色の世界は人間関係に似ている
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記事:前田理香(ライティング・ゼミ日曜コース)
ずっと「ピンク」という色が、なんとなく嫌いだった。
あのフワフワしていて、柔らかそうで、優しそうで、愛らしい「ピンク」という色が、よく分からないがなんとなく嫌いだった。自分には縁のない色のような気がしていた。
それが変わったのは10年前……。
駆け出しのカウンセラーだった私は、自分への投資のつもりで色彩心理を学ぶスクールに通い始めた。最初の課題は「白・黒・青・赤・緑・黄・ピンク・紫について、自分の持つイメージをA4の画用紙に描いてくる」ものだった。
制約は何もない。画材すら自由だった。
今となっては、もともと好きな色だった「白・黒・青」に対して何を描いたか覚えてはいないが、「紫」は宝石のアメジストのイメージでキラキラしたものを張り付け、「緑」は竹林の絵を描き、「黄」はひまわり畑の写真を貼った。
「赤」は、機動戦士ガンダムの「シャァ専用ザク」の赤しか思いつかなかった。
「ピンク」には、ユザワヤで買った羽や毛糸、シフォンなどの布を貼って作った。今思うと、不思議と一番こだわって作っていた。
次の「家族を色で例える」という課題で気が付いた。家族の中で妹のイメージが「ピンク」だったのだ。
5歳下の妹は、小さいころからとても可愛かった。妹を見た大人は口々に「いやぁ、可愛いね!」と言い、その口で「お姉さんには似てないね」と言った。
小さい頃の妹はお人形さんのようだったため、姉のお下がりばかりだった私と違い、お姫様のようなフワフワなピンクのワンピースを買ってもらっていた。
そんなことを、突然思い出した。
そこでようやく気づいた。「ああ、私はずっと妹が羨ましかったのだ」と。
あんな風に優しく可愛らしい雰囲気の人になりたかったのだ。ただ、「妹のようにピンクが似合う人にはなれない」と諦めてもいた。
そして次の課題。自分の人生を「色」で振り返る「カラーヒストリー」というもので、自分に対する自分のイメージ(思い)が、より一層腑に落ちた。
幼児→小学生→中学生→高校生→20代前半→20代後半→30代前半→30代後半……と振り返り、その時期のイメージだったり、実際に好んで着ていた服の色だったりを思い出しながらシートを作成していくのだが、20代前半からの人生がすべて「赤」だった。
所謂「シャァ専用ザク」の赤、闘う赤のイメージだった。
社会に出たての頃の私は、気が強く、尖っていた。女性は結婚や出産をしたら家庭に入るのが当たり前の時代だったし、職場自体も男性の比率が非常に高い職場だったため、ことあるごとに上司から「結婚したら辞めるんだろう?」「どうせそのうち辞めるんだから、仕事覚えてもしょうがないよな」と言われ、責任のある仕事は任せてもらえなかった。その都度「仕事は辞めません!」と言い返していたが、本気にしてはもらえなかった。
経験を積んである程度の立場になってからも、自分の正義を振りかざし、上司であっても強い態度で臨んでいた。そしてそれが正しいと思っていた。
まさに「闘って」いた。
でも、そんな「闘う自分」に対して、時々やりきれなさや虚しさを感じてもいた。それはそうだろう。「優しい人」になりたかったのに、闘っていたのだから……。
そんな思いが、20代以降の全てが「赤」な「カラーヒストリー」を眺めることで、「必死に頑張ってきたのだな」と、自分をありのままに受け入れる気持ちに変わっていった。
妹に対する気持ちも、(もともと仲は良かったが)コンプレックスではなく、愛おしい憧れに変わっていった。
「ピンク」が好きになった。
そして「赤」も、これまで以上に好きになった。
人間関係も、色の世界と似ている。
人との関わりの中で、好きな人、嫌いな人、なんとなく苦手な人、なんとなく気になる人、様々な人がいるが、無意識に自分のコンプレックスが刺激され、好き嫌いに影響を与えているのかもしれない。
私は自分が「赤」のイメージだったからか、「青」のイメージの知的で落ち着いた雰囲気の人に好感を持つことが多かった。
半面「黄」のイメージの人は、なんとなく苦手だったことにも気づくことができた。しかも、同じ「黄」でもトーンが違えば好きな人になる! ということも発見だった。
「色」には好きな色や苦手な色はあっても、良い色や悪い色はない。
そして色のイメージも人それぞれで、同じ「赤」でも、私のように「闘う」イメージではなく、「情熱的」とか「パワー」というイメージを持つ人もいれば、「血」や「災害」をイメージする人もいるだろう。イメージは違っても、どれも間違いではないし、どれも悪くない。
人間には、もしかすると悪い人もいるかもしれないが、色に例えてみると好きな理由や苦手な理由が、少しは見えてくるのではないだろうか。
そうすることで、関わり方も変わっていくのかもしれない。
あれから10年経った今の私は、「ピンクが似合う」と周囲から言ってもらえるようになった。
***
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