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外出自粛で、本当に可哀想だったこと


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山田THX将治(ライティング・ゼミ特講)
 
 
『新年のご挨拶に代えて』
 
毎年11月に入ると、年賀状辞退を伝える、俗に“喪中葉書”というものが届き始める。
その多くは、祖父母や親といった年長者の逝去を知らせるものだ。私の様な年配者には、同年代の友人やその連れ合いの訃報を知らせるものが多く為る。
そして徐々に、喪中葉書自体の数が増えることに為ってくる。
 
通常、喪中葉書といえば、
『喪中につき』
という、接頭語から始まる。続きは、
『年始のご挨拶を失礼させて頂きます』
となる。その後は、
『本年□月△日に、〇の〇〇が××歳で永眠しました』
と、続くものだ。そこから先は、本年中に頂いた厚意に対する礼と、新年に対して“良き年”とは書けないので“佳き年”としたりして、目一杯の気を遣った文面が続くものだ。
 
冒頭の一文は、今年の11月に入って直ぐに私の所へ届いた喪中はがきの書き出しだ。私と同年輩の知り合いからの葉書なので、誰の逝去に対しての喪中なのかはすぐに解かった。しかし、その葉書には、逝去した者の名前も年齢も書かれていなかった。
 
その先には、
『新年のご挨拶を
申し上げるべきところではございますが
親族の喪中につき失礼させていただきます
明年も変わらぬご交誼のほどお願い申し上げます
令和2年11月』
と、簡素な文章が続いていた。
私はこの、簡素で何も修飾が無い喪中葉書を手にして、思わず切なくなってしまった。
 
この喪中葉書の送り主は、私より少し年配の方で、新潟で手広く事業を展開せれている方だ。私との付き合いは、9年程前からに為る。
その方は、私の甥と9年前に結婚した女性の父親だからだ。甥の連れ合いと為ってくれたのは、慈(めぐみ)という名の甥より5歳下の女性だ。無駄に背が高い甥(約190cm)とは御似合いの、長身美女(170cm超)だ。
私のカミさんが、御近付きの印に洋服を買いに出掛けたことがあった。長身のメグちゃん(直ぐに彼女はそう呼ばれた)は、洋服を買うのも苦労しそうだったので、サイズが豊富な新宿・伊勢丹に出向いた。お気に入りの服が見付かった様で、メグちゃんは帰宅して早々、私にお礼のメッセージをくれた。そこには、
「高価な服を、有難う御座います。大切に着させて頂きます」
と、書かれていた。良家の子女らしい、礼儀をわきまえたメッセージに、私は好感を得た。
結婚した二人は、三人の子宝(女・男・女)にも恵まれた。
 
私がメグちゃんと御逢い出来るのは、年に数回が限度だった。子宝に恵まれた後も、暫くの産休を取っただけで社会復帰するメグちゃんを見て、私は21世紀の女性像を見た気がして、とても頼もしく感じたものだった。
御実家が遠方地だったので、お正月でも新年の挨拶もそこそこに、帰省する甥一家を見送るのが精々だった。それでもメグちゃんは、妻としても母としても幸せそうに見受けられた。
 
今年の正月、例年通りカミさんの実家で、メグちゃんを始め甥一家と逢えるものと思っていた。ところが、昨年末に執り行われた義父の13回忌の際、義兄から、
「来年の正月は、メグちゃんの実家に年末から帰るって言っているし、俺等も旅行に行くから、来ても誰も居ないよ」
と、告げられた。婿さんの立場では我儘を言うことは出来ないので、黙って義兄の言葉に従った。
残念だったのは、メグちゃんの子供達に御年玉を渡せなかったことだ。
 
今年の6月、義姉から連絡は入った。その内容は、たった一文のメールで、
「メグちゃんが、ガンで亡くなりました」
と、いうものだった。私は、何のことか理解出来ずにいた。連絡を受けてすぐに電話をしたものの、メールの内容が事実らしく電話に出てくれることは無かった。
多分、急なことでごった返していると思われたので、私はカミさんと、取るものも取り敢えず、カミさんの実家へ車を走らせた。
 
メグちゃんが逝去したのは事実だった。
実家に行ってみると、既にメグちゃんは納棺せれていた。病に苦しんだであろうメグちゃんは、いつもの可憐な表情とは様変わりしていた。
ショックだった。
 
