メディアグランプリ

ハムより薄い


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記事:秋田梨沙(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「女の友情はハムより薄いわよ。せいぜい、このくらいね」
 
親指と人差し指の隙間をほんの少しばかり離して、先輩はニヤリと笑った。大学からの帰り道、寒空の下で何時間も女子トークに花を咲かせた別れ際のことだった。
「私とあなたの好みは全然違うから、この友情は続きそうでよかった」
表面上どれだけ仲が良さそうに見えても、女の友情などいとも簡単に壊れる。まして恋愛が絡んだら、薄くスライスしたハムみたいに簡単に破れちゃうのよ。そう語る先輩の姿がやたらとカッコよくて、二十歳の私はブンブンと頭を縦に振った。
 
私は、昔から「女子」というものが怖かった。
きっかけは、幼稚園に通い始めた5歳の頃、クラスにいた女王様だ。年少クラスのうちにヒエラルキーのトップに立った彼女は、年中さんから園に入った新参者を片っぱしからマウンティングしていた。きっと女子の世界ではよくある話である。早々に女王様に忠誠を誓えばよかったのだろうが、その辺の事がまだ飲み込めていなかった私は、事あるごとに文句をつけられた。その日もなんだかんだと嫌がらせをされた挙句に私は泣き、気が付いた先生に「どうしたの?」と声をかけられたのだ。すると彼女は豹変して言った。
「どーしたのぉ? だいじょうぶぅ?」
お前が泣かせたんだよ! と、思わず涙も引っ込んだ。幼心に女子とは怖い生き物だと思った。自分が女子であることは忘れ「女子=信用ならん」という図式が、この時すっかり出来上がってしまった。
 
こんなことがあったからか、元々の気質だったのか、「友達はほぼ男子」という幼少期を過ごした。思春期にはさすがに女子の友人も増えたが、いつも心の奥底には「女子怖い」の心があったような気がする。そんな捻くれてしまった私も、結婚し、出産した。
 
すると、やはりこの問題が浮上した。
 
「ママ友って作った方がいいのだろうか?」
 
女性集団からことごとく逃げて来た私にとって、これは大問題だった。子どものためにネットワークは作っておいた方がいいのだろう。でも、世間では「ママ友トラブル」なんて話もよく聞くし、面倒こそあれ、あまりメリットはないような気がした。あぁ、めんどくさい。そもそも、友達の作り方なんて忘れてしまった。
 
子どもが保育園に通い始めてからも、しばらく誰とも仲良くなることはなかった。たまたまお迎えのタイミングが重なるママさんと挨拶する程度。同じクラスのママさんたちが談笑していても、輪に入らずそそくさと帰宅していた。マウントされないように、完全武装。今思えば、かなり孤独な子育てをしていたと思う。
 
そんな時、いつも帰宅が一緒になるママさんがいることに気がついた。どうやら帰り道も同じようで、子どもたちも仲が良さそうだった。なんとなく同じ匂いがする。この人ならば「ママ友になってもいいかもしれない」と、思い切って声をかけてみた。
 
最初のうちこそ、ぎこちなく当たり障りのない会話をしていたけれど、ほとんど毎日一緒になるのである。だんだんネタも尽きて来た。なんとも苦しい沈黙。やばい、何話そう。ぐるぐる考えた挙句、ある日思わず、聞いてしまった。
 
「好きな芸能人は誰ですか?!」
 
突拍子もない質問に、相手のママさんの目がキョトンとする。
あ……、間違えた? いきなり不躾だったか? 変な人と思われたかしら?
いきなり妙な質問を質問をしてしまった自分を、なんとかフォローしようと慌てていたら、「ブッ」と吹き出す声がした。バツの悪い顔をして、そっと隣に目を向けた。たぶん、完全に私の質問はハズレだったのだけれど、「いきなりそれ聞きます?」と言いながら、そのママさんは快く答えてくれた。間にあった、薄っぺらい壁が壊れたような気がした。
 
その日を境に、私たちは少しずつ、自分の話もするようになった。
二人とも2人姉妹の長女なのだとか、実は歴史好きなんだとか、話せば話すほど意外な共通点が見つかったりもした。子育ての愚痴を笑いあったり、家族の悩みをポロっとこぼしたり、少しずつ、少しずつ仲良くなっていった。知らず知らず孤独だった子育てに、共に走ってくれる仲間を見つけたようだった。
 
それから6年が経ち、今では子ども「以外」の話をしている時間の方が長いかもしれない。怖い怖いと思っていたママ友だったけれど、大人になってから、こんなに話ができる友人ができると思わなかったと思えるくらいに、大好きな人だ。
 
これまで見て来た女の友情が、ハムように薄っぺらいのなら、大人の友情は「お餅」のようなものだ。出来上がるまでに、ついたり、返したり手間暇かかる。けれど、しっかり時間をかけて、ついてゆけば、おいしいお餅になる。ちょっとやそっとでは破れない、ながーく伸びるお餅になる。
 
そんな気がしている。
 
今もし、ママ友を作るべきか悩んでいる人がいるのなら、私の答えはこうだ。
ママ友は必ずしも必要ではない。けれど、ママにも友人は必要だ。
 
怖がらずに、同じ匂いがする人に話しかけてみたらいい。偏見だらけだった私が保証する。
 
あなたの子が繋いでくれた縁なのだ。きっと素敵な出会いになるはずだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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