メディアグランプリ

「横道世之介」と踊る青春 ~足を止めたらサヨウナラ~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2021年1月開講】天狼院「リーディング&ライティング講座」開講!本を「読み」、そして「書く」。「読んで終わり」からの卒業!アウトプットがあなたの人生を豊かにする「6つのメソッド」を公開!《初心者大歓迎!》

記事:大野了(リーディング&ライティング講座)
 
 
なんて軽やかな小説なんだ。
 
いつまでも終わって欲しくなかった。
ずっとこの小説の世界にいたかった。
 
こんなに主人公が身近に感じられる小説、出逢ったことなかった。
 
世之介、どこかにいるよね、日本のどこかに。そんな気持ちになる。
もう、彼は私の同級生のひとりになってしまっている。
心の中に完全に「横道世之介」という男が棲みついている。
 
どんな男なの? と言われても少し困る。
思ったのは‘人生にYESを言い続けている人’ということだ。
 
世之介はとっても素直だ。人生で起きることに素直に反応する。
だから世之介の周りには、面白いことが起こり、面白い人が何だか集まってくる。
まるで「人との出会い」を引き寄せる磁石みたいだ。
そしてなぜか出逢った人の心に永遠に残る。
 
小説では大学1年生の12か月を順に追っていくのだけど、合間に20年後の現在の話も挿話されて、それが‘愛おしい青春’を浮きだたせる効果を上げている。
 
心の奥がキュッと切なくなるくらい、何でもない日々が、かけがえのないひと時だったことを感じさせてくれる。
 
だからこの小説では、ふたつの青春を味わえるのだ。
 
今、まさにその時を生きている青春。
振り返って、想いが切なく募る青春。
 
どちらも存分に味あわせてくれる。
 
それと、この本は自身の青春も鮮明に思い出させる強力な‘記憶再現装置’になっている。
 
あの頃の懐かしさと切なさが心に湧きあがって、次から次へと忘れていた思い出が溢れ出す。今、あいつ何してるのかな、なんてこの20年思い出さなかった友人のことを思い出して、気づいたら大学時代のアルバムを開いていた。びっくりするくらいリアルにあの感覚が蘇ってくる。
 
身体があの頃の熱を帯び、勝手に動き出していく感覚。
 
「世之介、踊れよ」
 
世之介が上京してまもなく従兄の清に突然、言われる言葉だ。
 
「は?」
 
「なんで踊るかなんて、意味を考えちゃダメなんだよな、きっと。一度足をとめたらあとはどんどんあっちの世界に行っちゃうんだ」
 
そんな世之介はサンバサークルで踊っていたが、私も同じだった。
 
私も入学式の日にダンスサークルに直感で入って、6月には新宿のクラブのダンスパーティで派手なシャツで踊っていた。自分の出番が終わって興奮したまま買い出しに出かけ、歌舞伎町をまさしく跳びはねながらコンビニに向かっていると、前から見たことのあるメンバーが歩いてくる。
 
高校の同級生だった彼らに私は後先考えずに「おー! 久しぶり、今、そこで踊ってんだよね! 良かったらおいでよ!」と声をかけた。その後、彼らがどんな言葉を返してくれたから全く覚えていない。ただ、彼らの凍り付いた表情だけが脳裏に残っている。
 
夜、高校時代の親友から電話がかかってきて、「お前、浪人生全員を敵にしたな」と言われた。彼らは代々木の予備校からの帰りに新宿のラーメン屋に寄っていたのだ。
 
やってしまった……。
 
浮かれていると思い切り間違う。
浮かれていると人を傷つける。
とにかく私は浮かれていた。
 
後悔してももはや遅く、私は卒業してから「あいつ、調子に乗りやがって」と浪人生ネット―ワーク全員から嫌われてしまったのだ。
 
でも、私はその後も気にせず踊り続けた。なぜ、あの時、そんなぶっとく図々しい無神経さを持っていたのか、社会人になって、人目を気にして生きてきた習性が身についてしまった今、理解ができない。
 
それを今、振り返って否定も肯定もしない。でも、後悔はしていない。
 
「横道世之介」を読めばいつでもあの時に戻れる。無軌道に「踊っていた」あの頃を思い出し、何なら今も「踊っちゃえば」と言われているような軽快な読後感に包まれる。
 
こうして天狼院書店のゼミに参加している今も、きっと何だか踊りたくて、申し込んだのかもしれない。
 
「なんで踊るかなんて、意味を考えちゃダメなんだよな、きっと。一度足をとめたらあとはどんどんあっちの世界に行っちゃうんだ」
 
いきなり小説家を目指し始めた従兄の清が、世之介に言った言葉をそのまま信じて言い換えると、
 
「踊り続けていれば、ずっとこっちの世界にいれる」ということだ。
 
もし、あの時を忘れてしまったなら、何も考えずに、ただこの小説に身を委ね、思うがままに踊ってみてほしい。
 
気づくと軽やかなステップを踏んでいるはずだ。
 
そして、‘青春’はまだ確実に心に生きていることにハッとする思う。
 
そんな不思議な力がある小説だ。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の「リーディング&ライティング講座」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミ、もしくはリーディング&ライティング講座にご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

【2021年1月開講】天狼院「リーディング&ライティング講座」開講!本を「読み」、そして「書く」。「読んで終わり」からの卒業!アウトプットがあなたの人生を豊かにする「6つのメソッド」を公開!《初心者大歓迎!》

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事