メディアグランプリ

捨てられてもいい、バスであなたと出会ったことが私に価値を与えてくれた


 

記事:Ayami Matsushimaさま(ライティング・ゼミ)

 

どんよりと湿った空気が立ち込める日曜の午後のことだった。

 

今にも降り出しそうな雨を避けるために、多くの人が次々にバスに乗り込んできた。私の隣は空席だった。しかし、バスはたいして混んでいなかったから、乗客は、空いている他の座席に順に座って行った。こうして、最後の乗り込んできたのが、あなただった。私の側に立ったあなたは、私の方をちょっと困ったように眺めて、そして私の隣に座った。

 

そのときの私は、ちょうど数時間前に捨てられたばかりだった。その人と一緒に過ごした時間は、正直に言って、あまりにも短かった。その人と私は、出会って、まだあまり時は経っていなかったのだけれど、私は、その人に必要とされているのだと思い込んでいた。だから、突然、一緒に乗り込んだバスで別れることになったとき、私は少し狼狽した。クシャッと握りつぶされたような気分で一杯だった。みすぼらしい姿をしていたに違いない。だから、隣に座ったあなたが私をじっと見つめた時、私は初めそれに気がつかなかった。

 

思えば、あの人のことを私は何も知らないのだった。私を育ててくれたお店で出会ったのだから、あの人が、こうしたお店が好きなのだと言うことは間違いないだろう。しかし、あの人にとって、私は何の役にも立たなかったのかもしれない。「ハズレ」だったな、という思いだけが残ったのかもしれない。あの人が何を求めていたのかさえ、私にはわからない。そして私は、あの人の年齢も、住んでいる場所も、さらに、彼女がいるのかさえも知らないのだった。ただ、一緒に乗ったバスの終点は、とある大学だったから、あの人はまだ学生だったに違いない、と今にして思う。

 

たった今、私の隣に座ったその人は、私を見つめて、意外そうな顔をした。そして、窓の外を見つめて「どうしようかな」と思案しているようだった。その人はバスの中で私に何も話しかけなかった。そのまま、40分近くの長い時間が過ぎた。そして、その人は降車の合図であるバスのチャイムのボタンを押した。私は、「ああ、この人はこのバス停で降りるのね」と思いながら、そのまま大人しく席についていた。だから、それはいきなりだった。その人は、私を連れて、バスを降りたのだ。既に外は薄暗くなり、小雨が降り始めていた。これから先の私の記憶は、はっきりしない。

 

翌朝も、私はその人と一緒にいた。私を捨てたあの人にとっては、何の価値もない私だった。けれども、バスで私を拾ってくれたその人にとっては、何らかの役割を果たせたに違いない。そう信じて、私は私の運命を受け入れていこうと思う。

 

 

ーーー

 

「ピンポーン」

 

私は降車の合図であるチャイムを押して、バスを降りました。昨日、帰宅途中のバスの中で、レシートが座席に落ちているのに気がつきました。誰が何を買ったときのレシートか、気になりますよね? なんと、一般的に「オタク」といわれる方々が好んで通われるときく、素敵なアニメがいっぱいのお店のレシートでした。しかも、商品名が「クジ」。単価600円を4個のご購入で、合計2,400円です。私の知らない世界です。一枚のレシートの運命を思って、バスの中で40分の妄想が広がりました。

 

そして今朝も、そのレシートは、私の目の前にあります。これを、今からどうしようかな。

 

 

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2016-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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