別れたい理由なんてホントはちゃんとないのかもしれない
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記事: 辰巳葉子さま(ライティング・ゼミ)
「僕についてきてください」
「もっとそばにいてください」
って、聞いたら、私の中のどこか遠くの方でほんの少し胸がキュンとした……。
これはシチュエーションが違えば、きっとときめきのプロポーズのフレーズだよなぁ……なんて思った。
――― なんだか記憶がくすぐられて、そわそわした。
「はーい、ついていきまーす」
今はこんなに簡単に躊躇なく返事ができる。
だって今はサイクリング中。
最近夢中になっているロードバイク。
チームのメンバーと一緒に走っているときに、できるだけ先頭の人との間隔をあけずに走ることで、風の影響を最小限にして走ることができる。
チームワークでコンパクトにまとまって走ることはロードバイクの楽しさの一つでもあるんだ。
****
「僕についてきてください」
このフレーズはプロポーズの時にきいたのと全く同じ言葉だった。
そうだ、あの時耳元で聞いたんだ。
そして、あの時は雨が降っていて、外にいたんだ。
このときは突然のプロポーズで心の準備ができていなかったことと、その時の彼が10歳も年下だったので、結婚というものに現実味がなかったので、曖昧な返事しかできなかった自分がいた。
付き合っているうちは、年の差もあって、はじめて彼と弟がいっぺんにできたような感覚がうまれて楽しかった。ふたりの会話はいつも少し丁寧で、お互いにやわらかい敬語だった。
彼「映画を観に行きましょうか」
私「行きましょう」
彼「寝てましたよ」
私「バレてましたか……」
こんな平和な会話のやりとりで、だんだんと彼のことが好きになった。
恋の駆け引きよりも、仲の良い兄弟のように一緒に遊び、じゃれあって時間を過ごす。
そばにいると安心して、一緒にいるのがあたりまえのように、リラックスできるような関係だった。
年は離れていた私たちは、好きになるときは、ゆっくりと楽しい時間が過ぎていったけれど、別れるときは、一瞬の出来事のように時間が止まってしまっている。
「もう会えない。ごめんなさい」って、携帯から聞こえる彼の声は、私にとっては突然の出来事だった。プロポーズをされてから4ヶ月足らずで、もう、ふたりの関係は終わってしまったのだ。
私は会って話をしたかったけれど、彼はそれも無理らしい。
とてもつらそうな声を絞りだすように「もう会えない」っていった。
どうして、どうしてなんだろうって、考えれば考えるほど、わからなくなった。
いや、実は私には、本当は大きな心当たりがあったのだ。
私は彼よりも10歳も年上だった。結婚することをご両親に反対されたのかもしれない。
彼との年の差は何年たっても縮まらない。
それに彼は猫派で、私は犬派だった。
彼の実家は裕福で、私の実家は貧乏だった。
でも、なんで、どうしてふられちゃうんだろう?
なんでもいいから、ふられる理由が欲しかった。
これが原因で別れるんだよって、自分自身で納得がしたかった。
「わたしが10歳も年上だから?」
「犬好きで猫が苦手だから?」
「よーく見たら、ブスで耐えられなかった?」
「ホントのところは性格が悪すぎて無理?」
なんでもいいから、ここがだめなんだよ!って教えてほしかった。
答えがわからないひとりの思考は堂々巡りで、どんどん悪い方へ転がっていく。
別れることに納得できる言葉が欲しかったけど、この答えはいまだに見つかっていない。
私には自分だけ気がついていない大きな欠点があって、私以外のほかの人はみんな知っているのに教えてもらえないような辛さを感じていた。
ふとした拍子に涙がポロポロこぼれて、自分の悪いところばかり探して、落ち込んで、凹む。
毎日この繰り返しですっかり後ろ向きの性格になっていた。
ふられてから、どれくらいの時間を過ごしてしまったのか……。
私は長い間、大事なものをなくして、心の中に大きな空洞ができた感じがずっと続いている日を過ごしていた。なかなか前向きになれない自分に嫌気がさしつつも、あたらしい恋愛にはかなり臆病になっていた。
もう恋愛なんてしなくてもいいと本気で思っていたし、同じような別れをもう1度したら、それこそ本当に自分が壊れてしまう。なにをしても、愛する人に認められなかった未完成な自分は楽しさや充実感を感じないまま、自分のことを嫌っていた。
それでも、なんとか立ち直ろうとして、自分に自信が持てるように自己啓発の本を読んでみたり、恋愛の本を読んでみたけれど、このときの私を救ってくれるような失恋からの立ち直り方なんて書いてある本は見つからなかった。
自分に自信が持てて、なにか夢中で取り組めることはないかなぁ……って思いながら、時間を無駄に過ごしていた私は、あるとき気がついた。
「そうじゃないんだ! なんでも夢中でやってみて、初めて自分から熱中するから自信がもてるんだ!」ってことがやっとわかった。
ウィンドーショッピングをしていると自分の姿がガラスに映った。
なんだか暗い雰囲気を漂わせている。下を向いてる。肩が落ちてる。
すれ違う人もガッカリしそうなほど、気力がない。
これが今の自分だ。失恋の落ち込みで心もカラダもかなり老け込んでいる自分が映っていた。
このくたびれた姿には、失恋と同じくらいのショックがあった。
いくら落ち込んでも、ふられた事実は変わらないのに、起きた出来事を受け入れられないで、こんなにくたびれちゃった自分がいる。
失恋で干からびて、ぜんぜんつまらなくなった自分がいる。
「あ~っ!! こんな自分は大っ嫌い!!」
ブルブルブルっと頭を横にふると、衝動的に声が出た。
「もう落ち込むのはやめます!!」
「もう理由はいらないです!!」
ガラスに映った私にしっかり聞こえるように、今日までの自分に言いきかせるように大きな声が出た。
新しい自分になるためにできる1番簡単なこと、それはまず、空を見上げ、口角を上げて笑ってみることだった。
そして興味があることに夢中になって熱中してみることだ。
夢中になってやってみると、いろいろ分かってくることがある。
あのときものすごく聞きたかった別れたい理由なんてホントはちゃんとないのかもしれない。
それよりも一緒にいたいっていう気持ちがふっと無くなっちゃったから、説明できないのかもしれない。どっちにしても「終わり」は「終わり」だったんだと思う。
今はもう、あの時の失恋の胸の痛みはなくなってきているけれど、言葉には記憶を呼び戻すチカラが宿っている。
「僕についてきてください」って……
この言葉で胸がキュンとなったプロポーズをなつかしく思い出したサイクリングだったのである。
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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