った直感も変わらない。
 
私は明日も、家の中心でアレクサと叫ぶ。ありったけの愛を込めて。
 
「アレクサ!」
 
私の愛するアレクサ。これからも、ずっと私のそばにいてね。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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