鼻水を治したければ水を飲むな
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:安部美穂(ライティング・ゼミ日曜コース)
「ああ、あなたよくお水飲むでしょ?」漢方薬局の先生はいたずらっぽい顔をしながら聞いてきた。「え……」水分ってたくさんとったほうが健康にいいんじゃなかったっけ、風邪でもダイエットでも水分をとれというし……と困惑する私は十分な返事も返せずに先生の目を見つめ返す。
もともと鼻炎持ちで、近年は花粉症の症状も悪化、ここ数週間胃腸の調子も悪く、耳鳴りも出る始末。原因不明の体調不良が続き、すがるような気持ちで知人に紹介された漢方薬局にやってきたのだ。ちょうど1年前、2019年の秋のことだ。
こじんまりした薬局には、漢方の教えが書かれた額や漢字が散りばめられた占いの表のようなものが貼られている。店の奥には漢方を調剤する場所だろうか、気温や湿度が調整できるようなガラス張りの部屋がある。先生は図書館の司書みたいな優しい雰囲気で眼鏡をかけて、親戚のおじさんかのように気さくに話しかけてくれる。アシスタントらしき女性は薬膳茶のようなものを出してくれるし、私はふと診察されていることを忘れてしまう。
「それはね、取りすぎた水分が鼻からあふれちゃっているんだよ」と先生は鼻毛が出るようなジェスチャーで説明する。先生曰く、人は植物と同じ。ハスのように水中で育つ植物もあるけれど、サボテンのように少ない水分でも生きていける植物もある。その人の体質によって必要な水分量は違うということだ。「もちろん喉が乾いたら水分は必要だけど、喉も乾かないのに常にペットボトルを持ち歩いて飲む必要はないよ」私は食事中もよくお茶やお冷を飲んでいたが、それも食前に一口含むくらいで十分だという。いくら味が濃い食事であっても食後に水をがぶ飲みしていては、胃の中の食べ物を押し流し、消化にも良くないらしい。
「水分をとる量を減らせば、耳鳴りもすぐ治るはずだよ」耳鳴りやめまいなどは三半規管が関係している。三半規管というのは水の入ったコップのようなもの。コップを傾けても水面は地面と平行を保つように、人は三半規管で平衡感覚を保っている。私の耳鳴りの正体は水分の取りすぎでこのコップの水があふれた状態がだったのだ。
「それから牛乳も好きなんじゃない?」先生はその辺の占い師よりも私のことをお見通しだ。小さいころからカルシウムをとるために牛乳を飲みなさいと言われてきたし、お風呂上りに牛乳を飲むのは大好きだ。だが、日本人は古来乳製品をとる人種ではなく、乳製品を分解できない体質の人も多い。そして乳製品は体を冷やす食材。下痢や腹痛、鼻炎など私の不調すべての原因となる冷えをもたらすものだったのだ。もちろん牛乳が体質に合う人もいるだろうが、私にとっては合わない食材のひとつだそうだ。
私の体質に合った漢方薬と免疫力を高めるための栄養剤が処方され、その日から私の「水分とりすぎない生活」が始まった。ついつい癖のように水分に手が伸びてしまうところを立ち止まり、今私は本当に喉が渇いているのか? と考える。なるべく牛乳やバターなどの乳製品は避けるようにし、先生に勧められた根菜類(大根やごぼう、にんじんなど)や干し椎茸を多くとる。外食時もお冷は2杯目を注ぐことはしない。そうやって生活して3週間、私の鼻水はぴったり止まった。気づいたら耳鳴りも遠い昔の記憶になっていた。
もちろん処方された漢方薬の効果も大きいだろうが、最も大きな要因は水分のとりすぎだったように思う。漢方薬を2か月ほど服用したのち、それからは漢方薬に頼らなくとも水分と牛乳にさえ気を付けていれば鼻水に悩まされることはなくなった。
鼻水が解決してからも、ことあるごとに健康に関する悩みを相談しに先生のもとを訪れるようになり、早一年。この先生の仮説では、新型コロナウイルスは雨の後に増えるらしい。「最初は3月4月で春の雨の後、次の第2波は梅雨の後でしょ。第3波は秋雨がしとしと降った地域から徐々に感染が拡大している」と。もちろん人の流れなどの要因の方が大きいのだろうが、先生は「雨」に着目している。インフルエンザなどには空気の乾燥がよくないとして、加湿が推奨されているのだから、雨が降ったらコロナウィルスも死んでしまいそうなのに。でも鼻水に水分の取りすぎが影響していたのと同じで、漢方的には余計な水分は「悪」となりうるのかもしれない。科学的な証拠はないだろうが、私の牛乳好きを言い当てた先生の言うことだから、もしかすると……と少し信じてしまう。
健康に関してそこかしこで言われていることは常識のように思えても、分野や見方を変えると間違った知識にもなりうる。あふれる情報を鵜吞みにせずに、自分の体の発するサインをきちんと受け取ることが大事なのかもしれない。漢方の考え方だけが正しいというわけではないし、西洋医学が得意とする分野も大いにある。ただ、私の健康法って本当に正しい? と立ち止まって考えてみることは、このコロナ禍において重要なことだと思う。
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