あなたの知らない、呪文の世界
記事:西部直樹さま(ライティング・ゼミ)
*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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むかしむかし、あるところに、それはそれはいい加減な男がいました。
あっちで適当なことをいい、こっちでも適当なことをいって、女性を騙しては暮らしていました。
ある日、お金が底をついた男は、付き合っていた女の人を騙してお金を引き出そうと思いつきました。
そのいい加減な男はそれまで付き合っていた年上の女に、
「どうにもこうにもいかなくて、今日中に何とかしないと、やっかいな奴らに殺されるかもしれない……。
もちろん、きみには迷惑はかけないよ。
これから、何とか奴らのところに行って、何とかならないか、話し合ってくるよ。
これまで、ありがとう。これまでのきみの親切は忘れないよ」
と、うその涙を浮かべていうのでした。
「どこへいくの、ちょっとまって、この首飾りで何かたしにならないかしら」
年上の女は、それまで首にかけていた素晴らしい首飾りをいい加減な男に差し出しました。首飾りは年上の女の母の形見の大事な品でした。
「いや、これは、きみが大切にしていたものだろう。自分で何とかするよ」
「いえ、いいの。母が何かあったときは、そのために使えって。その時よ。持っていって」
と年上の女は首飾りをいい加減な男に渡したのでした。
いい加減な男は、申し訳なさそうに首飾りを受け取り出ていきました。手にした首飾りはそれはそれは素晴らしいものでした。
いい加減な男は、首飾りで幾許かの金を得て、悪所で遊ぶつもりだったのですが、別のことを思いつきました。
最近、気になりはじめた髪の長い女に贈ろう。彼女はこれに心が動かされるだろうと。
髪の長い女に行き、いい加減な男は
「きみへの贈り物だ。街でこれを見かけて、これは君の胸元にあるべきものだと思ったのだ。しかし、高価でなかなか手が出ない。一所懸命働いて、やっと手に入れることが出来たんだよ。どうか受け取って欲しい」と適当なことをいったのでした。
髪の長い女は、首飾りが一目で気に入り、いい加減な男に微笑んだのでした。
ある日、髪の長い女といい加減な男が連れ立って歩いていると、
年上の女が二人に出会いました。いい加減な男の傍らの女が、自分の首飾りをしているのを見つけました。
「あなた、その首飾りは私のものよ、返して」
「何を言っているの、これは、彼が一生懸命に働いて、私のために贈ってくれたものよ」
「元々私のものよ、この男に騙されて、巻き上げられたのよ」
「そんなこと、知らないわ。これはもう私のものよ」
「この、嘘つき男! どうしてくれるのよ」
年上の女と髪の長い女はいい加減な男を間に、首飾りの取り合いをはじめました。
そこに、集落の長がやってきて納めようとします。
「これこれ、その首飾りは、元々は年上の女のものである。髪の長い女よ、返してあげなさい」
そこに、知恵のある男がやってきてこう言います。
「いや、これが年上の女のものとは確かな証がない、男から贈られたのだから、髪の長い女のものだ」
そこに、老婆がやってきてこう言うのです。
「そもそも、騙した男が悪い。男が首飾りを取り戻して、年上の女に返してやりなさい」
そこに、生意気な男がやってきてこう言うのです。
「いやいや、騙されても、一度手を離れたものは、もう年上の女のものではないのだよ」
と、言い合いがはじまりました。
と、そこへ、一人の呪術師がやってきました。
呪術師は呪文を唱え、魔法をかける者です。
呪術師は、騒ぎの中に入り、髪の長い女の傍らに立つと、ある呪文を唱えました。
すると、騒ぎはするすると収まり、年上の女は黙り、いい加減な男は顔を伏せ、髪の長い女は笑顔になったのです。そして、口々にいっていた人たちもうなずくのでした。
