僕は、いつ、手を握ればいいのでしょうか?
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記事:西部直樹(ライティング・ゼミ)
マニュアルに頼ってはいけない。
マニュアルや経験談を鵜呑みしてはいけない。
マニュアルは、原則、一般化された、最大公約数でしかないのだ。
経験談は、個別のことであり、その人の経験、その人だけのことなのだ。
最大公約数を狙っても、個人の経験を当てはめても駄目だということだ。
どうしてか、それは、目の前にある問題は、一般化できるものではないからだ。
そして、他人の経験は当てはまらないからだ。
その場で、即興で、当意即妙に、臨機応変に行くしかないのだ。
そして、これからのことなのだから、自分を押し出してゆけ。
それだよ。
何を言っているのよ。
だから、駄目なのよ。
マニュアルにしろ、個人の経験にしろ、その本質を捕まえてこそ、使いでがあるというものよ。
どのようにすればいいのか、それが書いてあるのが、マニュアルよ。
なにも知識なくされても、困るだけよ。
マニュアルの個別の事柄にとらわれていては、ダメよ。
その本質を観るのよ。
そして、個人の経験談からは、一般化できる法則を見つけ出すのよ。
個別を普遍に置換していくのよ。
何より、マニュアルは最大公約数だから、外れることは少ないはず。
失敗は後を引くからね。
個人の経験は、何よりの生の情報なのよ。
それを活かさない手はない。
即興で、臨機応変にできないから、マニュアルができたのじゃない。
それを、当意即妙にせよ、というのは酷なことよ。
二人の話を聞いていた青年は、二人を見比べ、眉間にシワを寄せていた。
華奢で可憐な彼女が二人の話に割ってはいる。
「二人の話を聞いていると、どっちも説得力ありますねえ」
と、持ち上げる。
「で、どうするの」と
友人と妖艶な人妻は、眉間にシワを寄せている青年に迫る。
「どうするといわれても……」ますますシワが深くなる。
下北沢の古着屋の二階にある居酒屋である。
眉間にシワを寄せている青年は華奢で可憐な彼女の弟の友達だ。
彼は華奢で可憐な彼女に相談をしてきたのだ。
「好きな人と、はじめてデートらしきことができる。しかし、いままで彼女ができたことがない。どうしたらいいのでしょうか」と。
純朴そうな青年の困惑を見かねて、華奢で可憐な彼女が私たちのところへ連れてきたのだ。私より経験豊富な人たちから、アドバイスをもらうといいよと。
アルコールを飲んでも咎められない年齢になったばかり、という青年は
下北沢の居酒屋に一冊の本を持ってやってきた。
「失敗しないデートマニュアル 完璧編」
年上の女性を好きになり、運良く、次の休みに出かけることになったという。
そこで、「失敗しないデートマニュアル 完璧編」だ。
しかし、マニュアルを読めば読むほど分からない、というのだ。
待ち合わせは、少し落ち着いたカフェがいいだろう。例えば……。と載っている。
本が推奨する店で待ち合わせようと思うと、次のところまでがかなり離れてしまう。
映画を見にいくのだが、映画館から離れた場所のカフェで待ち合わせていいものなのだろうか?
青年の悩みに、彼の親世代の我々は、深い溜息をついたのである。
そして、冒頭の友人の言となる。
マニュアルなんて、捨ててしまえと、乱暴な言い方をする友人。
マニュアルの本質をとらえろと、妖艶な人妻は諭す。
しかし、彼の問題、「待ち合わせの場所と次の予定の場所が、遠いがどうしたらいいのか」の答えにはなっていない。
私がとりあえず、応えることにした。
「まあ、待ち合わせは映画館の近くのおしゃれなカフェにするんだな。映画がメインなら、待ち合わせの場所をそれほど凝る必要もないのではないかな。すぐ映画にいけばいいし」
「そのときどきの状況に応じて、臨機応変に対応することだ。素敵なカフェの近くに映画館がないのなら、映画館の近くのカフェを探すというようにな」
したり顔で友人は語る。
「そうよ、待ち合わせで大事なのは、時間より早く着いても遅くなっても、負担にならない場所、その後を予感させる場所がいいのよ。マニュアルの本質はそこにあるのよ」
端麗な小鼻を少しふくらませて妖艶な人妻は、青年に語る。
「まあ、私だったら、どこでもいいけどな。映画が楽しみだから」
と、無邪気に華奢で可憐な彼女は呟く。
「あ、そうなんですね。わかりました、映画館の近くの適当なカフェを探します。
え~と、あと映画が終わったあとはどうすればいいのですか?
