人と比べることを否とする世の中で、それでも私が人と比べることをおすすめする理由
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:佐倉咲良(リーディング・ライティング講座)
あ、かなわないな、と思った。入社3年目と言えば、一応新人の部類には入るが新入社員というわけでもない。人によっては異動があり、また転職していく同期もいる。優秀な同期は結果を出し、みんな少しずつ自分のキャリアの方向性を見出していく。入社3年目って、そんな年代だと思う。
今年の春、そんなまさに入社3年目になったばかりの私にとって、仕事をするうえで一番尊敬し、「こんな人になりたい」と憧れる人がいた。製造業のとある管理系の職種で「人から頼りにされ、会社をより良くするために色々な改善が出来る人」になることを目標としていた私だったが、その人はまさに私の目標そのものだった。営業職などとは違って数字で結果が見えない職種ではあるが、組織の血流部分であり、きちんと動いて当たり前とされるのが管理系の職種である。加えて私の仕事は理系の知識が必要だ。学生時代に文系教科と理系教科でひどいときは50ほど偏差値が違い、大学受験の際は迷わず私立文系を選んだ私には辛いものがあった。
しかしそれでも、入社してからというもの、理系の知識も豊富で人から頼りにされ、現場で改善活動が出来るその人をがむしゃらに目指してきた。どうすればその人に追いつけて、どうすればその人と同じくらい人から頼りにされて、どうすればその人と同じくらい、いやそれ以上に結果が出せるのだろう。その人になろうと、その人を超えようと必死だった。
でも、ある時、心が折れてしまった。
心の病にかかってしまった、というわけではない。ただ、その人が遠すぎて冒頭の「あ、かなわないな」と思ってしまったのだ。どんなに頑張っても追いつけない。こんなに私が努力しているのに、一向に追いつける気がしないのだ。何が足りない? 地頭? 経験? 人脈? 目標が高すぎたのか? はたまた私が劣っているのか? 私は自問自答した。そして段々と自分の中のあきらめの感情が湧き出してきた。
「もうやめちゃえよ、どうせかなわないんだから」
「まだ入社3年目なんだから、そんなベテランと比べなくったっていいじゃない」
「人は人。自分は自分。比べるのなんてナンセンスだよ」
そんな声が自分の内側から聞こえてきて、私はついにその人を目標にすることを諦めた。どうしてもかなわないものを追い続けるほど辛いものは無かった。羨望や嫉妬という感情とおさらばして、楽になりたかった。人は人、自分は自分と割り切って、その人の陰に隠れて気楽に仕事をしていたかった。こんなストレス社会で、自分にプレッシャーを与えることはないと、自分に言い聞かせていた。
その考えは、数ヵ月後である今年の夏に大きく変わることになる。学生時代にソフトボールをしていたこともあり甲子園観戦が大好きな私は、今年は新型コロナウイルスの影響で甲子園が開催されないことにひどく落ち込んでいた。地区別大会をテレビで見ながら、加えて「おおきく振りかぶって」という漫画を1巻から読むことにした。この漫画はとある創設1年目の野球チームが甲子園優勝を目指す物語をえがいた漫画だ。現在33巻まで発売されているが、途中の10巻ではチーム内で実力No.2のキャプテンの花井が、実力No.1の類まれなる野球センスをもった田島に嫉妬し、田島の陰に隠れようとする場面で他のチームメイトに大事なことを気づかされるシーンがある。
「相手と比べて、打っても守っても、いっつも田島が目の前にいて、どーやったらこいつ超えられんだよって、どうにかして超えてやりてえって、毎日の挑戦と結果が苦しくて、辛くて“いい”んだ」
このページを見た瞬間、心にナイフが刺さったかのような感情になった。血がどくどくと流れていく。あ、これ私に向かって言ってるじゃん、と思った。今までの言動が恥ずかしく思えた。何が「気楽に仕事がしたい」だ。何が「自分にプレッシャーを与えることはない」だ。そんな感情は全部捨てて、徹底的に相手と比べればいいんだ。比べて比べて、超えようと思って努力して、それでも超えられなくて、しんどくて辛くて病みそうになって、それでもまた努力して。その過程が美しく、自分の殻を破るために重要なことなんだ。
この本を読んでから、私はまた再び努力を始めた。その人に追いついて追い越せるように、自分と比べてその人の仕事ぶりを猛研究し、理工系の国家資格を片っ端から受けて合格し、社外のセミナーにも参加し、様々な実用書を読んだ。それでもまだまだその人には追い付けないが、以前よりは近づけた気がする。社内外の人から信頼を寄せて頂けるようにもなったし、そのおかげで仕事がしやすくなり、楽しいと思えるようになってきた。「他人と比べながら努力するって、こんなにいいことずくめなんだ!」と思っている。
仕事だけではない。スポーツや音楽、趣味などで、「どうしてもかなわない人」は誰にとってもいると思う。上を見ればキリがない。だがそれでも、そのかなわない人と自分を徹底的に比べ、自分に何が足りないか研究し、がむしゃらに苦しみながら努力する。その努力が素晴らしく、大切なことなんだと今では思える。おおきく振りかぶってでは、大筋は野球漫画ではあるが、その他にも様々なビジネスや趣味に活かせそうな内容も盛り込まれている。野球に詳しい人もそうでない人もぜひ一度手に取って、自分と他人を比べる習慣を身につけてみてはどうだろうか。成長の種はそこに潜んでいると、私は確信している。
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