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メディアグランプリ

何故 春画に女性が魅入るのか?


武田さま

記事:たけちゃん(ライティング・ゼミ)

 

「只今、入館まで1時間待ちになっております」

拡声器を通した女性の係員の声が聞こえてきた。

 

「えぇ! 1時間も待つの?」

栄太は、正門から続く細い道を歩きながら、顔をこちらに向け、嫌そうな顔をした。

週明けの月曜日の11時。オープンしてまだ1時間しか経っていない。なのに、受付の場所まで30人ぐらいは並んでいる。さらに、そこから美術館の中に続く人の波。どうしてこんなに混んでいるのか全く分からない。

 

先週、ウェブサイトで、春画展の案内を見つけた。

そこには、昨年の大英博物館で開催された「SHUNGA展」の感動を日本で!

と書かれていた。

 

でも、インターネット上で他の記事を読んでいると

テーマが、春画という非常に扱いにくく、デリケートなものであるため、大きな美術館は軒並み消極的であり、そのため、なかなか場所が決まらず、ようやく小さな美術館で開催できる運びになったみたいなことが、書かれていた。

 

そんな前情報をゲットしていたので、まさか、こんなに混んでいるとは思わなかった。

それよりも、なによりも、私を驚かしたのは、並んでいる人の殆どが女性だということだ。

平日の朝ということもあるが、8割は女性である。おまけに、その3割ぐらいは、どう見ても、20~30歳代。

 

眼を疑う光景がそこにはあった。

 

だいたい、展示されているものは、春画である。芸術と言えば、芸術ではあるが、自分の中では、エロ的な部分も結構あり、男性客が多いものだと勝手に思い込んでいた。

 

だから、大学時代の友人の栄太に声をかけた時も、珍しいもの見たさが優先されていたような気がする。でも、実際はこの状況である。何かしっくりこないまま、少し歩いては止まり、少し歩いては止まりを繰り返して、1時間後ようやく入口にたどりついた。

 

もともと小さな美術館なので、館内もそれほど広くなく、絵の前に3重の人垣が出来ているので、反対側の絵を見ている人と背中同士がぶつかった。

 

そんな中をもがきながら、1点、1点、絵を見ていく。

春画とはいえ、浮世絵の一種。作者も葛飾北斎、喜多川歌麿など、浮世絵をあまり知らない人でも聞いたことがある名前が続いていく。絵の構図、色合い共に素晴らしい。髪の毛一本まで細かく刷られた様子を見ると、思わず凄いと声に出てしまう。

だけど、全体を眺めると春画なのである。そこに描かれているのは、男と女がもつれ合いながら、愛を確かめ合う姿なのである。週刊誌っぽく言えば、SEXの描写なのだ。

 

そんなことを考えながら、絵を見ていると

すぅ~と横や後ろから何とも言えない香水の匂いがしてきた。私は、自分の周りが女性だらけであることに改めて気付いた。そして、そのことが気になりだすと、その絵の中で繰りひろげられている姿を凝視していることが妙に恥ずかしくなり、目のやり場に困り、視点があちこちと泳ぎ始めた。何とかしないといけない。そう思い、隣の栄太の顔を観ると同じように視点があちこち泳いでいるのが解った。

 

しばらく進むと、今度は、左斜め後ろから、

 

「こんな恰好は、絶対できないよね!」

「無理! 無理!」

「右足はここまで上がるけど、左足はこんな風にはならないよ!」

 

と、女性の声が聞こえてきた。

 

「マジ、そんなこと言うの!」

 

ビックリした私は、斜め後ろをそっと振り返った。

 

そこには、見るからに女子大生風の女性3人。

ひとりは、ワンピース、後の二人は、パンツスーツ姿である。持っているカバンは、確か娘の洋香が、この間、TVで芸能人が持っているのを見て言っていた、イタリア製のブランドのはずだ。3人ともファッション雑誌から出てきたような格好だ。おまけに一人は、顔立ちが整い、美形で、モデルかと思うくらいである。

 

この3人、私の斜め後ろに陣取り、ずっと着いてくる。チラリ、チラリと右斜め後ろを見ながら、勝手に私が思いこんでいたのだが、そして、次の絵のところにくるとまた聞こえてきた。

 

「これってSM違うの?」

「この縛り方、私聞いたことがある」

「あんなものまで使ってる!」

 

かわいらしい、少しかすれた声で話している。

 

次の絵のところにうつるとまた、

 

「こんな蛸とからみあうの?」

「にゅるにゅるして、気持ち悪い!」

「でも、けっこう気持ち良いって言うよ!」

 

今度は、蛸の姿にテンションが上がったのか声がやたら大きい。

そのあまりの大きさに近くにいた白髪のお爺さんや60歳代の夫婦も後ろを振り返った。けど、その3人組は、別に気にする様子もなく、ひそひそと話を続けている。

 

その後も、絵が変わるごとに取りようによっては、ちょっと、いや、随分、卑猥な言葉が飛び交っていた。そうするうちに今度は、右斜め後ろだけでなく、左横からもそんな声が聞こえてきた。私は、意識が聞こえてくる声に向いてしまい、絵に集中できなくなっていた。左横から聞こえてくる声の方をチラリと見た。さらに、斜め左後ろからも声が聞こえてきたので、そちらも振り返ってチラリと見た。

 

後になって考えると明らかに挙動不審の中年男である。おまけに絵の方は、声が気になりだしてからは、完全に記憶から抜け落ちてしまっていた。

 

そんな挙動不審男は、人に揉まれながら、ようやっと出口にたどりついた。

時間は、入館してから2時間が経っていた。少し離れて、栄太も疲れた顔をして出てきた。

 

栄太に後ろの女性の声の話をすると彼もそれが気になって絵の鑑賞どころではなかったらしい。そして、二人して意見を同じくしたのは、その声の主である女子大生風の女性たちのあっけらかんとした明るさであった。いやらしさも感じず、さわやかささえ感じた。

 

性に対する捉え方がここまで変わったのかと二人して、自分たちの年齢を感じ、逆にその女性たちこそ、本来、人間が持ち合わせていた性に対する解放感を取り戻しつつあるのではないかと勝手に納得しながら、女性係員の「ありがとうございました!」という何故か知らないけど妙に無機質に感じた声を聞きながら、正門を後にした。
 

***
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2016-05-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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