呪術師はこんな呪文をいったのです。
「……」
幼い頃、忍術とか魔術が使えたならと思ったものだ。
しかし、手で印を結び「えい!」と気合いをかけても、テレビの中の忍者のように姿が消えることはなく、
「テクマクマヤコン」と唱えても、なにも起こらない。
幼くして、苦い現実を知ったのである。
長じて、どうにもそのような魔術的なお話が好きになってしまった。
例えば、アメリカのドラマの「チャームド」。いい歳をして熱心に見てしまった。
魔女の三姉妹が現実の生活と魔法の世界の狭間で生き抜く、現代的ファンタジーである。
長女は蠱惑的で、次女はしっかり者、三女は奔放と、魅力的な三姉妹の活躍に心躍らせたものだ。
彼女たちは魔女なのでもちろん魔法を使う。
魔法のほとんどは、呪文を作り、唱えるものだった。
「愛と精霊の名において、禍をもたらすものは元の世界に帰れ」とか。
この呪文、私が唱えても、何も起きないが、彼女たちが唱えると威力を発揮するのである。
そう、呪文は相手を間違えず、唱えるに適した人が唱えると、効力を発揮するのである。
チャームドの三姉妹が活躍するのは、ファンタジーの世界だ。
実際に魔法も魔術もなく、力を秘めた呪文はない。
と認めるのが、大人である。
が、それは間違っていた。
魔法や魔術はないかもしれないが、呪文はあった。
呪文はあるどころではなく、溢れていた。
そして、その呪文は、密かに生活の隅々まで行き渡っていたのである。
いや、密かにではない、公に、堂々と、もう開けっぴろげにである。
が、私たちは知らない、少なくとも私は知らなかった。
呪文に溢れ、その呪文は、時と場合によって、とても恐ろしい効力を発揮することを。
呪文は、それを聞いても何を意味するのか、わからない。
「テクマクマヤコン」は、何のことか、さっぱりわからない。
「愛と精霊の名において、禍をもたらすものは元の世界に帰れ」と唱えられても、愛と精霊って何? 禍をもたらすものとは何? 元の世界ってどこよ? どうやって帰るの? と疑問だらけだ。
私たちの世界にある呪文も同じように、何を意味するのかわからない。
例えば、
「ただし、善意の第三者には対抗できない」
というのがある。
知らないものがこれを読んだら、
「でも、私のことをいいとか良いと思っている人がいたら、その人には敵わないというか、参ってしまうというか、どうにでもしてとなってしまうのです、うふふ」
と思うだろう。
しかし、意味は全然違うのである。
それはもう、ビックリするくらい違う。
この不思議な呪文のことを、一般には
法律
という。
天狼院書店の法学ゼミを受け、真面目に法文を読んで知ったのである。
法律の文章、法文は呪文である、と。
法文は、日本語で書かれているから、もちろん読める。
読めるのに、意味がわからない。
意味を教えてもらっても、で、どういうことと、さらに謎は深まるのである。
面白い。わからないから、もっと知りたくなる。
法律って、これほど謎に満ち、楽しいものだったのか。
「善意の第三者には、対抗できないのであれば、悪意の第三者には対抗できるのか」
「善意と悪意は、どう見極めるのだ」
……
生活の隅々まで法律で満ちている。
それを知っていると知らないでは、魔法を使えるかどうか程に違うのではないか。
そして、法律という呪文は、謎が多い。一つ解けても、次の謎が待っている。
深まる謎を、法学ゼミで追いかけてゆこう。
呪文がとけるまで。
悔しがる年上の女の傍らに、別の呪術師がやってきて囁いたのです。
「私が取り戻してあげましょう」
新たに現れた呪術師はある呪文を唱えました。
するとどうでしょう、
首飾りを手に喜んでいた髪の長い女の顔が、みるみる青ざめるではありませんか。
髪の長い女の傍らにいた呪術師は、別の呪文を投げかけます。
そして……
このお話の結末は、おそらく天狼院書店法学ゼミで!
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