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人間関係をクロッキーで構築してゆく


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:荒川 未帆 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「席ついた?鉛筆持った? よし、じゃあ始めるよ~。よーい、スタート!」
 
場所は、中学校の美術室。
先生に用があってそこを訪れていた体育会系の私は、いきなり始まった奇妙な光景に戸惑いを隠せなかった。
 
中心に変なポーズをして立つ1年生
それをぐるりと360°取り囲んで座った部員たち
手にはバインダーに挟まれた紙、そして鉛筆
 
誰も何も発さない、ただ鉛筆が紙をこする音だけが部屋に響く10分間。
その静けさの中の異様な緊張感に、先生が来るのを待っているだけの部外者の自分までも、息を飲み込んでその場を見つめてしまうほどだった。
 
「はい、やめっ!」
 
アラームの音と同時に、世界に音が取り戻される。
「今日調子いいわ~」
「嘘、私全然だめだったあああ」
「うわ、ここよく描ききったね」
さっきまでの静寂は何だったのか、急にガヤガヤと、おしゃべりな少年少女へと変わる。
 
やっと言葉を放つことを許された私は、同じクラスの女の子に尋ねた。
「ねえねえ、今何やってたの?」
 
「あ、これ? クロッキーっていうの」
「クロッキー……?」
「スケッチと同じだよ。短い時間で、みんなで同じものを描くの」
「はぁ……」
 
正直、今イチよく分からなかった。
彼女は今、描いていたモデルに対して背中側の、真後ろとも言えない絶妙な位置にいる。
表情も分からなければ、どんなポーズかも汲み取り切れない。
しかも各々の手には鉛筆があるのにも関わらず、消しゴムはない。
 
なんでこんな角度から?
鉛筆で絵を描くのに、なんで消しゴム持ってないの?
 
理解しきれない光景に考えることを諦めたとき、ちょうど美術の先生がやって来た。
自分がその場で浮いているような何となくの居心地の悪さから、思わず駆け寄って用件を伝え、その場を去った。
 
 
 
随分と前のそんな記憶を思い出したのは、大学3年生になった最近、言葉について勉強しているときだった。
 
「言葉を書くことを英語で“Writing”というけれど、僕はむしろ、“Lighting”の方だと思ってます。どうやって光を当てていくか、その方向や状況、使う光、その時々によって選ぶ言葉が変わってくるでしょう? いつもと違う方向から光を当てることで、また新たな発見があるかもしれない」
 
……なるほど、
確かに光の当て方を変えるだけで、その事物も、生まれる影も、変わってくる。
 
まさに脳内が一個のリンゴの周りを照明で取り囲む図を想像したとき、あの日見たクロッキーの風景と重なった。
 
そうか、そういうことだったのか。
 
1人の少女が、輪の中心に立っている。
こちらから顔は、見えない。
 
けれど、
少し跡のついた後ろ髪、
制服の絵の具の白い汚れも、
スカートの裾が少しほつれも、
片側に寄って削れた靴底も、
それらは全部、こちら側からしか見ることができなかった。
あの子は、それを切り取っていたんだ。
たとえ顔は見えなくても、そのモデルの特徴を丁寧に読み取って。
消しゴムで消せない、間違えることの許されない状況で、
丁寧に、でも素早く描きこんでいく。
その繰り返し。
クロッキーとは、その工程や視点を学ぶ練習だったと気が付いた。
 
あの日、声をかけた同級生。
真正面から描いてなくても、彼女の絵は美しかったことを覚えている。
顔を知らないはずなのに、少しのやんちゃさと、芯の通った性格、けれど結った髪をほどいた女の子らしい柔らかさ、顔がぽやぽやと想像できるような後ろ姿。
 
もし正面から描いていたら、その描かれた顔やポーズばかりに気がとられていたかもしれない。モデルの細かい“らしさ”は、きっと分からなかった。
いつもは目に入らない部分にもきちんと目を向けていくことで、また新たな面に気づく。
 
言葉やクロッキーだけじゃない。
人間関係こそそうあるべきだ、と思った。
 
 
1つの物事に対して、自分と他者の感じ方や捉え方が同じ方向性・深さなのかは分からない。これは相手の欠点だろうと自分は思っても、それをその人の魅力だと感じる人がいるかもしれない。
過去に、理解できない! 好きじゃない! 苦手! と距離をとった人や物事は、もしかしたら自分から見た1面だけで判断していなかっただろうか?
自分だけの基準で、その人との付き合い方を決めていなかっただろうか?
 
人と付き合っていく上で、自分から見た視点だけでなく他の視点を持つことは、今の自分の立ち位置からちょっとずらすだけで十分なのかもしれない。
相手を360°から見た姿をそれぞれ描いていったとき、本当のその人のことを認知し、知ることができるだろう。
文字にすると少し難しく感じるけれど、その人をモデルにクロッキーを描くと考えれば、今日からあなたも多くの視点を身につけられるのではないだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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