メディアグランプリ

山のカジュアルダウン


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記事:北川亮太(ライティング・ゼミ日曜日コース)
 
 
静寂の山中をひとり歩く。
四季の彩りを五感で感じながら歩く。
一歩を踏み出す度に自然と繋がり、私は、山と共に今を生きているのだ。
 
と、言えばかっこよく聞こえるかもしれないが
実は最近の山ブームに便乗し、山に通い始めたばかりの素人であり、山の「や」の字をかじった程度のビギナーである。
山に必要な最低限の体裁を整え、涼しい顔をしながら山に身を任せる。
しかし、実際のところは、下ろし立てのシューズを履き靴づれを起こし、詰め込みすぎの荷物に体力を奪われ、地図アプリを使いこなせず道に迷い、翻弄されながら何とか歩みを進めている。
そんな事情はさておき、私が山歩きの世界に片足を突っ込み、今までにない価値を味わっていることは間違いのない事実。
昨今のブームの理由、そしてその先にあるものは何なのであろうか?
 
ひと昔前、山へ行くことと言えば、重装備、文字通り重くて不便な道具を身にまとい、綿密に計画を長期的に立て、やっとのことで実行する。選ばれたストイックな男のための修行であり、「苦しいからこそ、楽しいのだ」を具現化したようなものであった。
近づき難く、閉鎖的で独特な空気間が漂う、その世界の先にある快楽は一部の限られている人の特権であり、その世界に一歩踏み込むためには、大きな壁を乗り越える必要があったと理解している。
 
さて、時代は流れ2020年。
山への価値観はすっかり変わってしまい、先人達はその変容ぶりに唖然とするであろう。
例えるなら前者がハードボイルドワンダーランドであれば、後者はフレンドリーカジュアルパラダイスだ。
 
山ガール、キャンプ男子などの「カタカナ言葉への積極的な言い換え」
焚き火トーク、キャンプ飯など「渋かっこいい趣味の地位の確立」
スノーピークやワークマンなど「機能的かつ+αを備えたアウトドアブランドの台頭」
キャンプ系ユーチューバー、登山アプリの開発など「デジタルコンテンツの参入」
ゆるキャン△などの「サブカルチャー文化の拡散」
そこで行われていることは、山を起点に、様々なプレーヤーがあらゆる角度から、そこに存在する価値を丁寧に再解釈し、翻訳する作業だ。
翻訳家の仕事は例えること。他のものに置き換え、わかりやすく伝えていくこと。
翻訳が多様であればあるほど、人々は惹きつけられ、広がりを見せていく。
その翻訳の結果、山への敷居は大きく下がり、人が集まるようになった。言い換えれば、価値のカジュアルダウンが行われ、大衆へと広がっていった。
そして、私も丁寧な翻訳に優しく手解きを受け、カジュアルダウンされた山に出会い、今日、山を歩いているのである。
 
カジュアルダウンの成功事例と言えば昨今のタピオカブームであろう。最も1年も経たないうちに、あっという間に下火になってしまったが、あらゆるものを総動員しながら短期間でムーブメントを起こした力は目をみはるものであった。アイボリーベージュ色の液体の中に静かに鎮座するあの丸い物体の価値のカジュアルダウンが繰り広げられた。
 
「タピ活」をはじめとするキャッチーな言葉
インスタグラムをはじめとするSNS上で日々飛び回るビジュアルの力
味を主体的に選ぶというカスタマイズのエンターテイメント性
並んでも買いたいというお茶への憧れの喚起
 
結果として、遠ざかっていた「お茶文化」は形を変えながらも身近な存在となり、確固たる地位を確立した。特にミレニアムやZ世代にとってはお茶はペットボトルで飲むことが当たり前な平凡な飲み物であったが、ヒップでわざわざ買いにいきたいドリンクへと価値観が変容した。トラディショナルな価値観とは違った形で。
 
トラディショナルな価値観の部分を理解し、そのまま伝えられることに越したことはないが、その価値とは、難解で、伝わりにくいものである。呆れるほどの莫大な時間、先人の血の滲むような努力、文化の結晶など、様々な過程や偶然を経て、辿り着いた結果である。大きな壁だからこそ、魅力的であり、あらゆる方法で近づくアプローチが行われる。
現在の立ち位置から、遠く離れた本質に近くために、皆が知恵を絞ってわかりやすく翻訳するカジュアルダウン。その多様なアプローチの過程こそが魅力であり、価値の多様性を広げる。
 
さて、山登りの話に戻そう。
山に来るまでのアプローチは様々なプレーヤーがあらゆる手を尽くし山をカジュアルダウンして魅力を伝え私を連れてきてくれた。今度は、私自身が山を再解釈し、翻訳する番だ。どんなに小さな山でも、登山者はピークを目指してアタックすることが普通だ。その一つの価値である山の頂きを意識しながらも、一歩一歩、歩みを進める中で光を見つけていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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