この春なにかをはじめるなら
記事:大場理仁(ライティング・ゼミ)
*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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僕の友人に書家さんがいる。よくTVで見るような、大きな筆にたっぷりの墨汁を染み込ませ、勢いよく紙へと落とし、ズルズルとその中で筆を動かし、一つの作品を完成させるようなことを時々だが、やったりするような人である。
芸術の世界とは、どこか素人には入りづらいものだ。
僕には友人の書いた文字が時々読めないことがある。「なんて書いたの?」と聞くのも少し恥ずかしく、ためらってしまうのだが、さりげなく聞いてみると、さらりと当然かのように答えてくれる。そういえば、TVを見ている時も、完成し終わったら拍手が鳴り響き、何を書いたんですかとインタビュアーが聞き、答えられた時に、「おおー」という声がでる。もしかしたら、それが当然だと友人も考えているため、さらりと答えてくれたのかもしれない。どうも素人には難しい世界だ。
だが、習い事レベルであれば、すごく敷居が低い。どこでも書道教室はあるし、絵画教室もあるし、何だってある。僕も幼稚園生の時から、母に連れられて書道教室に通っていたから、そんなに入りづらい感じはない。今や習い事で通信講座もあったり、YouTubeなどでの無料動画レクチャーなどもあるため、少しかじる程度ならば、すごく始めやすいと思う。だけれども、プロとなると少し違う。おおよそ7年間、書道をしてきても書家さんの文字は理解することすらできない。
きっと、アマチュアとプロでは世界が全く違うのだろう。
「かくかくしかじか」という漫画があるが、まさしくアマチュアの世界で褒められてきた高校生の主人公が、プロの世界である美術大学に入るために奮闘するというのが、一番初めのストーリーとして書かれてある。高校の先生から褒められるくらいの絵は描くことができる。だけれども、美術大学に行けるほどの絵の力はない。美大といえば、どこか芸術的でおしゃれな感じもするかもしれないが、絵というものを学ぶという目的のために、何年も浪人する人がいるほど厳しい世界なのである。年齢が違っていて当たり前の世界だ。しかも、就職もそんなに上手くいくような学問領域でもない。実は、僕の友人である書家さんも今に至るまで苦労をされてきた人である。そんな世界に主人公が入るために出会うのが日高先生である。先生はスパルタで生徒たちを教えていく。それに耐え抜いた末に、美大に行くことが叶うのである。ネタバレにならないように、できるだけ話の内容が入らないようにしたいのだが、その先生がひたすら言い続けたことは「描け」という一言だった。ひたすら手を動かし続けて、誰よりも描き続けたからプロになれるのでしょう。だから、アマチュアで”自分の好きなものを好きなときに”というのでは追い越せない壁があるのだろう。それを越すためには何よりも手を動かすしかないのかもしれない。
この話は芸術の話に限ったことではなく、どんなことだって、そうではないだろうか。何かを極めるというのは、並大抵のことではできないはずだ。
スポーツだって、学問だって、何だってそうであるはずだ。楽しむくらいなら誰だってできるが、一つ先の世界へ行こうと思ったら、急に大きな壁が立ちはだかる。
それはきっと僕が今ここに文章を書いているのも同じである。僕がプロとして一冊の本を作るとなったら、今の力では無理だろうし、クライアントの希望に沿ったものを作るというのもきっとうまくいかないだろう。それはプロではないからである。アマチュアとプロの壁は果てしなく大きい。
天狼院ライティングゼミに入るときに、極意を教われば、すぐにいろいろなことがプロのように書けるのではないかと期待していた。だけれども、その期待は見当違いだったのかもしれない。店主である三浦さんが教えてくださったのは、絵画で大きなキャンバスに向かったときに、どう構図をとって、どんな気持ちを持って、どう筆を握るかといった、書くための土台となるようなことだった。プロの方も参加しているという話があったが、もしかしたら、この土台が少し崩れてしまい、それを治すために参加されているのかもしれない。野球で例えるならば、いいフォームでなければ、いい球は投げられない。そのフォームを三浦さんが教えてくださっていたということだろう。その土台をもとにして自分の表現力を使って、一つの作品を作っていくということだ。ただ、自分の表現力をどうするかということは自分しか変えることはできない。
だから、「書く」しかないのである。ライティングゼミでは毎週1回、書いたものを提出することになっていた。もちろん、参加者さんの中で提出していない人もいたし、自分も提出できなかったこともあった。だが、毎回提出されている人は明らかに上達しているのである。きっと、書くしかないのである。
絵のデッサンをするときに、様々な石膏像を見ながら、書いていき腕を上げていくのと同じように、色々なプロの文章を読んで、それを少しずつでもいいから自分の文章に取り込んでいかなければ、きっとプロにはなれないのだろう。そして、ときに書くことが嫌になる時があっても、書き続けるという選択をすることでプロという世界に近づいていくのだろうと思う。
きっと、ライティングゼミは習い事のように学ぶこともできる。だけれども、プロになりたいと思う人もそこで学ぶことは多いのだと思う。何かを書きたいと思う人には、書き始めるための土台を作ってもらえるだろうし、書けなくなった人には、土台を作り直してもらえる。何を書けばいいか、わからなくなってしまった人には、書けという言葉をもらえる。
この春なにかを始めたいなら、そのなにかにライティングゼミ2.0をオススメしたい。きっと、書くことによって得られる、人生にとって大切なものが手に入るから。
追伸
漫画「かくかくしかじか」も素敵な作品なので、オススメです。
そして、ライティングゼミ1.0の4か月間、ありがとうございました。
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*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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