ほんわか思い出す子育ての頃
記事:Mizuho Yamamotoさま(ライティング・ゼミ)
息子たちも30歳、27歳となり子育てからずいぶん遠ざかってしまった。今になって思うと、楽しかったあの時期。まとわりついて歩く次男、1歩先を行く長男。
バックスキンの靴は履けなかった。あまりにくっついて歩く次男に、必ず靴を踏まれ、黒い靴に、白い小さな靴型がついた。やれやれ…… 。
前にファスナーのあるスカートをはくと、気づくとジーッとファスナーを下げられ、赤面。
思いがけない小事件はしょっちゅう。
銀行の窓口でバッグを開けると、黒い硬いものがこつんと手に当たった。ふと見ると、ピ
ストル! 長男が入れたものだった。冷や汗が、スーッと胸を伝う。銀行強盗を企んでいるわ
けではないのだけれど……。つい、周りの様子を、きょろきょろと伺ってしまった。
洗面台に置かれた歯ブラシ立てを見て、
「僕の歯ブラシはママの隣! なんでパパのが横にあるんだ!!」
置き直してほくそえむ自慢げな顔。
幼稚園バスから降りて来ながら、大事そうに左手にわし掴みしていた、根っこ付きの枯れ
かけた菊の花。
「園の花壇の植え替えをしようと、引き抜かれた菊を、ママが喜ぶからお土産にするって」
こっそり耳打ちして、平謝りの先生。得意顔の長男。
「うわぁ、ありがとう!」
同じ親から生まれ、同じ環境で育ったはずが性格の違う2人。顔はそっくりで、3歳違い。
1歳でアルバム2冊の長男と、3歳で1冊の次男。次男に長男のアルバムを見せても、
「これボクだね!」
「う、うん、そうだね!」
飼っていたクワガタが死んだと、泣きながら
庭にお墓を作った長男。
「死んじゃった」
窓を開け、ポイっと庭に投げてけろっとして
いた次男。
どこから出てくるこの違い???
でも、見ていて楽しかった。
幼稚園、小学校、中学校、高校と子どもを通して知り合ったパパ友、ママ友は数知れず。
面白い縁をたくさん繋いでもらったことは、子どもの存在に感謝。
職業柄、必ず離島勤務が義務付けられていて、夫を置いて息子たちと3人での離島暮らしを4年経験。小3と小6を連れて、ブラック化し始めていた中学校勤務で、帰宅は8時過ぎ。
炊飯担当の次男が、外遊びにはまって、ご飯を炊き忘れると、
「残念、今日はクラッカーだね」
お刺身と肉じゃがと味噌汁とクラッカーというメニューになることもあり、ご飯の炊き忘
れは全くなくなった。
近所の奥さんが、不思議そうに、
「お宅の次男くん、5時になるとダッシュで家に駆けこみ、数分後にダッシュで出ていくけど、何してるの?」
必死にお米をといで、炊飯器のセットに戻っていたのだった。
真っ白い炊飯器に、よく黒い手形がついていたが、次男も一生懸命だったのだ。
兄が島に1校しかない母と同じ中学校に通うことになると、次男の仕事はより一層増えた。
バスケ部に入った兄まで、帰りが遅くなったのだった。
生協のチラシを見て注文書を書き、受け取って、冷凍・冷蔵に分けて冷蔵庫にしまうのも彼の担当となった。
生協の日は、住宅の奥さんたちと世間話をしながら、トラックを待ち、
「今日さぁ、隣の○○さんがさ、こう言ってたよ」
お隣の奥さんを、○○ちゃんのお母さんと呼ぶべきところを、○○さんと呼ぶ小4は、なかなか頼もしかった。
やがて生協のカタログで「無洗米」を見つけた彼は、狂喜乱舞してそれを注文した。
長男は土曜日の部活が終わった後、我が家の台所で、チャーハンを空中で返して水分を飛ばす中華鍋振り回しの技を友だちと競い、ガスコンロをご飯粒だらけにしてくれた。
2人とも料理、洗濯、掃除、片付けと必要に迫られて覚えたことが、大学生になって大いに役立った。
「彼のうちに行くと、ささっと料理してくれて、ほんと有り難くて。おばさんは、どう彼をしつけたのですか?」
長男の大学の友人と飲んだとき、一人っ子で台所に入ったことがなかったという長男の友人は、私に質問した。
「それは、一人暮らしをすることを考えて、何があっても困らない子にと思って……」
「なんて訳なくてさ、弟と2人でやるしかなかったからね」
と長男。
後になってみると、子育ては思いがけないところで花開くものだとつくづく思った。
可愛さ満開の幼子の時期には、たっぷりの愛情を。
子どもが、
「ママ~」
と頼ってくれるのは、ほんの一時期。
「ママさん」「お母さん」「おふくろ」
呼び方が変わると、距離感も変わって来る。
今、小さな子どもを連れた母親たちを見かけると、頑張ってね! の応援と共に、この時期を大切にして楽しんでほしいと心から思う。
親の都合でさまざまな境遇に置かれても、子どもはたくましく成長していくものなのだから。
子育て中は本当に時間がなくて、ゆとりがなくて、仕事や家事や人間関係のイライラを、
つい子どもにぶつけてしまうことが多々あった。
もしも今、子育て真っ最中のあなたが、ふとそんな自分に気づいたら、深呼吸してみよう。
そしてにっこり笑顔を作って、子どもの名前を呼んでみよう。
満面の笑みで走り寄って来る、子どもをしっかり受け止めよう。
こんな触れ合いが味わえるのも、人生においては短い短い時間なのだと。
人生80年の中の、たったの5,6年。
短い時間に凝縮された、手放しの可愛らしさ。
親を全身で頼って来る時期。
「ママ~」
ちょっと鼻にかかったあの声は、きっと棺桶のふたを閉じられても忘れないだろう。
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