夏場のことだったので、メグちゃんをいつまでも実家に居てもらう訳にはいかない。早々に葬儀に段取りがされた。
ところがだ。折からの新型肺炎ウイルスの流行による外出自粛要請で、葬儀も思い通りに執り行うことが出来なかった。例えば、家族以外の友人知人に集まって頂くことは出来なかった。‘密’になってしまうからだ。集まっての飲食も制限されているので、精進落としの用意も出来なかった。
メグちゃんは本来なら、多くの親戚や友人が集まっても不思議が無い娘だ。上京し大学に通っていたし、東京で就職していたからだ。
しかも御実家は、新潟の方なら誰でも知っていそうな大家なのだ。
諸般の事情とはいえ、メグちゃんをこうした家族葬でしか送ることが出来ない現実に、御両親と二人の兄は、さぞかし残念だったことだろう。
 
それより何より、8歳・5歳・2歳にしかなっていないメグちゃんの子供達への対応にも苦慮した。
 
8歳の長女は、言葉には出来ないものの、事の重大さだけは理解している様だった。ただの一言も、
「お母さん」
の言葉を発しなかった。
 
5歳の息子は、甘えん坊なので、周囲の涙を誘った。御別れに、想い出の物を一緒に納棺する様に告げると、メグちゃんが息子の誕生日に買い与えた怪獣のぬいぐるみを入れると言って来た。
ところが、いざお棺に収めようとすると、再びぬいぐるみを抱きかかえ、
「お母さんが帰って来たら、一緒に遊ぶから入れない」
と、言い出した。幼いなりに、必死に自分の感情と戦っているのだろう。私は、言って聞かせる言葉が出て来なかった。
 
まだ十分話すことが出来ない2歳の次女は、ただただ父親(甥)の傍に居続けていた。
 
お通夜の当日、メグちゃんの御両親と御逢いすることが出来た。気丈に振舞う御尊父に、私は、
「言葉も有りません」
と、告げるのが精一杯だった。同世代の者として、何を伝えても悲しみ・寂しさ・悔しさが軽減されることは無いと、私も痛感出来るからだ。
 
メグちゃんの御母堂によると、メグちゃんの家系には、女性特有の“遺伝制癌”の傾向が在るそうだ。メグちゃんの祖母も、やはり遺伝子による乳癌で若い時に逝去されたそうだ。
メグちゃんの御両親は、検査をする様、絶えずメグちゃんに告げていたそうだ。ただ、子育てと仕事をこなしながらでは、なかなか検査も儘ならなかった筈だ。3人目の子供が生まれた直後、業を煮やした御母堂が上京し、子守はするからと無理矢理メグちゃんを検査に行かせた。
検査結果は不幸にも、ステージ3後半の癌だった。
 
若い人を蝕む癌は、進行が早い。
メグちゃんの癌は、半年と経たずにステージ4に為っていた。ステージ4は、ガンの最終段階だ。
それからの2年、メグちゃんにとって子育てと癌との戦いが本業となった。
今年の正月は、少し具合が良かったらしく、子供達を連れて少し長目に帰省したそうだ。それで、私とは生前逢わず仕舞いとなってしまったが、それは仕方の無いことだった。
 
メグちゃんの御骨は、49日に墓に収められた。丁度、一年で一番暑い時期だった。
カミさんの祖父母と父親が眠る墓に、メグちゃんの骨壺は納められた。先に墓に入っていた3人は、勿論、メグちゃんが家族となる前に逝っていた。
知らない人の間で眠ることに為ったメグちゃんは、もしかしたら居心地が悪いかも知れない。本当の娘の様にメグちゃんを可愛がっていた義兄は、メグちゃんの御骨に向かって、
「直ぐに俺が行って紹介するから、暫く辛抱してくれよ」
と、冗談とも付かないことを言っていた。
結婚させたとはいえ、自分より早く他家の墓に入る娘を案じ、御尊父は何とも言えない表情をされていた。私は思わず義兄に、
「大丈夫。メグちゃんは誰にでも可愛がられる娘だから。既に、オヤジと仲良くしているよ」
と、言っておいた。正直なところ、泣くのを堪えるので必死だったのだ。
 
メグちゃんの納骨が済んで5か月後、メグちゃんの御両親から喪中葉書が届いた。
冒頭で紹介させて頂いた葉書がそれだ。
そこには、慈愛に満ちた娘に育つ様にと御両親が付けた『慈』の名も、34歳という若い年齢も、命日となった6月4日の記載も無かった。
 
いや、むしろ、御両親としては文字にしたくなかったのだろう。
自分の感情と何とか折り合う為に、そうした喪中葉書を作成されたのだろう。
 
私は、同世代の御尊父に、新年の挨拶に代わる手紙を返信しようと思う。
 
気持ちを和らげることは出来ないかもしれないが、私も貴方の万分の一位は、悲しみを背負わせて下さいと伝える為に。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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