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君の世界に朝が来る

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記事:斧田 唄雨さま(ライティング・ゼミ)

ねぇねぇ、星ってさ、消滅前に大爆発するらしいね。
スーパーノヴァっていうんだっけ?
見たことはないけれど、たぶん今の君みたいなんだろうと思う。

劇場は夜。アイドルは星だ。
人工的な暗闇の中で、今、一際輝いているのは君だった。
ボタン電池で光る棒なんかより、君の方が断然眩しい。
終わりのときを前にさらに綺麗になっていく君を、僕はただ惨めに見つめている。

渡辺美優紀というアイドルが、もうすぐ5年の活動に幕を下ろす。
5年って長いようで短くて、結局君は最初から最後まで、なんだかよくわからない女の子だった。

はじめは君のことなんか全然好きじゃなかった。
目がとろんと垂れた笑顔。焦らすようなテンポで紡がれる関西弁。舌足らずな声。
握手会で、SNSで、男心を擽る発言を繰り返し、餌を撒いて獲物を釣り上げるようにファンを増やしていく様から、「釣り師」と呼ばれるようになった。
“あざとい”を地で行く計算高さが好きになれなかった。
お風呂に入ることを「ちゃぷちゃぷする」なんて表現する女の子には、警戒心しか抱かなかったのに。

ダンスが綺麗だ、と思ったのがきっかけだったかもしれない。
たまたま音楽番組を見ていて、ふと目についたのが君だった。
がむしゃらに激しく踊るわけではないのに、動きは軽快でキレがあって、複雑な動きも軽々とこなしてしまう。
何より動きに表情があった。可愛い曲もかっこいい曲も、よく似合うと思った。切ない曲では切なく、元気な曲では元気に、君は歌い踊った。
パフォーマンスにいつもの甘さはない。指先一つ動かすだけの動作にも媚びない美しさがあった。

君は何者だ?
甘ったるい君と、凛とした君、どっちが本当の君なんだ?
今思えば、知りたいと思ってしまった時点で既に君の罠にかかっていたんだろう。
今日だって君は舞台の上で隙を見つけては投げキッスを振りまき、かと思えばしゃんと背筋を伸ばして華麗に踊る。
卒業コンサートじゃなくったって、いつも君が主役だった。
ずっと君ばかり見ていた。

必死で背伸びをして、あるときは背の高い同志の肩越しに、あるときはペンライトとペンライトの隙間から君の笑顔を覗き見る。
君を見つめるためにここにいるのに、なぜか少しだけ、いけないことをしている気になった。
決して目が合うことはないと思っていたけれど、君はこちらの視線にしっかり気づいて、指を差して笑う。
どんなに構えていてもするりと懐に忍び込まれる感じ。そういうとこ、ほんと嫌い。
君は笑うと、半月型の目がたれて、いつかとろけてなくなっちゃいそうだよね。
間違いなく、世界で一番甘ったるい笑顔の女の子だ。

セットリストの最後の曲は、明るい青春のラブソングだった。

楽しさの余韻を残して、もうすぐ君は舞台を降りる。
スーパーノヴァなんて大袈裟に言ったけど、君はこの世から消えてしまうわけじゃなくて、ただ見えなくなるだけなんだ。
ちょうど昼間の星のように。

公演が終わり、劇場に作られた夜が明ければ、君の笑顔は見えなくなってしまう。
もし君が近くにいても、きっと気づかずに通りすぎてしまうのだろう。それは、君に会えないよりもっとずっと悲しいこと。
アイドルだった君を忘れることはない。
けれど、ただの一ファンにアイドルでなくなる君を好きでいる資格は、たぶんない。
これからの君を支えてくれるのはアイドルのファンではなく、君自身を大切に思う誰かなのだろう。

不思議と悔しさはない。
アイドルを推すってきっとそういうことだ。
いくら「会いに行ける」と冠をつけられたところで、君の恋人にも友達にもなれない。舞台の上で、テレビの中で、輝く君をこっそり覗き見しているだけの存在だ。
もうすぐ卒業する君に、行かないでと引き留める権利もないのに、その手に触れられたって意味がない。
夜が朝になるように、公演は終幕を迎えるし、アイドルは卒業する。
好きになった瞬間から卒業のカウントダウンは始まっている。
だからアイドルなんか好きになりたくなかったんだ。
大好きとかありがとうとか無責任に笑顔を振り撒いておいて、みんな卒業していく。

それでも好きになったんだから、しょうがないじゃないか。

曲の終わりが近い。
ありったけの声で君の名を呼んだ。
全力で手を振った。
今までありがとう、と叫んだ。
この声は届くかな。届かなくてもいいけど、せめて知っておいてほしいな。これだけ愛されていたんだと、覚えておいてほしいな。
お守りがわりに持って行ってほしい。

嬉しそうに愛おしそうに、目を細め、深くお辞儀をした。
君の世界にもうすぐ朝が来る。
なのに、拍手がいつまでも鳴り止まない。
まるで一秒でも長く、君を夜につなぎとめようとするかのように。
 

***
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2016-07-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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