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忘年会とスターウォーズの連関性 ~ちょっと捻くれた映画ガイド~


谷口さん 忘年会

 

記事:たにこにー(ライティング・ゼミ)

 

みなさん、飲んでますかー!
ウコンがあれば、なんでも飲める!
行くぞー! 3・2・1、かんぱーい!!

冗談はこれくらいにして。師走といえば忘年会シーズン。会社、友人と忘年会を行った方々もいるかと思います。仕事納め前に忘年会という冷静に考えたら、ちょっと順序がおかしいかも? と思う私ではありますが、私も他の方に漏れず、忘年会、やってます。

チェーン店でハイボールを頼んで、気分が盛り上がって、さらにもう一軒。気づけば終電前で足元はフラフラ。次の日のことなんて考えずに飲んでいますから、ご推察の通り、翌日は頭に突き刺さるような痛みと吐き気、ダルさが身体の中で鎮座しています。そうです、二日酔いです。アルコール残滓の攻撃に耐えつつ、職場に向かうのです。もう二度と、いや、次の仕事や予定がある日は二日酔いになるまで飲むまいと誓いながら……。

その誓いはあっさり破られるのですけれど。

忘年会で慌ただしい12月の日本に世界が(アメリカが)誇る超大作SF映画がやってきました。1980年に公開され、世界が熱狂し、未だに多くの映画ファンを魅了し続ける作品。ジョージ・ルーカスがアナキン・スカイウォーカーの成長を中心として、ジェダイ(正義の守護者)とシス(悪と恐怖の信奉者)の争いや、映画の舞台である銀河系国家の栄枯盛衰を描いた大作。『スターウォーズ』です。

『スターウォーズ』は全9エピソードあり、今回は第7作目『スターウォーズ/フォースの覚醒』が12月18日に公開されました。全国340スクリーンでの公開は今年最大規模と言えるでしょう。
公開最速の時間帯に映画を見たいファンが事前のネット予約に殺到し、事前予約開始日に大きいスクリーンは完売していました。
公開日から3日間(金曜公開ですので、土日含め)の興行収入は16億1934万円と日本の記録を更新。(ちなみに以前は『千と千尋の神隠し』の16億1400万円が記録)

関連書籍はインターネット特集、コンビニエンスストアとのコラボレーションなど、『スターウォーズ』という文字を見ない日はありません。
それは、まるで忘年会シーズンの繁華街で見る「忘年会予約承り中」の「のぼり」を見るくらいに……。

ふと、池袋のサンシャイン通りを歩いていて、ある2つの光景と共に、それに相反することを思い始めました。

「忘年会と『スターウォーズ』って似ているよな。
忘年会に相反するのは一人BARでゆっくり飲むことだろう。
では、『スターウォーズ』に相反するものはなんなのだろうか?」

12月の夜、クレーンゲームで『スターウォーズ』に出てくるヨーダをゲットした私はぼんやりと考えていました。
忘年会と『スターウォーズ』が似ている、ということに疑問を持たれる方も多いかと思います。飲み会と映画なんて全く別次元の話なのですが、要素だけ引っ張ってみると意外に似ているものなのです。

たとえば、1つのイベントにたくさんの人が集まること。「事柄」という観点。
たとえば、喜怒哀楽を表現して、他者とコミュニケーションを取ること。「感情」という観点。
さらに、今、最も旬であるということ。「時間」という観点。

忘年会と『スターウォーズ』はたくさんの人を巻き込み、人とのコミュニケーション(飲みニケーション?)やストーリーで感情を外に出し、「今でしょ!」というタイムリーな点で共通しているのです。

他方で、一人BARで飲むというのは、たくさんの人は巻き込んでいないし、喜怒哀楽は自分の中で完結し、12月という時期が旬というわけではありません。
忘年会とは相反するといってもいいでしょう。

「事柄」・「感情」・「時間」という3つの観点で、『スターウォーズ』と相反する枠組みはなんであろうか…?と考えたとき、簡単な定義を思いつきました。それは、たくさんの人を巻き込むスケールではない、単館上映の作品。感情が自己内で隆起し、思索にふけることができる作品。そして、12月に観る必要がない作品。