そして、僕は、いつ、彼女の手を握ればいいのでしょう」
まさに愁眉を開いた青年は、眉間のシワはなくなり、笑顔で我々に問いかける。
青年の親世代の我々は、また深い深い溜息をついたのである。
はじめてのデートで手を握る! どんな了見をしているのだ。
そんなのは……
「手を握りたいのか。珍しく肉食系なのか? そんなのは、握りたいときに思い切って握るんだよ」
友人は、青年の肩をビシバシと叩く。
「どのくらいの付き合いの彼女なのか知らないけど、いきなり最初から手を握るのは……。彼女が手を握って欲しそうにしていたら、握ればいいのよ。握るというか、手を繋ぐというか」
妖艶な人妻は、ジンジャーハイボールのグラスを傾ける。
「好きな人が握ってくるなら嬉しい。好きでない人なら、気持ち悪い」
越乃寒梅を聞こし召しはじめた華奢で可憐な彼女は、どこともなく呟く。
「え、そうなんですか。はじめに好きか嫌いか聞いておいた方がいいですかね」
また、眉間にシワを寄せはじめる青年である。
「相手に聞く前に、自分の気持ちを伝えておいた方がいいじゃないか」
と、居酒屋使用のソルティドッグを舐めながら私は青年に諭した。
「そうですね。その方が無難ですね。ああ、でもどういえばいいのかな」
また、眉間のシワを伸ばしたり、シワを寄せたり、青年はせわしない。
「それは、好きです とストレートがいいよ」
友人の言に、他もうなずく。
「じゃあ、ストレートにいって、手を握ってもいいかどうかも聞けばいいのですかね」
と、青年は華奢で可憐な彼女に向かいに座り直した。
「あの、昔から好きでした。今度の映画の解き、手を握ってもいいですか?」
ククク、と笑いはじめたのは妖艶な人妻だ。
友人はあきれ顔をしている。
華奢で可憐な彼女は困惑の表情だ。
「ねえ、あなたのデートの相手は、わたしだったの?
映画って、弟一緒にくのに、私も一緒にいくっていったのでしょう。
まあ、一緒に映画にいくのは変わりないけど……
はっきり言ってくれたから、
ごめんね。私は他に好きな人がいるの。
その人以外の人が手を握ってきたら、気持ち悪と思う。
だから、今度のは、弟と一緒に映画を楽しむ、ってことだけにしましょう」
「君は、デートに相手にデートをどうしようか、相談したのか?」
いささかあきれ顔で私が問う。
「その、デートのことを話し合おうと思ったら、ここに連れてこられてしまって……」
と、眉間にシワを深くして青年は嘆く。
「でも、まあ、他人の前で堂々と告白できるのだから、肝は据わっているな。
これを教訓に次を頑張ればいいんだ」
と、友人は青年の肩を叩く。
「いい人を紹介してあげるわよ」
グラスを掲げて、妖艶な人妻は微笑む。
「じゃあ、まあ、振られたということで、彼の前途に幸あれと、乾杯しましょう」
華奢で可憐な彼女は、晴れやかに宣う。
彼女の左手に、グラスを持とうとした私の右手が触れてしまった。
彼女は私を見て、耳元に口を寄せてきた。
「気持ち悪く……」
「ああ、そうですね、カンパーイ」
青年のやけくそ気味の声に語尾は消えてしまった。
***
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