私はロボットではありません。
記事:澤祐典(ライティング・ゼミ)
手塚治虫さんの『火の鳥』をはじめて読んだのは、
たぶん高校生くらいの頃だったと思う。
黎明編、鳳凰編、未来編など
別々の設定の長編が束ねられた物語は、
どれもが極めて魅力的で面白く、
同時に人間の所業や宇宙の営みについて
考えずにはいられなくなるような深さを持った、
とてつもない漫画だった。
最初に読んだときには
二段ベッドの上の段(下は妹が使っていた)に全編山積みにして、
夢中になって一気に読み通したと思う。
その後も折に触れて『火の鳥』を読んだ。
時代が進み、自分自身の考え方が変わっていっても
その都度、新たな発見や示唆を得ることができた。
この漫画の中に「ロビタ」というロボットが登場する。
主人公火の鳥と同じく
複数の長編にまたがって登場する数少ないキャラクターだ。
あるときは家事の手伝いをしていたり、
あるときは博士の助手だったり、
あるときは自らの存在に悩んでいたり、
あるときは人間に排斥されたり、
もともとは人間だったり。
あまりにも人間的な(もともと人間だからそりゃそうなのだが)
このロボットの物語を読みながら
「こんなふうにロボットが身のまわりに普通にいる世の中は
とても未来という感じがするなぁ」と思っていた。
昨日、僕が書いているブログにURLを貼り付けるために
GoogleのURL短縮サイトに飛んだら、
認証画面の下にこんなメッセージがついていた。
「私はロボットではありません」
そこにチェックを入れなければ、
短縮したURLを使うことができないらしい。
その時には「なんかすごいな」と思いながら
何気なくクリックして作業を進めたのだけれど、
いま振り返ってみて、そのすごさは
「SFが現実になりつつある」すごさだったんだと思う。
言い換えれば「未来が本当にやってきた」すごさだ。
たぶんこれが僕にとって
「人間かロボットか」と問われた
はじめての機会だった。
映画『マトリックス』でキアヌ・リーブス演じるトーマスは、
コンピュータの反乱により人間が培養され、
仮想現実に取り込まれている世界を解放しようとして戦った。
カプセルの中で死んだように眠っている人間。
トーマスを倒そうと次々に現れるエージェント・スミス。
人間に何かを警告しているようでもあった
この大ヒット映画がはじめて公開されたのが1999年。
「私はロボットではありません」
なんとなく、そのイメージも重なって
「ぞっ」としてしまうところもある。
ロボットが工業用の機械として活躍していることは
社会科の教科書で習うくらい当たり前のことだと思っているし、
ソフトバンクのペッパーというロボットが売り出されて
話題になっていることも知っている。
けれど、それらを知ったときには今のようには感じなかった。
興味がなかったのもあるけれど、
もっと自分から遠いことだと思っていた。
でも昨日、
ついに僕は「人間かロボットか」と尋ねられてしまった。
いまもこうしてパソコンに向き合いながら、
えらい時代になったなあと思っている。
“第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。
また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、
自己をまもらなければならない。“
はっ、思わず「ロボット工学三原則」を読んでしまった。
これは『I Robot』という映画にもなった
アイザック・アシモフの小説に出てきたもの。
この話もたしかロボットと人間が対立する話だった。
ITは本当に便利だし、
人間の機能のいくつかは確実に
IT空間の中に転写されていると思う。
でも、それが進んでいったら、未来はどんなふうになるのだろう。
「あと10年でITにとって代わられる仕事」という記事も読んだ事がある。
楽しみでもあり、こわいような気もする。
そんなときにこそ『火の鳥』だ。
優れたコンテンツは時代をまたがって、僕たちに何かを教えてくれる。
たしかロビタと人間は最後うまくいかなかったのだと思う。
大量に複製されて、家庭に浸透していたロビタは
一件の事故をきっかけに人間からの猛反発を受け、
一斉に溶鉱炉に身を投げたのだった。
全編を通してロビタはとても孤独で、悲しそうにしていた。
そして、このようなヒステリックな反発は最近のニュースでもよく見る。
でも、このような物語を知っているからこそ、
現実の世界で僕たちは何か
「そうではない未来」が生み出せるのだと思う。
なにかもう少し肯定的な、別の物語を。
「私はロボットではありません」
たかがURL短縮のことで
ずいぶん大げさな話をしてしまったけれど
「時代が変わった」という兆しは、
きっとそういう何げないところに潜んでいるのだと思う。
そして、それらは僕たちに
「これからどうしていくの?」という投げかけと
ヒントを与えてくれているはずだ(たぶん)。
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