最強の家電
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記事:右手を上げた招き猫(ライティング・ゼミ平日コース)
おそらく、誰に聞いても絶対に負けない自信のある家電を持っている。どんなお金持ちでも、これにはかなわないだろう。どんな家電マニアでも、なかなか追いつけないだろう。別に、何かを競い合おうとか、自慢しようとか思ってそれを持っているわけではないし、持っているからといって何がすごいわけでもないのだけれど。
その我が家の最強の家電とは、電気釜である。ただの電気釜ではない。結構な年季もので、もはやヴィンテージと言っていい領域に入っている。しかも、買ったわけではない。だいぶ昔、結婚するときに、夫の会社の先輩が、「家に使っていない古い釜があるから、あげる」といってお祝いに(というか、都合よいリサイクル先というか)くれたもので、当時から「昔懐かしい感じだなぁ」と思いながら、使っていた。
あるときふと、これ、いつのものなんだろうと思い、裏側に記載された製造年を見てみた。一瞬目を疑った。それは1983年だったのだ。時は昭和、バブル景気前である。阪神タイガースが21年ぶりに日本一になるよりも前である。東京ディズニーランドが開園した年である。朝ドラで「おしん」が驚異の視聴率60%超えをした年でもあり、松田聖子が『天国のキッス』をキラキラの表舞台で歌う一方で、尾崎豊が「盗んだバイクで走りだす」孤独を歌い上げた年でもある。
この電気釜には、スイッチが1つ、「入」しかついていない。が、これで普通にごはんは炊けていたので、新しい釜を買おうとも思わず、それしか使わないで過ごした私は、長年、世の中の電気釜は、共働きにやさしいタイマーがついていたり、炊き加減を選べたり、おかゆやパンが作れたりするような、ファンシーな機能を搭載し、デザイン性もしゃれたものがいろいろとあることを知らずに過ごしてきた。
個人的に玄米が好きなので、白米よりも玄米をよく炊いている。そのことを友人に話すと、「玄米って、どうやって炊くの?」と聞かれた。友人は、おそらく電気釜の玄米用のプリセットボタンがあるのかとか、何モードで炊くのか、ということを聞きたかったのだろうが、スイッチが「入」しかない家の電気釜以外、世間一般の電気釜を知らない私は、「『どうやって』もなにも、『入』を押すだけなんだけど……」と、一瞬質問の意味がわからずに狼狽した。
そんなこともあり、また共働きでタイマーがないのはさすがに不便だと思い、そろそろ新しい電気釜を買おうかなと考え始めた矢先、東日本大震災が起こった。その日の夜中、歩いて自宅にたどり着くと、目の高さほどの高い棚から、ヴィンテージ釜が落ちていた。こんな高いところから落ちてしまっては、もうダメになったかもしれない。よし、いよいよ買い換えよう。
と思っていたら、なんと、その電気釜は全く今まで通りに、普通にスイッチを「入」にでき、普通にごはんも炊けてしまった。
それから、私は心を入れ替えた。これは安易に買い替えてはいけない。1983年製の、高い棚から落ちても壊れない最強の御釜とともに、できる限りの命をまっとうしようと心に決めた。少しずつ手元にためてきた電気釜のパンフレットは、すべて古紙回収の束にした。
近年の家電は、省エネ化の技術がどんどん進み、古い家電は電気効率が悪いから、環境負荷を減らすためには、新しい家電に変えた方がいいし、その方が電気代も安くなると言われている。けれども私からみると、1983年からずっと同じ釜を使い続けている方が、ずっと環境負荷は低くないか? と思う。ネットで少し調べてみると、電気釜の寿命は3〜10年程度のようだ。仮に3年ごとに買い換えるとしたら、1983年から2021年までに12回買い換えていることになる。それだけの資材と梱包材と輸送にかかるガソリンと、廃品回収にかかるエネルギーを考えただけでも、ひどく資源を消費している気がするから、ヴィンテージ釜と長いお付き合いをしているだけで、なんだか地球にやさしい、いい人間になれた気がする。米を炊いてくれるだけではなく、こんな満足感を味わわせてくれるなんて、やはり最強の家電ではないか(ただでもらった釜だけど)。
こんな御釜を誇りに思い始めてから、人を見る目も変わった。若いスタッフが入ってくる度に、「あぁ、うちの御釜より2年若いのか」などと、生まれ年を比べてしまうのだ。少し前までは、それが「若いスタッフ」との比較材料になっていたのだが、もはや最近は「中堅・ベテランスタッフ」の尺度となりつつある。そのうち、我が家の御釜は部長クラス、役員クラスの比較材料に昇格していくのかもしれない。向かうところ敵なし。最強の家電である。
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