私は今年観た映画で、今も観られる映画でないだろうか……と考えました。その瞬間私の頭の中でたくさんの作品名が浮かび上がり、一つの作品が残りました。たくさんの感情が湧いては消え、湧いては消えを繰り返し、自己内省する作品。盛り上がりがあるわけではないけど、BARで偶然見つけたスコッチウイスキーのような深みのある味わい。それは……。

濱口竜介監督作品『ハッピーアワー』です。

2015年12月に公開されましたが、その数全国で2スクリーン。『スターウォーズ』の150分の1です。関東圏では渋谷のシアター・イメージフォーラムのみ。関西圏では神戸の第七藝術劇場のみです。大阪、愛知、鹿児島で公開される予定はありますが、予定を含めても確定しているだけで9スクリーンです。

この映画は低予算で作られた作品で、出演者は濱口監督のワークショップに参加していた人々。有名人は出ておりません。
『スターウォーズ』の大作公開にひっそりと隠れてしまった本作ですが、実は『ロカルノ国際映画祭』で最優秀主演女優賞を獲得しました。ワークショップに参加した、素人同然であった役者が70年近くの歴史を持つ国際映画祭で賞を獲得するなんて、前代未聞の出来事でした。

今、皆さんに私とっておきのBARを紹介している気分です。池袋の喧騒から少し外れたところに煌々と光を灯し続ける小さな店舗。ちゃんと見ないとBARとは気づかないけれど、実はプレミアムなウイスキーが置いてある。

本作は三十代後半の女性4人の人生に迫る群像劇です。4人それぞれが抱える、家庭や職場の人間関係を精密に描き、浮き彫りにしていく作品です。生きているからこそ、必ず考えるであろう、「自分はこれでよかったのか」、「もっともっと私は自分を好きになって、よい人生を歩めたのでは」という葛藤が丁寧に積み上げられていきます。

悩みや迷いという感情の「ゆらぎ」を緻密な脚本によって否応なく、観客は背負わされる作品なのです。「ハッピーアワー」という言葉が空虚に、そして皮肉に思えるくらいです。

この作品は、3部構成で上映されています。なぜなら、5時間17分という、近年の映画では考えられないような長編だからです。しかし、長いからといって、尻込みしないでほしいのです。5時間17分という幅は私たちに思索の時間を与えてくれます。彼女たちの人生にしっかりと寄り添えるのです。他人の人生に自分が憑依することができる時間なのです。時には登場人物に感情移入して、その後、自分の経験に反映するという、他者と自己の行き来ができるという珍しい映画なのです。

『スターウォーズ』のような派手さはないし、いつ終わるかもわからないですが、日常をリアルに描くというのは、そういうことではないですか? 人生は意外に「ありきたり」なのかもしれません。そして、明日人生が終わってしまうことがあるかもしれません。その「ありきたり」を描ききる本作は、驚きを越えて、ある意味恐ろしく、涙が溢れました。

それは、静かなBARでスコッチウイスキーをストレートで飲んだ時。
BARのマスターがこだわりぬいたセレクションに触れて、未知の体験をした驚きと舌が喜ぶ感動のようなものなのです。

『ハッピーアワー』は5時間17分、彼女たちの人生に寄り添い、向き合い、自己の人生と寄り添い、向き合う時間が得られることは、忙しない12月にキラリ輝く、充足した時間を与えてくれるのだと私は思っています。12月に観る必要はないかもしれない作品ではありますが、ぜひ見てほしい作品だと私は思います。

さて、皆さんの期待を裏切って『スターウォーズ』の映画ガイドではなく、『ハッピーアワー』のガイドでした。
ひっそりとしたBARで一人飲む時と『ハッピーアワー』は忘年会と『スターウォーズ』の関係のように、「事柄」・「感情」・「時間」に相関性があるのです。

公式化すれば
忘年会:『スターウォーズ』=BARで一人飲み:『ハッピーアワー』

『ハッピーアワー』を観終った後の渋谷の街は、観る前の風景と少し違っていました。

 

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2015-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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