小学生「おじちゃんは子孫を残そうと思わないの?」
記事:Mu (ライティング・ゼミ)
「おじちゃんはどうして結婚しないの?」
5年前、小学生の甥っ子にこう言われた。近所のショッピングモールを一緒にまわっている時のことだった。当時29歳の僕は、好きな人がいないからねぇなどと返したのだと思う。すると続けてこんな質問が。
「子孫を残そうと思わないの?」
純粋な目でこちらを見つめている。その目は生物として間違っていると指摘している表情だった。小学生にまさか生物としての誤りを指摘されるなんて、ショッキングだった。
いま好きな人がいないんだ、ということを伝えたと思う。全くの事実だ。すると甥っ子は、そうなんだ、と寂しそうに呟いた。
姉の結婚は当時の感覚でも早めだった。20歳の時に結婚したからだ。そしてその翌年に甥っ子が生まれた。僕は中学生でありながらおじさんになってしまった。
そしておじさんは恋愛に関して言えばポンコツだった。それでも時間が経てば好きな人ができて、付き合って、結婚して、子供ができて、という普通の家庭ができるとどこかで思っていた。もちろん、考えは甘く、モテない人はずっとモテないままであるという厳しい現実を実感することとなったのだ。
両親の結婚した年齢をだいぶ過ぎているのに結婚しないなんて、おじちゃんはおかしいと思ったのだろう。当然僕もおかしいと思っている。どうして、こうなった。
──時代は流れ、5年後。今年の1月の話である。
職場の同僚と上司の4人で新年会をすることになった。新年会といっても4人だからただの飲み会である。定刻に到着したのは僕と同僚Aである。同僚Bと上司はまだ仕事が終わらず、やってきてない。
とりあえずビールと鍋を注文する。やってくるまでの間、同僚Aは既に結婚していることを思い出した僕は、5年前の甥っ子との出来事の話を切り出す。
「それは……男性としてショックですよね。男性としての魅力がありませんって人生の後輩に説明するわけですから」
「言い過ぎだよ。でも、そのそちらは結婚しているからいいですよね。大体どうやって異性交際とは始まるんです?」
「私の場合は、大学のサークルが同じだったんですよ。それでですね」
「うわ、でた。サークル。なにそれ。大学なんてサークル1つも属してなかったし、ほとんど男子校みたいな大学だったし、友だちも少なかったし、ずっと本読んで4年過ごしてましたよ」
「だからそういうのがいけないんじゃないですか。まずは出会わないと話にならないでしょう」
「そんなこと言ったって。色々僕だっておかしいと思いますよ。そもそもねえ、高校生の時が生物としての性欲MAX時なわけじゃないですか。そのときに結婚推奨すればいいんですよ。やれ、不純異性交遊だ。初体験なんてけしからんという風潮が学生時代までは続いて、社会人になったら急に手のひら返したみたいに、早く結婚しろ子供は2人マストとか親も言ってくるわけでしょ。ファッ⁉︎ って感じじゃないですか。文部科学省もおかしいですよ。恋愛という教科が無いとどうしたらいいのかわかんないですよ。本当に少子化どうにかしたいと思ってんですかこれ」
ビールと鍋が運ばれてくる。僕たちは小さく乾杯した後、話を続ける。
「にしても、異性との交際経験もないんですか?」
「あ、それは、ある」
「なんだあるんじゃないですか。その時の感覚思い出して、もう一度トライしてみればいいんですよ」
「10年前」
「え?」
「10年前だからもうどういう感覚だったか覚えてない。まあ、なんか本当に彼女欲しいのかよくわからないんだよね。いらないからいないという現実があるだけな気がしてきてる」
「そこはわからないです……が、ちょっとネガティブな捉え方をしているな、って感じましたね。恋愛にまつわる出来事についてネガティブな処理をしちゃっているような」
「えー……そんなダメ出ししちゃう?」
このタイミングで上司、同僚Bと合流。今までの恋愛話はどこかに吹き飛び、話題は占いに変わっていく。占い本にハマっているらしく、誕生日教えてといわれる。僕の誕生日を教え、本のページをめくると今年は最高に良いとでていると伝えられた。
「恋愛も凄いですよ。運命の人に出会えるってあります」
ここまで酷く脈もなかったのに、急に運命の人に会えるなんてことがありえるのだろうか。いや、ない。所詮ただの占いである。こんなことに惑わされるほうがおかしいのだ。すると僕の表情を察してかこう続けてきた。
「この生年月日の人は思考的にネガティブに考えがち、ってありますね。今年運勢を良くするにはネガティブ思考を一切やめてポジティブに全部考えることが重要だってありますよ」
ネガティブ思考。
あ。確かに。
新年会が終わり、帰る電車の中でさっきの会話を振り返ってみた。ネガティブワードのオンパレードだ。どうにもならない現実を納得させようと、モテないモテないと積極的に自ら諦めているだけだったのではなかったのか。
では逆にこう考えてみてはどうか。
彼女ができないことは楽しい。
その理由はいつか彼女ができる過程を楽しみ続けられるから、と。
ひょっとしたら甥っ子は、おじさんのネガティブ思考を注意していたのかもしれなかった。出会いの数で確率が上がるなら、ひたすら出会いを増やせばいい。
と考えていると携帯にメッセージが届く。11月からアプローチを続けていた女性から。いつも日程が合わなくて会うこと自体できなかったが、今年初めに仕切りなおして日程調整した返事がようやく来たのだ。
「楽しみにしています!」
メッセージにはこうあった。やばい。なんかニヤニヤしてくる。うまく行けば、あわよくば、お、お、お付き合いするとか……いや、ゆうても随分放置されていたわけだから……いや、いかん! またネガティブ思考になってしまっている。
楽しみにしている。なるほど。そいつは嬉しい。では僕も楽しむまでだ。全てはネガティブ思考を取り払い、当日楽しみにしている旨、メッセージを送る。
そう、楽しむところからスタートだ。
恋愛も、そして人生も。
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